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第54話 ラスト・スタンド その4

【 サクヤ 】 ライフ:1900

白面金毛はくめんきんもう九尾の狐

 攻撃2700/防御2500


【 オルブライト 】 ライフ:4000

ユニットX

 攻撃????/防御????

 装備:????

 状態異常:毒により次に受けるダメージ+2000

 空に暗雲が立ち込め、決勝戦のフィールドに一閃の落雷が轟く。

 その雷と共に顕現したのは1匹のキツネ。

 三国伝来。アジア圏において最大の知名度を誇る、妖怪の中の大妖怪。


「ケォオオオオオーーーーーーーン!」


Cards―――――――――――――

【 白面金毛(はくめんきんもう)九尾の狐 】

 クラス:スーパーレア★★★★ タイプ:神

 攻撃2700/防御2500

 効果:全てのユニットはステータスの増加と減少が逆になる。

 スタックバースト【傾国】:永続:全てのユニットは攻撃と防御が平均化され、常に同値となる。

――――――――――――――――――


 サクヤが持つ★4スーパーレア、【九尾の狐】が天に向かって吠えると、かき消えるように暗雲が遠ざかっていく。

 悪でありながらも神々しさに満ちた高位の存在。黄金の体毛に9本の尻尾。

 視覚的には他に何もいないフィールドなため、その美しい姿が非常によく目立つ。


「出ました~! サクヤ選手の秘密兵器、【九尾の狐】!

 このユニットがいる限り、強化は弱体化に、弱体化は強化に反転してしまいます!」


 目には目を、非常識には非常識を。

 ステータスを強化させて戦うラヴィアンローズにおいて、戦局を根底から(くつがえ)す大妖怪。


 九尾は寂れた山村になど目もくれない。狙うのは人間が多い場所、いずれも栄えて”食べごろ”になった都市ばかり。

 先ほど戦ったリンがそうであるように、自陣の強化が順調であればあるほど被害は拡大するのだ。


 しかし――


「ほう……良いカードを持っているな」


 そんな驚異を見せつけられたにも関わらず、オルブライトの反応は簡素なものだった。

 大抵のプレイヤーなら九尾を召喚された時点で青ざめ、どうにかできないものかと慌てて手札を確認するだろう。

 4000超えの攻撃力を扱っている以上、何らかのカードで強化していることは容易に想像できる。


 だが、帝王は動かない。

 少し自分の手札を確認した後、再びサクヤの陣営に向き直るのみ。その姿は『かかってこい』とも『何をしても無駄だ』とも取れる。

 オルブライトは寡黙で表情を変えないため、九尾に対して何を思ったのか全く分からない。


「なんや、あんたポーカー強そうやなぁ。せやけど、これでは終わらんで!

 さっき引かせてもろたリンクカードを装備、【コープス・アーマー】!」


Cards―――――――――――――

【 コープス・アーマー 】

 クラス:レア★★★ リンクカード

 効果:装備されたユニットの攻撃と防御-600。

 【タイプ:アンデッド】のユニットに装備された場合、上記効果ではなく攻撃と防御+1000。

 装備しているユニットが破棄されたとき、このカードは所有プレイヤーの手札に戻る。

――――――――――――――――――


 ハイランダーの特殊ルールで引いた装備品。それは赤黒い腐肉のような鎧となり、九尾の全身を覆っていく。

 美しい白面金毛から、まさに妖怪というべき禍々(まがまが)しい姿へ。

 アンデッド以外が装備すると呪いによってステータスは低下してしまうのだが、今はその効果が九尾によって反転する。


「おお~っと! サクヤ選手、これは上手い!

 タイプがアンデッドではないことを利用して、デメリットを利用しました」


「まだまだ、最大火力や! 【ギルタブリル】を指定して、プロジェクトカード【霊魂呪縛】!

 使う対象は――【九尾の狐】!」


Cards―――――――――――――

【 霊魂呪縛 】

 クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード

 効果:破棄された自プレイヤーのユニット1体を指定して発動。

 ターン終了まで目標のユニット1体に、指定した破棄ユニットの攻撃および防御と同数のステータス低下を与える。

 この効果で使用された破棄ユニットは対戦終了まで使用不可になる。

――――――――――――――――――


 続いて発動したプロジェクトも、本来はユニットのステータスを大幅に弱体化させるもの。

 しかし、このカードも反転させれば自軍の強化に利用できる。


「なんと、なんと! 弱体化のカードを重ねることで、一気に大幅な強化を実現しました!

