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プロローグ

「みんな、お疲れさま」


「「「「「お疲れ様でした~~~~!!」」」」」


 味のしないジュースが入ったコップを掲げるクラウディア。

 その音頭(おんど)に続いて、5人の少年少女がコップを手に乾杯する。

 長かった『ファイターズ・サバイバル』の祝勝会。

 新進気鋭のギルドとなった【鉄血の翼】は3名の選手を本戦まで送り出し、そのうち2名が入賞するという快挙を成し遂げた。


 メンバーたちの笑い声が響いているのは、リンのマイルームである南の小島。

 美しい砂浜と明るい日差しの中、全員が水着になって砂浜でバーベキューを楽しむ。


「本当にお疲れさまでした、リン」


「まったくだよ~、初めてのイベント参加であんなことになるなんて」


「私では倒せなかった相手に勝って、先に進んだというのは悔しいわね」


 語りあうのはギルドの創始メンバーである女子中学生3人。

 可愛らしいフリルが付いた水着を選んだリンと、清楚で控えめな白の水着を選んだステラ。

 クラウディアも白を基調にしているが、セーラー服に似たデザインが海軍っぽくもあり、可愛らしくもある。


「あのアリサっていう子、まだ【エルダーズ】のリーダーを続けてるみたいよ。

 しかも、ギルドへの加入希望者が数百も押し寄せたから、いくつか支部を作って今のギルドを本部にすると聞いたわ。

 それに(ともな)って、レアカードを月に1枚回収するルールも撤廃」


「へぇ~、何があったんだろうね。プロセルピナさんも戻れるといいけど……」


 『ファイターズ・サバイバル』が始まる前と後では、まるで様相が変わってしまった【エルダーズ】。

 詳しいことは分からないが、良い方向に転換してほしいものだと願う。

 リンは戦いの中で相手を打ちのめすこともあるが、あくまでもカードゲームとしての勝負にとどめておきたいのだ。

 プレイヤー同士で憎みあい、潰しあうような戦いは望んでいない。


 と、そこで何かに気付いたステラが口を開く。


「それだけの加入希望があったということは、このギルドも大変だったんじゃないですか?」


「ええ、とんでもない数の通知があったけれど、今のところは全て保留にしているわ。

 こういった形での申請ではなく、あなたたちが加えてほしいと思った人だけ加入を許可しようと思うの」


「まあ、そのほうがいいよね。このギルドのメンバーって、元から関わりあいがあった人たちばかりだし」


 上位入賞者を輩出したギルドに加入申請が押し寄せるのは、ラヴィアンローズの通例である。

 とにかく強いギルドに入りたい、入賞者の戦いを見て憧れた等、理由は様々だ。

 しかし、そのほとんどが一時的な衝動に駆られた申請なため、ギルド側は慎重に応じる必要がある。


「この件については、ユウも相談に乗ってくれて助かったわ」


「え、ウチの兄貴が?」


「無理を言ってサブリーダーに指名させてもらったけど、いい仕事をしているわよ」


 兄がギルドのサブリーダーになったことは知っているが、役に立っているところなどリンは見たことがない。

 当の本人へ目を向けると、まったく似合わない派手なアロハシャツ姿でバーベキューを焼き、大胆なビキニ姿のサクヤとデレデレ赤面しながら語りあっていた。


「あー、あー、鼻の下を伸ばしちゃって。あれでも本当にいい仕事してるの?」


「けっこう気が利くし、信頼もできると思うけれど。

 メンバーのために率先して動いてくれるから、私もありがたいわ」


(しか)り! わたしの【オボロカヅチ】がスタックバーストできるようになったのも、ユウ殿に協力していただいたおかげ!」


 元気な声を響かせながら会話に加わってきたのは、クラウディアの妹であるソニア。

 青と水色が入り交じる海洋迷彩の水着に、大きな水中メガネとシュノーケル、さらには自動小銃型の水鉄砲。

 完璧なフル装備の彼女は、リンのルームで飼っている巨大なスピノサウルスの背に乗って遊泳していた。


「大会の本戦も、私たちの応援席を確保してくれたのはユウさんなんですよ。

 何人ものフレンドに頼み込んで、チケットを手に入れたらしくて」


「マジで?」


 クラウディアに続き、ソニアとステラまで兄に対して好印象。

 よく見れば、現在ユウと話しあっているサクヤも、なにやら笑顔で楽しそうに見える。


「(あれ……? もしかして、兄貴って意外と女子ウケがいいタイプ?)」


 実のところユウは唯一の男子でありながら、女子メンバーたちに一目置かれている功労者だ。

 それを分かっていないのは、皮肉にも血を分けた妹のみ。

 リンは仮想世界の中で、普段は見えない家族の一面を知ることになるのだった。

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