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第53話 ラスト・スタンド その3

【 サクヤ 】 ライフ:4000

ギルタブリル

 攻撃2100/防御2300


【 オルブライト 】 ライフ:4000

ユニットX

 攻撃????/防御????

 装備:????

 状態異常:毒により次に受けるダメージ+1000

 人々の声援が鳴り止まない決勝戦、2ターン目の先攻。

 フィールドには【ギルタブリル】というサソリの怪物しかいないが、すでに異様な緊張感に包まれている。


 暗黒街の帝王を思わせるスーツ姿と黒いロングコート。

 二つ名である『無冠』を返上するべく戦いに挑んだオルブライトは、静かな(たたず)まいで攻撃のターンを迎えた。


「まずは、これを使わせてもらう。プロジェクトカード、【アネモイの祝福】」


Cards―――――――――――――

【 アネモイの祝福 】

 クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード

 効果:永続効果。フィールドに存在する【タイプ:飛行】のユニット全てに攻撃+300。

――――――――――――――――――


「飛行? なるほどなぁ、それがタイプか……」


 アネモイとはギリシャ神話に登場する風の神々。

 その祝福を受けた【タイプ:飛行】のユニットは攻撃力が増すのだが、タイプを特定するカードを使ったことで【ユニットX】の情報も明らかになった。

 しかし、ここでサクヤは再び考え込む。


「(そないな情報だけで【タイプ:飛行】と思い込むほど、ウチは甘ないで。

 混乱させるための罠かもしれへん)」


 もし、サクヤが同じように正体不明のユニットを使った場合は、相手を翻弄(ほんろう)するためのカードもデッキに入れるだろう。

 虚偽の情報を信じ込んで飛行特効のユニットでも出してくれれば儲けもの。試合を有利に進められるはずだ。


 ゆえに、サクヤは疑う。

 本当に飛行ユニットなのかもしれないし、違うかもしれない。

 いずれにせよ確実なのは、強化カードを使ってきたということだけ。


「では、【ユニットX】で攻撃宣言」


「【ギルタブリル】でガード!」


 オルブライトは自陣に立ったまま、ほとんど動かずに攻撃の指示を出す。

 対するサクヤは計画どおり、【ギルタブリル】を盾にした。

 結果がどうであれ、ガードの際にもサソリの毒が相手に付与されるので、これが後で効いてくるはずだ。


 見えない何者かによる攻撃は、ゴオッという風切り音と共にサクヤの陣営を薙ぎ払う。

 そして、次の瞬間――


 胴体だけでも5mはあろうかという大サソリが宙に浮き、はるか後方の内壁まで弾き飛ばされて激突。

 客席はシールドで守られているが、付近にいた観客を大いに驚愕させながら粒子と化した。

 想像以上の威力でユニットを吹き飛ばされ、続いて伝えられたウェンズデーの実況でサクヤはようやく相手のステータスを知る。


「強烈な一撃が決まりました~! サクヤ選手、残りライフ1900!」


「痛った! 半分もってかれてしもたやん……」


 【ギルタブリル】はレアユニットらしく、2300という高めの防御力を持つ。

 それを貫通してサクヤに与えられたダメージは2100。

 つまるところ、【ユニットX】の攻撃力は現時点で4400。プレイヤーに直撃していたら即死級のステータスだ。


「(先攻2ターン目で4000超えって……アホか、まったく!

 リンクカードが相当強いんか、ほんまに飛行ユニットでダメージ上乗せされとんのか。

 ヤバい、まったく分からん! なんちゅう試合や!)」


 相手が見えない以上、サクヤは考察しながら戦うしかない。

 一方、オルブライトには全てが見えている。

 その差はあまりにも大きく、すでにライフの数値として表れ始めた。


「俺はターンエンドだ」


「(ん? 追撃がない……?

 うちのフィールドはガラガラや、他のユニットを出せばダメージは通し放題やのに)」


 先攻であるがゆえにオルブライトの手札は3枚。ここで攻撃力の高いユニットを出せばサクヤを仕留めることも可能だ。

 しかし、彼はあっさりと引き下がってターンを終えた。


「(はは~ん……なるほど、やっぱ向こうのデッキはユニットの数を(しぼ)っとる。

 せやから、こういう場面になっても2体目は出せへん。極端なデッキ構成にしたせいで息切れしやすいんや。

 引き直しのルールを利用したデメリットっちゅうわけやな)」


 開始前に何度も引き直しをするほど、オルブライトのデッキにはユニットが少ない。

 無論、彼が何らかのユニットカードを握って待ち構えているという可能性も捨てきれないのだが。

 いずれにせよ、この1戦は経験と洞察力が勝敗を分ける。ほんの少しの読み違いすら許されないだろう。


「うちのターン、ドロー!」


 勢いよくカードを引いたサクヤは、自身の胸がいつになく高鳴っているのを感じた。

 強者との戦いが闘争本能を呼び覚まし、脳から経験と知識の限りを引き出そうとしている。


 これこそが決闘(デュエル)

 己が信じたカードを使い、持てる全てをぶつけあう至高の戦い。


「今の一撃はビビらせてもらいましたわ。

 ほな、うちのほうからもお返しをせんとなぁ――ユニット召喚!」


 最初から4400もの攻撃力を備えているユニットは、ごく一部の例外を除けばいない。

 そして、それらのユニットは自身を透明にする効果など持たない。


 オルブライトが何らかの強化効果を使っていることは確実。

 ならば、サクヤには強力な対抗手段がある。


「いくでぇ、そのデッキ傾かしたる! 【白面金毛(はくめんきんもう)九尾の狐】!」

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