 これで【九尾の狐】は攻撃と防御が5400!」


「さすがは決勝戦、見事なデッキ構築なのだ。

 アンデッドに装備させなければいけない【コープス・アーマー】と、対戦相手に弱体化を与える【霊魂呪縛】。

 普通は使いかたが限られたカードだけど、九尾がいることで多様性が増しているのだ」


「弱体化なのに自分が強くなるなんて、発想自体がすごいですよね……たった1枚の★4だけで、こんなにも戦いかたが変わるんですか」


 九尾が場に出ているかどうかで、カードの扱いまで反転するサクヤのデッキ。

 そのトリッキーな構成だけでも称賛に(あたい)するが、全てのカードが1枚ずつしか入っていないハイランダー。

 高度な知識と戦略で練られたデッキであるがゆえに、このデッキを扱えるのは彼女自身しかいない。


 関西の希望(ホープ)禍巫女(まがみこ)サクヤ。

 高校1年生という若さにして、トッププレイヤーに名を連ねる実力者。


 なんとなく3位になってしまった自分とは違い、本当に強いカードゲーマーがそこにいるのだと。

 リンはモニター越しに彼女の勇姿を見つめながら、ひしひしと実力の差を感じていた。


「サクヤ先輩、すごい……ほんとにすごいよ! なんかもう、見てるだけでゾクゾクする!」


「相手の強化を反転させて追い詰めつつ、自分はあえて弱体化を受けることで力に変える。

 あんな戦略を使いこなせるようになるまで、相当な努力をしてきたに違いないわ。

 本来なら、できたばかりの新規ギルドに来てくれる人じゃない。ステラに感謝しないといけないわね」


 そう言って目を細めるクラウディア。

 人の縁とは異なものだ。兄を探すためにログインしてみたところ、偶然クラスメイトと会うことになったリン。

 そこから縁がつながって、どこにも所属していなかった風来坊のサクヤが加入するという奇跡的な流れ。


 カードだけではない。

 誰かと出会い、それによって何かが変わっていくのもネットゲームの醍醐味。

 まだ初心者気分が抜けきっていないリンにとって、そのひとつひとつが新鮮であった。


「どないや! さすがにポーカーフェイスも続けてられんとちゃうか?」


「うむ、たしかに見事なものだな。キミのような若者を見ていると、また育てる側に戻りたくなってしまうのだが。

 しかし、これは俺が選んだ道だ――通らせてもらうぞ」


 強化効果の反転というハンディキャップを背負いながらも、まるで焦る様子がないオルブライト。

 冷静に迎え撃つ帝王の陣地に向け、サクヤは勢いよく扇子を向ける。


「【九尾の狐】、攻撃宣言!」


「【ユニットX】でガード。発動している【アネモイの祝福】と【霊魂呪縛】を選択。

 カウンターカード、【連鎖崩壊】」


Cards―――――――――――――

【 連鎖崩壊 】

 クラス:アンコモン★★ カウンターカード

 効果:自プレイヤーが発動中のプロジェクトカード1枚を指定。

 指定したカードと共に、対戦相手が発動させたプロジェクトカード1枚を破棄する。

――――――――――――――――――


 オルブライトの陣営から風船が破裂するような音が響き、それはサクヤの陣営にも連鎖する。

 自身のプロジェクトを破棄することによって、相手も巻き込むカウンターカード。


「なっ!? そのためにプロジェクト置いといたんか!」


「ケォオオオオオーーーーーウウ!!」


 高らかに咆哮し、尻尾から9本の光の槍を射出した【九尾の狐】。

 その攻撃力から【ギルタブリル】の呪縛が失われ、3300まで引き下げられてしまう。


 だがしかし、防御したのはサソリの毒を2回も受けた【ユニットX】。

 受けるダメージは合計で5300。

 攻撃力が4000を超えている状態で、そこまで高い防御を両立させる手段は少ない。少ないはずなのだ。


 が――攻撃は完全に防がれた。

 またしても見えない”何か”が障壁となり、光の槍は全て弾かれてしまう。


「うっそやろ……サソリの毒を受けた上で、今のを弾くんかい!

 ほんまに何や……うちは何と戦わされとるんや? 頭ん中、沸いてまうで!」


 これには、さすがにサクヤも歯を噛み締めた。

 見えない、分からない。ただそれだけで、相手の盤上にいるような戦いを強いられる。

 準決勝ではリンが孫悟空、サクヤは全てを手の平で操るお釈迦様だったが、今はサクヤのほうが悟空にされている。


 オルブライトの陣営には1体しかユニットがいないはずなのに、どうすれば倒せるのか検討もつかない。

 いかなる世界でも、上には上はいる。

 それを体現するかのように立ちはだかる帝王は、いまだに1ポイントもライフを削られていなかった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 召喚されたユニットの数なのですが、サクヤは2ターン目に【白面金毛九尾の狐】と【アクア・スライム】の2体を召喚していますが、これだと1ターンに1体しか召喚できないルールを無視していません…
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