表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/297

第14話 ショップへ行こう

「じゃじゃ~ん! どうどう?

 リンちゃん、初心者卒業コーデ!」


「服を着替えただけで初心者卒業できるなら、苦労しねーよなぁ」


 呆れる兄をよそに、リンは買ったばかりの服を披露していた。

 上半身はブレザーでスッキリと整え、下半身は学校の先生に怒られそうな膝上20cm攻め攻めミニスカート。

 露出が多くなってしまった足をニーソックスでカバーし、胸には【アルテミス】のサイバーな蛍光色をイメージしたリボン。


 特にこだわったのが、ゴツゴツのショートブーツである。

 普段から()いていたら重そうだが、この仮想空間では無縁の問題だ。


「汚れとかシワどころか、洗濯もしなくていいなんて!

 VRって、ほんと便利だよね~」


「カードもそうだよな。

 リアルだと傷ついたり曲がったりするけど、ここではその心配もない。

 ……で、その服に一体いくら使った?」


「まだポイントの価値がよく分かってないけど……

 全部合わせて9000ポイントくらいかな」


「十分高けぇよ! つーか、俺の服より高いわ!」


 本来なら長期的にログインと節約を続けて、ようやく買える高級コスチュームだ。

 見た目だけではあるものの、これで初心者を卒業するという意気込みは表明できた。


「さてと……せっかく来たんだし、俺もパックくらい買っていくか」


「カードのパックだね! たしかにそれも欲しい!」


「初心者は多めに買っておいたほうがいいぞ。

 まずは、どんなカードがあるのか知らないとな」


Tips――――――――――――――

【 パック 】

 1パック5枚入り。入っているカードはランダム。

 シリーズごとに追加されてきた『新段(アディショナル)パック』は現時点で15種類。

 そして、全シリーズのカードが入った『統合(インテグレイト)パック』もある。

 いずれもポイントで購入可能。

 なお、★4スーパーレアはシリーズから独立しており、どのパックを買っても一律に当選判定がある。

――――――――――――――――――


 カードゲームというのは、常に新しいカードが増えていく。

 新規のカードはシリーズとしてまとめて追加され、それらはゲームによって『エキスパンション』や『ブースター』と呼称される。

 ラヴィアンローズでは『アディショナル』と名付けられているようだ。


 『新段(アディショナル)パック』は15種類もあり、初心者はどれを買えばいいのか分からない。

 そのため、全シリーズのカードが当たる『統合(インテグレイト)パック』も用意されていた。

 こういった販売方法もVRならではといえるだろう。


 紙を使って印刷する必要がないので、パックの在庫は永久に無限。

 買い占めや転売もなく、ポイントさえあればいくらでも買える。


「ん~……なんだか、パックを開けてもレアが出てこないんだけど」


「そりゃそうだ。このゲームのレアカードは貴重なんだよ。

 開発側が言うには『カードとして、あるべき価値を保持するため』だとか」


「あるべき価値?」


「賛否のある話だが、レアも当たりすぎると感覚が麻痺するらしくてな。

 そのうちレアの中で格差が生まれるようになる。

 当たるとうれしいカードと、そうでもないカードに分けられてしまうんだ。

 そこで、このゲームはレアの入手率を大幅に下げる代わりに、相応の強さを持たせてある」


「たしかに、あたしの【アルテミス】とか、お兄ちゃんの黒い獣は強いよね」


「だろ? このゲームのレア、特にユニットはデッキのシンボルになる。

 レアカードが行き渡らない以上、プレイヤーは持っているものを使い込むしかない。

 それが個性や独創的な戦略になっていくって話だ」


「へぇ~、このゲームを作ったのってアメリカだっけ?

 日本とは、ちょっと感覚が違うね」


「片っ端から手に入れてコンプリートっていう感じじゃないからな。

 海外のカードゲームでは、実際にレアすぎて1枚1000万円の価値が付くこともあるくらいだ」


「たった1枚で1000万円!?

 なにそれ、家とか車が買えちゃうじゃない。

 ……とおおっ!?」


「おっ、何かいいカード引けたか?」


「引いたけど、むぅ~……この効果は……」


Cards―――――――――――――

【 超重鋼タワーシールド 】

 クラス:アンコモン★★ リンクカード

 効果:装備されているユニットに防御+800。装備したユニットは攻撃宣言ができなくなる。

――――――――――――――――――


 リンがパックから引いたのは、防御が800も上がる強力なリンクカード。

 ただし、攻撃ができなくなるというデメリットは無視できない。


「固い……すごく固くなるけど、う~ん……」


「おお~、最近追加されたばかりのカードじゃないか!

