表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/297

第46話 リンの挑戦 その9

【 リン 】 ライフ:700

ユニットなし


【 サクヤ 】 ライフ:3400

白面金毛九尾の狐

 攻撃2700(+600)/防御2500(+600)

 かつて、サクヤは言った。このゲームでは倒されてしまったユニットを蘇らせても効果は薄いと。

 そもそもユニットを倒されないようにする戦略が一般的なため、強化効果を失った状態で復活しても後が続かないのだ。


 しかし、ユニットを復活させて使い回すデッキを組むか、あるいは強化効果に頼らない構成にすれば利点は十分にあるだろう。

 また、ユニットによってはフィールドに存在するだけで多大な影響を及ぼすこともある。

 9本の尻尾を揺らす黄金色のキツネは、まさしく居座っているだけで驚異そのものであった。


「ソニアちゃんが使ってた【リザレクション】……そっか、全部つながったよ。サクヤ先輩も持ってたから、あのとき詳しく説明できたんだね」


「驚いたやろ? うちなぁ、このカードが好きなんよ。生も死も等しく扱ってこそ神道――神さんの道ってな」


 再びいつもの明るい顔で笑うサクヤ。【全世界終末戦争エンド・オブ・ザ・ワールド】という強力無比なカードが直撃したにも関わらず、リンは未だに孫悟空の状態から抜け出せていない。

 前のターンから続く怒涛の展開に、実況席に並ぶ面々も感心して(うな)るばかりだった。


「いやはや、今回の大会は想定外のことばかり起こるのだ」


「サクヤ選手、ここで桜の木ではなく九尾を復活させましたが、何か理由があるのでしょうか?」


「たしかに【幽門桜】という選択肢もあったけど、あの効果で英霊として復活できるのは、バトルで倒されたユニットだけ。

 ここで桜を選んでも、プロジェクトカードで破棄された【ギルタブリル】などは復活の対象にならないのだ」


「なるほど~。その点、九尾なら即戦力になりますよね」


 リンも色々と考えながら戦っているが、サクヤは格上の熟練者。焼き払うだけで勝負がつくほど楽な相手ではない。

 【九尾の狐】はユニットの効果も驚異的だが、★4らしく高いステータスで戦闘もこなす。

 しかも、いまだに発動している【集中豪雨】2枚の効果が反転し、攻防600の強化を受けた状態だ。


「やっと倒したと思ったのに、また出てきて……小悪魔、イースターエッグ、今度はそのキツネ!

 サクヤ先輩のデッキ、倒しても倒しても復活するじゃない!」


「そら、しゃーないわ。そういうデッキなんやから」


「また強化が使えないとか、ほんと頭が痛いっての……でも、まだ続けられる!

 これからサクヤ先輩に、あたしの全てをぶつけるからね!」


「おーおー、今のリンが出せる最大限の力をぶつけてみぃ。

 うちも、そろそろ”つまみ食い”は()めたるさかいな」


 ここまでの激闘ですら、つまみ食いでしかないと豪語するサクヤ。

 すさまじく高い壁を見上げながら対峙し、手札に書いてあるカードの効果をしっかりと読み込むリン。


 フィールドに九尾が存在している以上、並のユニットでは相手にならないだろう。

 スピノサウルスが倒され、【全世界終末戦争エンド・オブ・ザ・ワールド】すらも完全に決まらなかった今、彼女に残っているのはこれしかない。


「OK、全力でいくよ! 最初っから全力だけど、その上を超えていく!

