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第48話 リンの挑戦 その11

【 リン 】 ライフ:700

ユニットなし


【 サクヤ 】 ライフ:1200

ユニットなし

「カードの効果によってライフが減り、サクヤ選手の残りライフは1200!

 ですが、決まりました! 【全世界終末戦争エンド・オブ・ザ・ワールド】がえし!

 なんとなんと、あの高火力プロジェクトをコピーして撃ち返したーーーーっ!!」


 まるでプールの中にいるみたいだと、このときリンは思った。

 深い水底へ潜ったときのように、周囲の物音がまるで耳に入ってこない。


 幾度もの歓声に沸いた観客たちは衰えず、準決勝にふさわしい激戦を称賛しながら手に汗を握る。

 お互いに何体もユニットを出して倒しあった結果、なんと両者共にユニットはゼロ。

 ライフも大幅に削れ、2回にわたって全てを焼き尽くしたプロジェクトカードによって、もはや舞台は焦げた瓦礫と化していた。


 そこに相棒である【アルテミス】の姿はない。

 ようやく大舞台で観衆の前に出すことができた女神は、わずか1ターンで姿を消してしまった。

 リンが全てを理解したとき、彼女の心を絶望と呵責(かしゃく)が塗りつぶしていく。


「そんな……【アルテミス】……まだ全然、活躍させてあげられなかったのに」


 自失呆然となる後輩の姿を見つめながら、サクヤはカードの発動を終えて待っている。

 何も行動しない時間が長くなると遅延行為として注意されるのだが、審判(ジャッジ)のウェンズデーから指示がない以上、サクヤは後輩が自分の力で戻ってくるまで待つことにした。

 苛烈な決闘(デュエル)を観戦していたステラも、真面目な表情で静かに言葉を(つむ)ぐ。


「あれがサクヤさんの戦いかた。使えるものは何でも利用して、相手の切り札すら自分のものにする戦法。

 私のデッキは、かなりあの人の影響を受けていると思います」


「ステラもハイランダーだし、相手のカードをコピーする戦法だもんな。

 スタックバーストが使えないのに、ほんとすげえよ」


「スタックバーストは、いわばこのラヴィアンローズにおける必殺技。

 それを封印して、どれだけ強いカードでも1枚しか入れられない。

 なるほど、相手のカードを利用する戦法になるのも不足を補うためでしょうな」


 あの師にして、この弟子あり。

 界隈の中ではハイランダーのほうが少数派なのだが、強く成長して活躍するプレイヤーもいる。

 師の背中を追うステラが、まさにそのひとり。彼女たちがそんな会話をしていると、ようやく舞台のほうで動きがあった。


「そっか……これが【全世界終末戦争エンド・オブ・ザ・ワールド】を撃たれる側の気持ち。

 あたしは今まで撃つだけで、やられた人の痛みを十分に分かってたわけじゃない。

 すごく辛いけど……でも、これは勝負だからね」


「よう、気を持ち直したな。

 うちも修羅場をくぐってるさかい、後輩に先をゆずってやるわけにはいかん。

 勝ちに酔いしれ、ひどい負けにへこまされ、ようやくこの場所におる。

 リンも、これからたくさんのことを重ねていくんやで」


「うん、この大会だけでも頭がいっぱいになるくらい、いろんな人と決闘(デュエル)をしたよ。

 ギルドのみんなと一緒に、もっともっと強くなりたい。

 だから、サクヤ先輩――これからもよろしくね」


「まったく、ええ子やな~。

 いよいよ先輩として、かっこ悪いとこ見せられんようになるわ」


 今から勝敗を決めるというのに、明るい笑顔を交わす2人。

 同じギルドの仲間というのもあるが、ずっと気になっていたサクヤの実力を知ることができて、リンにも良い経験になった。


 真剣勝負を続けていれば、いつかは負けるときも来る。

 いずれ迎えるだろうと思っていた瞬間を、知り合いのサクヤに与えてもらうなら話は早い。

 次に彼女と戦うときには絶対に勝つ。それを目標に頑張れば良いのだ。


「さて、終わりにしよか。降参(サレンダー)は?」


「できれば先輩の手で終わらせてほしいんだけど、いい?」


「よっしゃ、任しとき!」


 全てを使い果たし、力の限りを尽くしたリンは、サクヤに最後の一撃を求めた。

 初めて負ける瞬間を、はっきりと自身の身に刻んでおきたいのだ。


「ほな、いくで! ユニット召喚、【バーゲスト】!」


Cards―――――――――――――

【 バーゲスト 】

 クラス:アンコモン★★ タイプ:悪魔

 攻撃1700/防御1000

 効果:このユニットが破棄されたとき、対戦相手のプレイヤーはランダムで手札を1枚失う。

 スタックバースト【凶兆の黒犬】:瞬間:上記の効果に加えて、対戦相手へ300ダメージを与える。

――――――――――――――――――


「オオオオオオオォーーーーーーーーン!」


 サクヤが燃やしたカードから、悪魔のような黒犬が現れて天に吠える。

 なんとも禍々(まがまが)しく恐ろしい姿の獣だが、兄のユウなら好きそうだとリンは感じた。

 その攻撃力は1700。何をどう頑張っても耐えられない。

 手札にある【アルミラージ】と【ストームブリンガー】があれば防げるが、もはや1ターン遅い。


 実際のところ、【霊魂呪縛】の効果で防御を()がれた【アルテミス】を攻撃するだけでも終わっていた。

 しかし、これは入念に仕込まれた必殺の一撃。先に【アルテミス】を焼き払ってしまうことで、リンに何もさせない状況を作り出したのだ。


「【バーゲスト】、攻撃宣言」


「あたし自身が受けるっ!」


 雨が上がり、晴天が広がるスタジアムの舞台。

 その舞台も今やボロボロになってしまったが、リンは真っ直ぐな眼差しで両手を広げる。


「ゴアアアアアアッ!!」


 そこからは、一瞬の出来事。

 咆哮と共に飛びかかってきた【バーゲスト】は、筋肉が隆起した豪腕を振りながらリンの隣を駆け抜ける。

 目にもとまらぬ一閃。これがカードゲームでなければ、少女の体など凄惨に引き裂かれていただろう。

 ラヴィアンローズの世界には死も苦痛もなく、ダメージは数値となって反映された。


「決着ぅううううう~~~~~! 残りライフ、0対1200!

 今大会最大のダークホース、数々の戦略とカードで奮闘したリン選手、ついに敗退!

 勝者は同じギルドに所属する実力者、ミマサカ・サクヤ選手! 先輩の威厳を見せつけるかのように決勝進出です!」


 スタジアムを覆ったのは、熱せられた油をひっくり返したかのような拍手喝采。

 それは勝者のサクヤと、ここまで大健闘したリンに等しく送られる。

 かくして、彼女の連戦連勝はここでストップ。とうとう敗北を経験することになったが、その心は空に広がる蒼のように爽やかだった。


 兄の様子を見るためにログインしたVRの世界。気付けばリンは大舞台に立ち、多くの人々から注目を浴びるようになっていた。

 このファイターズ・サバイバルという大会も、数あるイベントのひとつでしかない。

 初心者の彼女にとっては、これから知っていくことのほうが多いのだ。

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