第49話 挑戦の終わり
「サクヤ先輩、ありがとう。すっごく勉強になる試合だった!」
「リンもほんまによう頑張った。初めてのイベントで3位入賞なんて、華々しいデビューやないか」
握手を交わして健闘を称えあう2人。焼け焦げて崩壊したスタジアムの舞台が、すさまじい激戦の跡を物語っていた。
「3位っていうけど、決定戦はないの?」
「はい、このイベントは3位が2名ですので、リン選手には閉会式まで残って頂きます。
全ての試合が終わるまで、しばらくお休みください」
ウェンズデーの説明にうなずき、リンはようやく初挑戦が終わったのだと実感する。
【集中豪雨】のカードは解除されているはずなのに、観客席から送られるスコールのような歓声はやまない。
ごく普通の女子中学生には、これまで立つことがなかった華やかな大舞台。
リンの自室に体を寝かせたまま、VRの世界で日本の頂点を決めるような戦いに挑んでいたのだ。
「あたしは先に休ませてもらうけど、サクヤ先輩! ここまで来たら優勝しかないよね!」
「もちろんや、あと1勝してトロフィー持ち帰ったる!」
決勝に進出したサクヤにエールを送り、戦いを終えたリンは歓声に手を振りながら退場する。
長かったイベントへの挑戦が終わって、あとは先輩が勝つことを祈りながら閉幕を待つのみ。
通路へ戻ると、スタッフよりも先に見知った顔が待っていてくれた。
その姿を見るだけで思わず笑顔になってしまう、きれいで優しいお姉さんだ。
「お疲れさまでした~。入賞おめでとうございます!」
「ハルカさん! あはは……最後はかっこ悪かったですよね。
やっと出せたネレイスちゃんも、すぐにやられちゃったし」
「いえいえ、あれだけすごい戦いをしただけでも十分ですよ!
使ってるレアカードにも、ビックリしました。前に会った交流会では、あんなもの持ってませんでしたよね?」
「いえ、その……実は交流会の時点で持ってたというか、”あれしか”持ってなかったんです。
どういうわけか、ヤバい感じのレアカードばかり引いちゃいまして。今でもトレードに出せるようなレアは1枚もないんですよね」
「あぁ~……持ってるカードに、まったく無駄がないんですね。
それでトレードに出せなかったと。納得です」
指先を自分の頬に当てながら、ハルカはようやくリンの事情を理解した。
【アルテミス】や【全世界終末戦争】なんて、とてもトレードには出せない。
前者は★4のためトレード不可、後者は何と取り替えればよいのか分からないほど希少な1枚。
「それで不足を埋めるために、ポイント交換のカードまで使って頑張っていたんですね。
カード1枚1枚の使いかたが本当に上手で、何度も拍手してしまいました」
「いや~、全然ですって。こう言うのも何ですけど、運良く勝てた試合ばかりで……
本当に自分の力で勝ったっていう実感よりも先に、どんどん先に進んじゃったんですよね。
こんなあたしが3位になったこと自体、ほんとに夢みたいです」
「実力については、まったく問題ないと思いますよ。試合を見た人たちは、みんなそう思っているはずです。
経験や自信は、これから付けていけばいいことですし。
ともかく、今回は本当にお疲れさまでした。ゆっくり休んでくださいね」
「はいっ、また会えるといいですね。
今回は大会でドタバタしてたから、落ち着いてお話しをしたいです」
「ええ、私も。お仕事が忙しいときでなければ、お付き合いしますよ。
交流会でフレンドになってくれた子がイベントで入賞するなんて、本当にうれしいです!」
「(フレンドになってくれたのは、ハルカさんのほうなのに……やっぱり、いい人だなぁ)」
スタイルが良くて美人なだけでなく、リンの入賞を自分のことのように喜んでくれるハルカ。
こんなお姉さんがいてくれたら毎日が楽しくなりそうだと思うが、どう足掻いてもリンの家族は兄である。
そうしてプレイヤー同士の談話を切り上げ、リンは再び足を進めた。おそらく大会のスタッフが待っているはずだ。
ハルカと別れて通路を歩いていくと、ラヴィアンローズの制服を着た女性が出迎える。
「リン選手、お疲れさまでした。
そして、3位入賞おめでとうございます。
このまま閉会式まで待機して頂きたいのですが、よろしいですか?」
「あ、はい。控室で待っていればいいですか?」
「申し訳ありません。大会のルールにより、控室へ戻れるのは勝利した方のみです。
ですが、敗退した選手の皆さんが待機するフロアへご案内することができますよ。そこでは試合を見ることも可能です」
「そっか、負けたら試合を見てもいいんですね。
って……あの、すみません!」
ここでリンは重要なことを思い出す。ずっと勝ち続けてきたため、敗退した選手がどこへ行ったのかは知らなかった。
居場所が分かるのであれば、真っ先に会いたい人がいるのだ。
「その部屋にクラウディアっていう子、います!?」




