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第56話 グランドフィナーレ 前編

 激戦の数々が行われた超満員のスタジアム。

 空に色とりどりの風船が浮かび上がり、華やかな紙吹雪のエフェクトが舞い散る。


 その中心である舞台の上に、リンとサクヤはいた。

 クラウディアは選手が入場する通路の出入り口から、ユウ、ステラ、ソニアは観客席から。

 そして、【エルダーズ】のギルドメンバーたちはモニターの前に集合して、これから行われる閉会式を見守る。


 大会の実況を務めたウェンズデーやコンタローたちは今、それぞれマイクを手に舞台の上でコメントを述べていた。


「半月以上にわたって続いた激戦の日々、本当にお疲れさまでした。

 こうして最後の最後まで残った上位の選手にとっては、本当に長い戦いだったと思います」


「ラヴィアンローズ5周年を迎えるための前夜祭、『ファイターズ・サバイバル』。

 高度なテクニックを駆使した決闘(デュエル)と、こんなに集まってくれたギャラリーのみなさん。

 これから先も頑張っていくための元気が、ぎっしり詰まっているようなイベントだったのだ。

 スタッフを代表して、お礼を申し上げるのだ~!」


「ありがとうございま~す! ゲストの兎美(うさみ)シンシアさんもアイドル活動で忙しい中、閉会式までお付き合いして頂いて感謝です」


「いえいえ、お呼ばれした上に、こんなすごい決闘(デュエル)の数々を見せてもらって。

 シンシアはカードゲームと縁がなかったんですけど、今日だけでも本当に奥深さを感じました」


「今回は大型イベントなので、特に盛り上がった感じなのだ。

 上位入賞者も、じっくりとやり込んだ方から初心者さんまで、独自の戦略で勝ち上がってきた強者(つわもの)ばかり」


 閉会式の場に並ぶのは、この大会の本戦出場者である【サバイバー】の称号を持つ選手たち。

 オルブライトの隣にサクヤ、さらに隣にリン、ギアンサルと続く。


 隣が知り合いなのは安心できるが、リンの横に立っているのは見上げるような大男。彼こそがユニットではないかと見間違えるほど、いかにも物理的に強そうな巨漢である。

 どのように戦うのか見ることはできなかったが、噂によると見た目によらず頭脳派らしい。


「それでは、さっそく表彰式を始めましょう!

 まずは第3位から。大きな体と精密な知略で戦い抜いたギアンサル選手です!

 ユニットの使いかたが上手で、私たちも感心させられてしまいました。

 入賞おめでとうございます。何かコメントをいただけますか~?」


「………………」


 ウェンズデーからマイクを向けられたが、反応せず黙り込む巨漢。

 しばしの沈黙が続き、スタジアムの中も静まり返る。


 これは何かまずい雰囲気なのではと、人々が感じ始めたとき――彼は頭の後ろに手を置いて、顔を赤らめながらニコッと微笑んだ。


「うれしいっす」


 やがて、巻き起こる拍手喝采。

 怖そうな見た目にも関わらず、意外と愛嬌がある人物らしい。


「続いて、同じく第3位。この大会で一番のダークホース!

 始めたばかりの初心者さんにも関わらず、このスタジアムを何度も焼き払いながら奮闘したリン選手!