 それなら俺が欲しいぞ。【ヘビーナイト】に持たせられるからな」


「そっか、あのユニットは自分からバトルしないもんね」


 ユウが使う【ヘビーナイト】はバトルを行うたびに防御が500も下がるので、基本的に自分からは攻撃しない。

 このリンクカードとの相性は非常に良いといえるだろう。


「たのむ、そのカードをゆずってくれ!」


「どうしよっかな~?

 何かいいカードを出してくれたら、トレードしないこともないけど」


Tips――――――――――――――

【 トレード 】

 プレイヤー間でカードの交換を行うためのシステム。

 レアリティごとに制限があり、★1コモンと★2アンコモンは自由に交換可能。

 ★3レアは★3同士でしか交換できず、やりとりも1枚ずつ。

 ★4以上はトレード不可となっている。

――――――――――――――――――


「一応、こっちの希望を言っておくと、防御を上げられるリンクカードが欲しいんだよね。

 できれば、こういうデメリットがなくて、むしろプラスにしかならないやつ」


「くっ……あれこれ注文を付けやがって!

 でも、そういうことなら良いものがあるぞ。

 男ならコレを使えってくらい、めちゃくちゃかっこいいカードだ」


「あたしが女なの、分かって言ってるよね?」


「まあ、とにかく見てくれ」


 そう言って兄が取り出したのは、リンの希望に沿()う1枚だった。


Cards―――――――――――――

【 バイオニック・アーマー 】

 クラス:アンコモン★★ リンクカード

 効果:装備されているユニットに防御+500。このカードが取り除かれたとき、ターン終了までユニットに攻撃+500。

――――――――――――――――――


「へぇ~、外したときにも効果があるんだ。面白いね!」


「お前なら【極秘輸送任務】とかで、リンクカードを移動させられるだろ?

 これで戦略の幅が広がると思うんだが」


「オーケー! 交渉成立っ!」


「よ~し、思わぬ収穫があったぜ!」


 さっそく2人はコンソールからトレード用のシステム画面を開き、お互いのカードを交換した。

 こうして他のプレイヤーと交流して新しいカードを手に入れるのも、(トレーディング)CG(カードゲーム)の醍醐味だ。


 満足げな顔でトレードしたものを確認をするリンだったが、ふと、そのとき――

 何かに気付いて声を上げる。


「あれ? もしかして、そこの人!」


「え? 真宮さ……あ、えっと……」


「リンだよ、ここではリン」


「私はステラです! わぁ~、こんなところで会うなんて!」


 リンに呼び止められた少女は、魔女の姿をしていた。

 大きな三角の帽子と、黒と紫を基調にした衣装。

 彼女自身のロングヘアも相まって、まさに魔女というしかない風体だ。


「ん? お前の知り合いか?」


「うん、1年生のときから同じクラスの寺田……じゃなくて、ステラ!

 で、こっちはウチのバカ兄貴」


「わわっ、お兄さんですか! は、はじめまして……」


「初対面の相手に、おかしな紹介するなっての!

 ああ、えっと……ユウ……だ、よろしく」


 家族以外の女性と話すのは苦手らしく、どこかぎこちない仕草のユウ。

 ステラのほうも急な顔合わせに戸惑っているようで、このままでは会話が弾みそうになかった。

 というわけで、率先してリンが口を開く。


「ステラも、このゲームを?」


「はい、2年くらいやってます」


「へぇ~っ、あたしは始めたばかりなの」


「え? そんなに高そうな服を着てるのに?」


 言いながら、クラスメイトの服をしげしげと見つめるステラ。

 ついさっきまで初心者ローブだったリンだが、今の服は高級品である。


「あはは、こいつの服には訳があってだな……

 説明するにしても、ショップの中じゃアレだ。

 少し場所を移さないか?」


「そうですね……じゃあ、すぐに買い物を済ませちゃうので。

 よかったら、私のルームに来ませんか?」


「ルーム……?」


 またしても聞き慣れない言葉に、リンはきょとんと首をかしげる。

 ステラが買い物を済ませた後、3人はショップを後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