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第50話 再会

 敗退者の待機ルームは地下1階にあった。

 部屋の広さは控室と同じくらい。壁に大型のモニターが設置され、先ほどまでリンが戦っていた舞台の様子が映っている。

 相変わらず軽やかに響くウェンズデーたちの実況。2回もの【全世界終末戦争エンド・オブ・ザ・ワールド】で吹き飛んだ舞台は、いつの間にか修復されているようだ。


 モニター越しとはいえ試合を見られるようになった室内にいるのは、このスタジアムへの入場を果たした選手たちの大半。

 リンが入室するなり、彼らから拍手と祝福の言葉が送られる。


「おめでとう!」

「おめでと~」

「3位、おめでとうございます」


「あ、あわわ……どうも~」


 いきなり拍手で出迎えられたリンは、慌てて笑顔を返す。

 知らない人々から褒められた経験がないため、こういうときは対応に困ってしまう。


 彼女の入賞を(たた)えてくれた者の中には、激戦の末に下した貴公子カインの姿もあった。

 他にも控室から消えていった選手たち。そして――


「おめでとう、リン。今回は先を越されてしまったわね」


「……クラウディア」


 ずっと会いたいと思っていた人物。小柄な中学生ながらも軍服に金髪という、非常に目立つ姿をした少女。

 3回戦で敗退してしまったクラウディアも、拍手を送る者たちの中にいた。


 どんな言葉を交わせばいいのか分からず、湧き上がるような感情に染まっていくリン。

 脳内で考えがまとまる前に、彼女へ向かって体が動く。


「クラウディアーーーーーーーーッ!!」


「え? ちょっと、リン……わぷっ!」


 いてもたってもいられず、クラウディアに抱きついてしまった。

 それは長年離れ離れになっていた者との再会にも見えるが、実際には数時間しか経っていない。

 いきなり抱きあった少女たちの姿に、周囲の面々は驚きながらも苦笑する。


「心配したじゃない、急に消えちゃうんだからっ!」


「この大会はそういうルールでしょ?

 ああもう、恥ずかしいから離れなさい! 他の人もいるのに!」


「うん、うん……とにかく無事で良かったよ。

 あれからどうなっちゃったのか、すごく心配で……」


決闘(デュエル)に負けて、この部屋に来ただけよ。

 すごく悔しい負けかただったけど……安心しなさい、もう2度と同じ手は通用しないわ。

 って、離れなさいっての!」


 顔を赤らめながら訴えるクラウディアだが、無理やり突き放そうとはしない。

 リンの気持ちが落ち着くまで待ってくれているのだ。


 彼女は3回戦でアリサが扱う【ニーズヘッグ】への対応策がなく、敗退してリンたちのところへ戻れなくなった。

 しかし、再びアリサと戦うことがあれば、同じような負けかたはしない。その言葉が悔しまぎれの虚勢ではないことは分かる。


「そういえば、アリサは?」


「ここには来なかったわよ。あれだけ悪役を演じてたのに負けたんじゃ、気まずくて来られないでしょうね。からかえなくて残念だわ」


「そっか……たしかに、いたらいたで気まずいかも」


 この部屋へ来ることは強制ではなく、敗退した選手は自由に行動できるらしい。

 実際、この部屋でアリサと再会していたら、リンも対応に困っていただろう。


 だが、気まずいままで終わるのも良くないと感じる。

 またどこかで戦うことになるかもしれない強者だ。ライバルであっても、恨みや憎しみをぶつける相手にはしたくない。

 リンはすっかり決闘(デュエル)が好きになっていたが、プレイヤー同士で潰しあいたいわけではないのだ。


「やあ、また会ったね。3位入賞おめでとう」


「カインさん!」


 爽やかな顔で祝いの言葉をかけてくれたカインも、そんな強者の1人だった。


「ここで試合を見てたけど、本当にすごいカードを持っているんだね。

 あれを1枚も使わなかったキミに負けるなんて……僕は本当に、まだまだ修行が足りないようだ。

 次に戦うことになったら、よろしく頼むよ」


「は、はい、こちらこそ……お手柔らかに」


 どうにかギリギリ、最後の一手で勝った相手なだけにリンは謙遜(けんそん)してしまう。

 このイベントで強者からも一目置かれる存在になってしまい、実力よりも名声が先走りしてしまったのは恐れ多い。

 本当に修行しなければいけないのは、自分のほうだとリンは心中で言い聞かせていた。


 と、そのとき――


「ああーーっと! 決着、ここで決着です!」


 入賞したリンを皆で(たた)える中、突如として室内に響いたウェンズデーの実況。

 室内の人々が一斉にモニターへ目を向けると、画面の中では巨漢のプレイヤー、ギアンサルという選手がライフを全て失ったところだった。


 対戦相手は、あの男。

 スーツの上からロングコートを羽織い、鋭い眼光でフィールドの上に立つ中年男性。

 かつては強豪ギルドを率いて行進を育て、今は自らの手で栄光を掴むべく、孤独な戦いを始めたひとりの男。


「まったく相手を寄せ付けない、一方的な展開でした!

 残る戦いは、あと1戦! 最強のサバイバーを決めるラストバトルに駒を進めたのは……

 無冠の帝王! オルブライト選手ーーーっ!!」


「大団長……」


 そうつぶやきながら画面を見上げるクラウディアの事情を、リンは少しだけ知っている。

 もちろん、仲間であるサクヤを応援するが、『無冠』であることを脱したいと語っていたオルブライトのことも気になる。

 どちらにも勝って欲しいし、どちらにも負けて欲しくないと。そんな複雑な感情が胸の中で渦巻く。


 それから数分が経ち、入室してきたギアンサルも拍手で皆に祝福された。

 リンと並んで彼も3位入賞。クマのような大男だが、はにかんだ笑みで照れている姿は意外と愛嬌がある。


 そして、大会はついに最後の1戦。

 サクヤ対オルブライトという、強者の中の強者がしのぎを削る最終決戦を迎えたのであった。

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