第4話 3人の決断
「たしかに直接的な敗因は【全世界終末戦争】を撃ち返されたこと。
でも、出された【イースター・エッグ】をすぐに倒してしまった時点で、すでに術中にはまっていたわ。
あのユニットだけでサクヤは4枚もドローしたわけだし」
「圧倒的な手札枚数になってしまいましたよね。
リンも2枚ドローしましたけど、さすがに4枚も引かせるのは危険すぎます」
映像を見ながら、それぞれの意見を述べるステラとクラウディア。
インタビューを受けた日の夜、年少のソニアは眠さに負けてログアウトし、ミッドガルドのコテージに残ったのは女子中学生3人組。
良い機会なので大会の反省会をしようということになり、今はリンVSサクヤの準決勝を振り返っているところだ。
モニターの中では真剣な表情をしたリンが、格上のサクヤに対して果敢に挑んでいる。
本戦の決闘は全てアーカイブが残されているため、こうして後から見て研究することも可能だ。
大会の上位戦ともなれば、アーカイブの再生回数も万単位。自分が戦っている映像を大勢のプレイヤーに見られていると思うと、リンはだんだん恥ずかしくなってくる。
「この試合……あたしは、どうすれば良かったのかな?」
「やっぱり初手に【イースター・エッグ】を倒したのは、まずかったと思います」
「見え見えの罠に手を出してしまった感じね。
せっかく【アルミラージ】と【ストームブリンガー】が手札にあったんだから、あえて攻撃せずに待つという選択もあったはずよ」
「う~~~む……なるほど」
試合中は必死だったので余裕はなかったが、こうして振り返ってみると粗が多い。
実際、サクヤとの戦いで勝敗を分けたのは派手なカードの応酬ではなく、ハイランダーのドロー効果に【イースター・エッグ】を組み込んだ高速エンジン。
結果論とはいえ、それを作動させてしまったのはリン自身である。
「お互いに同じ条件とはいえ、相手がどんなデッキなのかなんて、戦ってみるまで分からないよね。
サクヤさん、ずっと自分のカードを隠してたし」
「私は知ってましたけど、口止めされていたので……ずっと黙っているのは大変でした」
「今回は色々な収穫があったけれど、ステラの口が堅いというのは間違いないわね」
サクヤがメンバーに加わって以降、ステラは一切の秘密を漏らさなかった。そのことに対してクラウディアは高い評価を示す。
仲間の秘密を守るというのは、すなわち人間としての信憑性が高いということ。
今後、大切な案件や相談しにくい問題があった場合、意見を交わす相手として信頼できる。
「これからはサクヤさんも色々なカードを見せてくれると思いますよ。今度のパック開封会にも参加してくれますし」
「それは喜ばしいことだけど……そうなると、いつまでも同じデッキでいるとは限らないわ。
ステラがそうしたように、”手の内を見せていること自体”を武器にしてくる可能性もあるし」
「あれは上手くいったと思ったんですけどね……攻撃が当たらないのは運が悪すぎました」
ステラは自身がハイランダーであることを明かした上で、クラウディアとの対戦時には通常のデッキを使用した。
仲間であるがゆえに、与えた情報を逆手に取ることもできる。
特に相手は知略に長けたサクヤだ。次も同じ条件で戦えるとは思わないほうが良いだろう。
「あたしも、たくさんの人にカードがバレちゃったからなぁ。
世間じゃ【全世界終末戦争】の人みたいになってるし」
「あれだけ撃てば、そうなるわね」
「広まり始めてる二つ名も『大物殺し』だよ? なに、この乱暴な感じ?」
「実際に格上の相手を何人も倒しましたからね。
オルブライトさんがそうしたように、その名前を返上したいならリン自身が大物になるしかありません」
覇者となったオルブライトを『無冠の帝王』と呼ぶ者は、もはや誰もいない。
いつまでも無冠のままではいられないと言っていた彼は、本当に夢を成し遂げたのだ。
「たしかに自分が大物になれば、大物殺しなんて言われない……かぁ。
あたしのほうが格下だから、こんな二つ名になってるんだよね」
「といっても、大物なんて初心者が数ヶ月でなれるものではないわ。これからも経験を積んでいかないと」
「うん、分かってる。実は決めてたことがあってね」
リンは真剣な顔で息を整え――やがて、はっきりとした口調で自身の考えを告げる。
「あたしのデッキ、もういっぺん最初から組み立て直そうと思うんだ」
「えっ!? 最初からですか?」
「うん……頑張って集めたスピノ親分たちだけど、頼りっきりになっちゃってて。
もっといろんなカードとか戦略を経験するべきだと思うし、何より……
この世界であたしを導いてくれた【アルテミス】のこと、活躍させてあげられなかったのが悔しくてさ」
初心者であるリンが強豪たちと互角に戦うには、スピノサウルスの力に頼るしかなかった。
しかし、それゆえ他のカードがおろそかになっていたのは否めない。
クラウディアも思うところがあったらしく、両腕を組みながら静かに言葉をつなげる。
「頂点に立った大団長――オルブライトさんでさえ、デッキを崩すと言っていたわ。
実を言うと、私も【ダイダロス】のことは信頼しているけど、アリサに出し抜かれたのは悔しいのよ。
いい機会だし、リンに付き合ってデッキの大幅な組み直しをしてみようかしら」
「クラウディアも? いいじゃない、一緒にやろうよ!」
「んん~……じゃあ、私も組み直してみます。
ちょうど新しいカードが発売されますし、時期的にはいいですよね」
「あははっ、よかった~! みんなでチャレンジすれば怖いものなしだよね!」
こうして、3人は同時にデッキの組み直しをすることになった。
具体的に何をどう組み直すのかなど、まったく決まっていない。数日後に発売される新しいカードも、彼女たちに変化をもたらすだろう。
プレイヤーが使うデッキは、常に変動するものである。
それによって決闘の環境が大きく変わるのも、カードゲームの醍醐味なのだ。