 ビックリするようなレアカードから、ミッドガルドのモンスター、ポイント交換のカードまで駆使して強敵と互角に戦いました。

 何かコメントをいただけますか?」


「え、あぅ……えっと……あの……!」


 この瞬間、リンは極度の緊張に陥ってしまった。

 何か言うことになるかも知れないと思い、自分なりにコメントを考えていたのだが、大観衆の前でマイクを向けられた途端に全てが吹き飛ぶ。

 言おうと思っていた言葉が出てこなくなり、視界は真っ白になるばかり。


 こんな場所になど縁がなかった中学生。全校生徒の前でスピーチするだけでも緊張するのに、ここは超満員のスタジアム。

 決闘(デュエル)のときには集中できていたが、こんな観衆の前で戦っていたなんて信じられない。

 無理やり声を出そうとしても、焦れば焦るほど頭から言葉が消えていく。


 が――静まり返ったスタジアムの片隅から、聞き覚えのある声が耳に届いた。


「おーい、しっかりしろー!」

「リン殿! ひとまず深呼吸ですぞ!」

「ゆっくりでいいですから、思うままに言ってみてくださーい!」


「(え、今の声って……ひゃっ!?)」


 リンの意識を呼び覚ますかのように、ポンッと背中に当てられた温かいもの。それは隣に立つサクヤが優しく置いた手であった。

 大声を出すことはなかったが、クラウディアも選手の入場口に立って見守ってくれている。


 6人の仲間たちが、この会場にそろっているのだ。

 リンは決して単独(ひとり)でここまで来たわけではない。人とカードに支えられたからこそ、こうして閉会式の舞台に立っている。

 そのことを思い出したとき、ようやく口から自然な言葉が出てきてくれた。


「あ、あたしは……その……みんなも知ってると思いますけど、カードゲームなんてやったことがなかった初心者です。

 まだ全然知らないことばかりだし、ここにいるのも奇跡みたいで……自分が強いだなんて、これっぽっちも思っていません。

 ただ――」


 リンは振り返る。仲間たちとの出会いと冒険、モンスターを倒して入手したミッドガルドの大自然。

 ハルカやサクラバと知り合いになって、カードを譲り受けたときのこと。

 たった2ヶ月半の出来事だが、彼女のデッキは歩んできた日々そのものだった。


「みんなに比べたら期間は短いと思いますけど、あたしのデッキには大事な思い出が詰まっています。

 パックから引いたカード、ミッドガルドで捕まえたカード、人からゆずってもらったカード。

 そのとき一緒にいて、優しくしてくれた人たち。

 すごく大事な思い出を与えてくれたラヴィアンローズの世界が、あたしは……心の底から大好きです!」


 言葉に詰まる部分はあったが、リンは最後に力強く言い切った。

 つたないながらも思いのたけをぶつけるようなコメントに共感し、リンにも盛大な拍手が送られる。

 決闘(デュエル)のときに浴びた喝采とは少し違う感覚。心地よい疲れと共に、やりとげた充実感が体に染み込んでいく。


「良いコメントをいただきました! これからも、ラヴィアンローズを楽しんでくださいね~。

 上位入賞ということで賞品があるのですが――まずは、こちらの映像をご覧ください」


 片手を上げて、パチンと指を鳴らすウェンズデー。

 次の瞬間、モニターの全てに映像が流れ、開発会社である『ウィルズ・カンパニー』のロゴが表示された。


 続いて勇ましい音楽と共に大空が映り、竜に乗った騎士と近代的な戦闘機が高速で飛翔する。

 それらが向かう先には、激しい爆発や魔法が炸裂する戦場が広がり、低い男性の声が響き渡った。


「今こそ目覚めよ、隠されしユニットの力!

 戦いの時代を切り開くのは(いにしえ)の勇者か、新しき星々か。

 ラヴィアンローズ新規追加カードシリーズ、『リミテッド・ユニオン』。

 COMING SOON」


「はーい、ということで! プレイヤーのみなさん、お待たせしました!

 ラヴィアンローズ5周年と共に新規追加シリーズ、『リミテッド・ユニオン』が発売されま~す!」


 映像はCMであり、ウェンズデーの説明が後に続く。

 何事なのかとモニターを見ていた人々は、理解した瞬間に狂喜した。カードゲームにおける醍醐味のひとつ、新しいカードの追加が告知されたのだ。


「発売と使用が解禁されるのは、来月の5周年記念アップデートの日!

 まだ使うことはできないけど……なんと、今回の上位入賞者には賞品として『リミテッド・ユニオン』のボックスをプレゼントしちゃうのだ~!」


「しかも、必ず★3レア以上が1枚確定で当たる特別仕様!

 『最新シリーズ先取りプレミアムボックス』を、3位のおふたりに1箱ずつ!

 そして、銅のトロフィーと30万ポイントも進呈しちゃいま~す!」


「い、いいんですかぁーーーっ!?」


 あまりにも豪華な賞品を渡され、リンは驚愕のあまり手が震えてしまう。

 ポイントも30万という、無駄に浪費しなければ1年は優雅に遊んでいける額。中学生には有り余る資産だ。


「続いて第2位、決勝戦で惜しくも破れたミマサカ・サクヤ選手!

 華麗な戦いから一転、攻め落とすような知略への切り替えが見事でした。

 準優勝、おめでとうございます!」


「えろう、おおきに~。惜しいなんてもんやあらへん。

 知らんカードにやられるなんて、もう負けるべくして負けた感じですわ。

 こうして後輩も勝ち上がってきてますし、うちも気合い入れて修行をやり直します~」


「素晴らしい! さすがは期待の若手プレイヤー、前向きな意識ですね!

 これからも頑張ってほしいサクヤ選手には、先ほどのプレミアムボックスを2つと、銀のトロフィー、さらに50万ポイントが授与されま~す」


「うは~、太っ腹やな~!」


 サクヤが受賞されるのは、これが初めてではない。

 決勝戦では破れてしまったものの、大型イベントの2位という実績を着実に重ねることができた。

 九尾を操る『禍巫女(まがみこ)サクヤ』の名は一段と広まるだろう。惜しみのない拍手が送られる中、ステラは師の躍進を心から祝福していた。


「では、では~、この閉会式も大詰め!

 ファイナリストを発表する前に、こちらの数字をご覧ください!」


 映し出されたのは『1』という数字。

 何も知らない者にとっては、ただの1にしか見えないだろう。

 しかし、会場にいる者たちは『1』という数字が、どれほど偉大なのかを心得ている。


「3856286名の参加者が戦い、半分ずつ減っていったサバイバル。

 その中でも頂点を極めんとする【サバイバー】たちが集結して火花を散らし、先ほど最後のひとりが決まったのだ。

 彼こそが【ラスト・スタンド】! 『ファイターズ・サバイバル』を生き抜いた優勝者、オルブライト選手~!」


 日本ワールド最強というべき英雄の誕生に、プレイヤーたちは盛大に手を叩き、ありったけの声を上げて称える。

 【エルダーズ】の拠点であるコテージも歓声で満たされ、感激のあまり泣き出す者も続出した。


「いや~、すさまじい強さでした。納得の優勝です。

 オルブライト選手、今のお気持ちはどうですか?」


「ああ……ようやくたどり着いたという気分だ。

 見てのとおり、ここに並んでいる者たちのように俺は若くはない。未来の時間も限られている。

 少し強引なやりかたになって申し訳ないが、今回は道を通らせてもらった。

 背中を押してくれた仲間たちにも苦労をかけてしまったな」


「大団長……!」


 かつて彼と共にあった【エルダーズ】のメンバーたちは、涙で視界を濡らしながら中継に見入る。

 無冠のまま終わりたくないという夢のために旅立ったオルブライトが、ようやく想いを成し遂げたのだ。


 その様子と感激にむせび泣く面々を見ながら、満足げにうなずくホクシン。

 彼だけはメンバーたちの邪魔をしないよう、そっとコテージを抜け出して自身の役割を果たしに行く。


 英雄となったオルブライトが今後も(うれ)いなく進んでいくために、ギルドが抱えている問題は今の世代が解決するべきだ。

 21世紀のサムライは、かの少女と会うために意を決して出立した。

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