第15話 ようこそマイルームへ
ルームとは、ラヴィアンローズの世界に自室を作る機能である。
建築や拡張にはポイントを必要とするが、極めれば部屋どころか家や城、島ひとつまで作れてしまう。
自分なりのプライベート空間を好きなようにアレンジできるため、かなり沼が深いコンテンツだ。
カードゲームを始めたはずなのに、気付いたら全力で家を建てていたというプレイヤーも少なくない。
「ええーーーーーーっ!?
初心者講習会でもらったパックから★4が出たんですか?」
「分かる。その反応、分かるわ~」
「いや~、ははは……いきなり出てきてビックリしちゃった」
魔女の姿をしたステラという少女と出会った兄妹は、彼女のルームに招かれていた。
そこは木々が茂る森の中。
明るすぎず暗すぎず、森林浴を楽しめそうな静けさに包まれた魔女の館。
ガーデニングで整えられた庭にはガラス細工のように美しい花が咲き、所々に生えたキノコが青白く発光している。
館の内装も魔女らしく、ずらりと並んだ本棚や錬金術で使いそうな器具。
アンティークな机を囲んだ3人の前では、ティーカップに注がれた紅茶が湯気を立てていた。
「ほんと、すごい家だよね。
この森はどこまで続いてるの?」
「ある程度まで進むと、見えない壁があって止まっちゃうんです。
でも、お散歩するくらいなら十分ですよ」
「あそこの家具と、そっちの家具、あとは窓際に置いてあるランプ。
去年のハロウィンイベントでもらえたやつだよな。俺も持ってるぞ」
「そうなんですか! お兄さんはいつから?」
「俺はプレイ歴1年くらい。去年のイースターからだ」
「じゃあ、今年のイースターも参加しましたよね?」
「このワールドのどこかに隠れたヒヨコを探すイベントだろ?
大変だったけど面白かったな~」
なにやらプレイヤー同士でキャッキャと盛り上がり始め、参加できないリンは紅茶をすする。
実際に水分は得られないが、ほどよい暖かさと良い香りを楽しめた。
と、そのとき1匹のネコがトコトコ歩いて室内に入ってくる。
「えっ、ネコも飼えるの? 可愛い~!」
「ああ、その子はカードペットです。
そう見えても宇宙から来たネコで、タイプは【悪魔】なんですよ」
「は……?」
「クトゥルフ神話の【土星猫】だな。
宇宙からの侵略者で、地球のネコと縄張り争いをしてるらしい」
「いや、説明されても理解不能だし!
おおっと!?」
ネコは座っているリンの足に飛び乗ってゴロゴロと甘えてきた。
その体を撫でてみると、本物と同じようなフカフカの毛と体温を感じる。
「うはぁあ~、よしよし、可愛いでちゅね~」
「たぶん大丈夫だと思いますけど……
その子、他の生き物に寄生して融合するので、気をつけてくださいね」
「そんな危険生物なの!?
っていうか、カードペットって何?」
「文字どおり、ユニットをペットに変えてルームに置けるんです」
4周年記念で実装された『カードペットシステム』。
ユニットたちを常時召喚状態にし、触れあうことができてしまうという4周年の目玉だった。
全てのカードに自立AIが搭載されているらしく、まるで本物のペットや相棒のように接してくれる姿に、ユーザーの間では『最高の神アプデ』と評する者も少なくない。
「それって、あたしにも飼えるかな?」
「飼えるが、まず必要なのは召喚用のカードだ。
そして、ルームにしか置けないから自室も要る。
あとは『ミッドガルド』でしか手に入らないクリスタル。これが一番大変だろうな」
「ま~た知らない単語が出てきた……ミッドガルドって?」
「このラヴィアンローズには、普通のRPGと同じように冒険して、野生のモンスターと戦う場所があるんです。
倒すことができれば、ユニットのカードとか、ペット関連のアイテムが手に入るんですよ」
「わぁ~、何それ? 行きたい、行きたい!」
「じゃあ、行ってみます?」
「ミッドガルドか、俺も久々に行きたいところだが……
諸君、ひとつ大事なことを忘れてないか?」
「大事なこと?」
ユウはフフンと笑いながら2人の少女に視線を飛ばす。
「この広いラヴィアンローズの中で、奇跡的にリアルの知り合いと会ったんだぞ。
となれば、やることは決まってるよなぁ!」
「あ……あ~、言いたいことは分かったけど。
そんな、挨拶代わりに戦わなくても」
「私は構いませんよ。
決闘するの、けっこう好きですし」
「そ、そうなの……?」
いつも教室で会うときの彼女がそうであるように、ニコッと笑うステラ。
この少女――本名は寺田すみれ。
言葉遣いからも分かるように礼儀正しく、おとなしくて優しい性格である。
体育の授業では割と活発に動くが、あくまでも一般的な女子中学生の範疇であり、とてもバトルを好むとは思えない。
しかし、ステラはうれしそうな顔で席から立つと、リンにこう言った。
「このルーム、実はバトルフィールドを設置してあるんです。
相手がいなかったから、今まで1回も使ったことがないんですけど。
ふふふっ、無駄にならなくてよかった~」
「やる気、満々じゃん……」
次回から再びデュエル開戦です。
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