第43話 リンの挑戦 その6
【 リン 】 ライフ:4000
アルミラージ
攻撃1600(-4000)/防御900
装備:破滅の剣『ストームブリンガー』
状態異常:毒により次に受けるダメージ+2000
パワード・スピノサウルス
攻撃2000(-300)/防御2000(-300)
ネレイス《バースト1回》
攻撃300/防御300
【 サクヤ 】 ライフ:3400
ギルタブリル
攻撃2100/防御2300
幽門桜
攻撃0/防御3200
白面金毛九尾の狐
攻撃2700/防御2500
白面金毛九尾の狐。
もはや説明の必要もないほど、日本では高名な大妖怪である。
ほとんどの妖怪は姿こそ恐ろしいが、被害者が数千や数万に及ぶ例は少ない。
しかし、九尾は美女に化けて権力者をたぶらかすという手法で国家そのものを傾かせた。
人間の心の弱さと社会構造を狙った侵食によって被害は甚大。飢餓に内乱、虐殺、行政の無力化と何でもござれ。
より大多数の人間を効率的に苦しめたという点では右に出る者がおらず、インド、ベトナム、中国、朝鮮半島、日本と活動範囲も極めて広い。
人々を苦しめ、人肉を好んで喰らう残虐性を持ちながらも、キツネ社会の頂点階級に座する神獣でもある。
キツネは修業によって霊力を高め、尻尾の数を増やしていくとされているが、9本となれば他の個体が確認されていないほどの最上位。
よって、ラヴィアンローズでは【神】タイプに分類されていた。
「サクヤ先輩が★4を持ってたのも、ビックリだけど……これ、めちゃくちゃヤバくない?」
魔剣の力で頑強に守りを固める【アルミラージ】。
そこに【ネレイス】で強化した【パワード・スピノサウルス】が登場し、攻防ともに整ってきた中盤。
しかし、サクヤが九尾を召喚したことで、文字どおり戦局が傾く。
『ステータスの増加と減少が逆になる』という非常にシンプルなユニット効果なのだが、それひとつで相手側は大混乱に陥る。
ユニットを強化させ、いかに敵のステータスを上回るのかが決め手となるゲームにおいて、戦法を根底からひっくり返す存在。それが【九尾の狐】であった。
「今のリンなら、なんとなく分かると思うんやけど、このユニットは出す瞬間が肝心や。
でもって、うちがこれを持っとることはバレたらあかん」
「たしかにね。相手が強化効果を十分に使ってから、不意打ちで出すのが一番いいタイミングだよ。
ちょうど、今みたいに……でも、こんな大勢の前で見せちゃっていいの?」
「どうせ、いつかはお披露目するときがきてたはずや。
対策を取られたとしても、その場合、相手は強化を使わんような戦いかたになる。
そんなデッキは、うち以外とやりあうのが苦しゅうなるしなぁ、ふふふ」
隠し持っていた★4だからこそ、あえて大舞台で見せつけるかのように披露したサクヤ。
その驚きは観客席にも広まり、ユウとソニアは同じ言葉を口にする。
「「か……かっこいい……」」
「なんでだよぉおおおお! なんでサクヤのユニットは、いちいちかっこいいんだよ~!」
「ただでさえ桜の雰囲気が神々しいのに今度は白面金毛!
ファミレスでパフェをひとつ食べたあと、物足りないからプリン・ア・ラ・モードまで頼むような悪魔の所業!
ああ~、サクヤ殿ぉお~! サクヤ殿はなにゆえ、わたしの心を乱すのか~!」
やはり、2人にはビジュアルが刺さりまくったらしい。その様子に苦笑しながら、ステラは胸をなで下ろすように息をつく。
「これでサクヤさんの秘密を黙っている必要はなくなりましたね。
ずっと内緒にしておくのは大変でした」
尊敬する師匠とはいえ、これほどの秘密を抱えていることを友人たちに伏せておくのは、ステラにとっても厳しい試練であった。
これで情報を共有できたので、今後はサクヤも手持ちのカードを隠す機会が減るだろう。ミッドガルドでも、より良き仲間として共に冒険してくれるかもしれない。
安堵と共に、淡い期待の目で今後について思いをはせるステラ。
もっとも、全てはこの戦いが終わってからだ。
「サクヤ選手、とんでもない秘密兵器を出してきました!