 とっておきの切り札――ユニット召喚っ!」


 雨が降りしきる天空に向かって、リンは1枚のカードを(かか)げた。

 刹那、その絵柄から暗雲へと一直線にレーザービームが突き刺さる。

 先ほどの爆発から修復したばかりの雲に、天地をつなげるような光の通路が現れ、空の世界から1体のユニットが舞い降りてきた。

 それはリンが持ちうる最強にして最高レアリティのユニット。


「あたしに力を貸して、【アルテミス】!」


 雲に空いた穴から、月光と共に顕現する美しい女神。

 遥か太古のギリシャから、VRの世界へと光をもたらす弓の名手。

 その矢をもって獣を狩るらんとする【アルテミス】が、大妖怪【九尾の狐】と向かいあうように降り立って人語を発する。


「参りましょう、マスター」


Cards―――――――――――――

【 月機(ルナティック)武神(・ウェポン)アルテミス 】

 クラス:スーパーレア★★★★ タイプ:神

 攻撃2600/防御2600

 効果:リンクカードを何枚でも装備できる。

 スタックバースト【(ハイパー)次元(ディメンジョン)射撃(シュート)】:永続:装備されているリンクカードを1枚破棄するたびに攻撃宣言を追加で1回行う。

――――――――――――――――――


 21世紀らしくサイバーな衣装に銀の髪、完璧な美しさを誇りながらも凛々(りり)しい顔立ち。

 再び空の穴が埋まり、降り出した雨の中で再開される決闘(デュエル)

 観客席にいるギルドメンバーを除き、試合を見ていた全ての者が驚愕で言葉を失っていた。


「な、なんとおおおお! 【アルテミス】、★4スーパーレアの【アルテミス】です!

 一体どれだけ伝説のカードを持っているんでしょうか、リン選手!

 今の今まで、とんでもない切り札を隠していました!」


「まさかの★4対決! 『マスター』が大会の上位にいるのは珍しくないけど、★4を使えば勝てるという保証はまったくないのだ。

 特に【アルテミス】は【九尾の狐】に比べると使いかたが難しい1枚。リン選手の技量が問われるカードなのだ~!」


「この状況では辛いですよね。今はどちらも雨の効果で強化されてますけど」


 弓を構えた聖なる女神と、東洋に混沌をもたらした獣。

 同ギルド対決にして★4対決。夢のような戦いが実現する中、サクヤは頬をつたう雨を指先で払いながら笑う。


「いや~、ステラも大概やけど、おっそろしい後輩やで。

 どないなカードの引きしてデッキを作り上げたんか、めっちゃ気になるわ~」


「まあ……そう思うよね。来たばかりの頃、この女神様を引いてさ。

 あたしのラヴィアンローズは、そのときから始まったんだ」


「いずれ、じっくり聞きたい話やな。

 代わりに、うちはステラが右も左も分からんかった頃のことを話したるさかい」


「それはちょっと、ステラに悪いよ!

 さて……今は雨の効果がプラスになってるから、お互いに攻撃と防御が600ずつアップ。

 ウェンズデーさん、これは『強化効果』っていう扱いでいいの?」


「はい。本来は弱体化ですが、【九尾の狐】の効果で反転しているので強化扱いになります」


「よしっ! それじゃあ、手札からリンクカードを装備! 【ヴァリアブル・ウェポン】!」


Cards―――――――――――――

【 ヴァリアブル・ウェポン 】

 クラス:アンコモン★★ リンクカード

 効果:装備されているユニットが強化効果を受けている場合、その数値を2倍にする。

 1回でもバトルを行うと、その後、このカードは破棄される。

――――――――――――――――――


 審判(ジャッジ)のウェンズデーに確認を取ったリンは、意外な方法でユニットを強化した。

 月の女神を覆っていく、黒い呪術的な魔法の鎧。

 特殊な強化効果ではあるものの条件を満たしており、攻撃と防御を1200ずつ高めている。


「うっは~、そうきたか~! リンもひたすらカード効果のスキマを突いてきおるなぁ」


「あはは……まあね。あたしには経験もカードも足りてないから、いつもギリギリだよ。

 でも、負けが決まるまでは諦めたりしない! そのほうが楽しいじゃない!」


 光の矢をつがえ、今まさに獣を射ようと狙いを定める【アルテミス】。

 リンのカードを全て出し尽くすような激戦は、着実に終焉へ向かって進んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