【九尾の狐】がいる限り、プラスはマイナスに、マイナスはプラスに反転します!」
「かつて行われた『白面襲来』、最大9体のボスの数だけ強化された九尾と戦うイベントだったけど、ものすごい速さで九尾だけを倒し続けてるプレイヤーがいたのだ。
それもそのはず、九尾にかけられたボス1体ごとの強化は”ステータスの上昇”として戦闘開始時に付与される特殊効果。
つまり、【九尾の狐】がいれば反転できてしまったわけで……」
「えっ!? 9体のボスのぶんだけ弱くなった九尾を倒してたわけですか?」
「そういうことなのだ。これは世界に数枚しかないカードを持っている人の特権。
今のラヴィアンローズはバランス調整を徹底して、特定のカードだけでは簡単にクリアできないようになってるけど、サクヤ選手の耳と尻尾は強運の証でもあるのだ」
先ほどサクヤが『まったく頑張らんかった』と言った理由は、これである。
ボスがいればいるほど逆に弱くなるというチャンスがサクヤに訪れ、彼女をトップランカーにのし上げた。
その実況を聞いたリン自身にも、★4については思うところがある。
「なるほどね……まあ、あたしもスピノ親分が手に入ったのは、パックから出たカードの運が良かったからだし。
とっておきの1枚は隠しておくべきっていうのも分かるよ」
リンにだって、サクヤに見せていないカードは何枚かある。ただ、それを使うためには今の危機を乗り越えなければならない。
「ほな、”いつもの”いこか! 【ギルタブリル】、攻撃宣言!」
「【アルミラージ】で……ううっ、攻撃力-4000って。
ウェンズデーさん、このゲームだとゼロ以下の数字はどうなるの?」
「どれだけ下がっても、ユニットのステータスはゼロが下限です」
「じゃあ、ウサギちゃんの攻撃力はゼロかぁ。
普通に防御で受けても、毒の効果で2000もダメージが追加されるし……
親分も【ネレイス】ちゃんの効果で強化されるはずが逆に下がってて……
うわあああああああ~~~~~~っ!!」
咲き乱れる桜の巨木に、黄金色の美しいキツネ。
そんな和の幻想に目を奪われる余裕もなく、リンは目の中がグルグルになっていく。
「よしっ! ここは【アルミラージ】でガード!」
「おおっと、そいつは随分と痛いで?」
長い足を動かしながら、女性の上半身を乗せた巨大サソリが迫りくる。
【アルミラージ】は攻撃力ではなく通常のガードもできるが、防御ステータスは900。
それに対し、【ギルタブリル】の総火力は4100ダメージ。サソリの毒が、ここで多大な火力につながっていた。
槍のごとく突き出された毒針。しかし、その一撃がウサギを貫く直前でリンは手札を発動させる。
「カウンターカード、【ワールウィンド】!」
Cards―――――――――――――
【 ワールウィンド 】
クラス:アンコモン★★ カウンターカード
効果:自プレイヤーのユニット1体を手札に戻し、行われていたバトルを強制終了させる。
その後、使用者は手札に戻したユニットの【基礎攻撃力】と同数のダメージを受ける。
リンクカードや他のユニットなどが付随していた場合、それらも全て手札に戻すことができる。
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吹き荒れる旋風が【アルミラージ】を包み、風に乗せて戦線を離脱させた。
リンの手元に戻ってきたウサギは、頭の角で貫いてしまわないようにお尻をぶつけてきたのだが、その気遣いが見事に顔面へヒット。
「わぷっ!!」
「リン選手、残りライフ2400!」
ボフッと顔面を覆ったウサギで1600ものダメージが発生し、リンのライフは大きく削られてしまった。
しかし、戦闘を回避したため【ギルタブリル】の毒の効果は反映されない。
ついでに装備していた【ストームブリンガー】も回収され、リンは最低限の被害で攻撃を防ぐ。
「ほぉ~、ええ感じに毒ごと消したなぁ。
せやけど、これで1体――まだ始まったばかりやで! 【九尾の狐】で攻撃宣言!」
「ほんとキツイって……マジで厳しいかも」
2700もの攻撃力を誇る九尾に対し、こちらは強化効果を封じられた状態。
苦境に立たされたリンは、彼女にとって非常に辛い決断を迫られていた。
かなり良いところですが、年末年始のお休みに入らせて頂きます。
次の更新予定は1月5日です。それでは、皆様よいお年を~!




