第41話 リンの挑戦 その4
【 リン 】 ライフ:4000
アルミラージ
攻撃1600(+4000)/防御900
装備:破滅の剣『ストームブリンガー』
状態異常:毒により次に受けるダメージ+1000
【 サクヤ 】 ライフ:3400
ギルタブリル
攻撃2100/防御2300
トリック・デーモン
攻撃200/防御200
「あたしのターン、ドロー!」
デッキからカードを引いたリンの手札も6枚、【イースターエッグ】のおかげで序盤から手札の多い展開になっている。
サソリの毒を受けているが、魔剣を装備した【アルミラージ】の防壁はまだ頑張ってくれそうだ。
「(にしても……何デッキなんだろう、あれ?)」
プレイヤーのデッキには必ず傾向がある。
機械を中心にした防御特化、人間タイプの騎士を並べた軍隊、悪魔ユニットやプロジェクトカードを多用する魔術。
自分自身でもバラバラだと思っているリンでさえ、最近は水棲デッキになりつつある。
だが、サクヤのユニットには統一感が見られない。
【イースターエッグ】はドロー用だとしても、あちらの陣営にいるユニットは虫と悪魔。
巫女さんだから妖怪でも使うのかと思っていたが、どのユニットもサクヤの見た目からは想像もつかない種族だ。
「(とりあえず、サソリのお姉さんが何ターンも暴れるのはまずいなぁ。
早めに倒したいけど、攻撃を1回なかったことにする【トリック・デーモン】が、ものすご~く邪魔!
さすがステラの師匠……簡単に攻めさせてくれないね)」
じわじわと防壁を削る【ギルタブリル】に攻撃の機会を与えてはいけない。リンは手札を確認し、使う順番を脳内で組み立てながら最初の1枚を発動させた。
「いくよっ! ユニット召喚、【アンチョビ】!」
Cards―――――――――――――
【 アンチョビ 】
クラス:コモン★ タイプ:水棲
攻撃200/防御300
効果:召喚されたとき、自プレイヤーのデッキの中にある★1の【タイプ:水棲】ユニット1体と入れ替わることができる。
後攻効果:このユニットを召喚した後、追加でもう1体の【タイプ:水棲】ユニットを手札から召喚できる。
スタックバースト【群生】:永続:攻撃と防御の『基礎ステータス』が2倍になる。
――――――――――――――――――
現れたのは、あまり強そうには見えない普通の海魚。
銀色に光りながら空中を泳ぐ1匹のイワシだが、ここから怒涛のコンボがつながっていく。
「あたしは後攻だから、全部の効果を使える!
やっと、あの人に見てもらえるね……【アンチョビ】の能力でデッキのユニットと交代!
出ておいで、【ネレイス】ちゃん!」
Cards―――――――――――――
【 ネレイス 】
クラス:コモン★ タイプ:水棲
攻撃300/防御300
効果:このユニットは【タイプ:神】として扱うことができる。
スタックバースト【海原への導き】:永続:自プレイヤーのフィールドにいる【タイプ:水棲】のユニット1体に、このユニットのステータスを加算する。
――――――――――――――――――
「きゅーーーい!」
イワシが勢いよく旋回し、一瞬のうちに半人半魚の幼女と入れ替わる。なかなか見せられなかったが、ここでようやくハルカにもらったカードを使うことができた。
なお、この交代はドロー効果ではないため、ハイランダーのサクヤは反応できない。
「さらに後攻効果で手札から召喚! 【パワード・スピノサウルス】!」
Cards―――――――――――――
【 パワード・スピノサウルス 】
クラス:レア★★★ タイプ:水棲
攻撃2000/防御2000
効果:バトル相手のユニットが装備しているリンクカード1枚を破棄する。
スタックバースト【水辺の王者】:永続:自プレイヤーのフィールドにいる【タイプ:水棲】のユニットに攻撃と防御+1000。
――――――――――――――――――
「オオオオーーーーーーッ!」
続いてリンの手札から飛び出す大型恐竜。
毎回のように最前線で戦うスピノサウルスが吠え、ついに【ネレイス】と同じフィールドに並んだ。
イワシは弱く、数多くの生物から捕食される運命にある。
だが、たくさんのイワシが泳ぐ海は、それをエサにする大型魚や海鳥が豊かに暮らしていける場所。
そんな自然の摂理を再現するかのように、たった1匹のイワシに引き寄せられて次々と水棲ユニットが姿を現す。
「まだまだ! 【ネレイス】ちゃん、スタックバースト!
強化するユニットはもちろん、【パワード・スピノサウルス】!」
「きゅきゅーいっ!」
最初、リンの手札には【ネレイス】が1枚しかなかったが、【アンチョビ】の効果でデッキから2枚目を引き寄せることでスタックバーストを可能にした。
海神の加護により、スピノサウルスは攻防2300。
ちょうど相手の【ギルタブリル】を倒せる数値のステータスを確保し、一連のコンボを完了させる。
「これは、すさまじい展開力! リン選手も負けじと2体のユニットを出していきます!」
「えらい、にぎやかになってきたな~。やっぱり出てきはったか、親分さん」
「当然でしょ、ウチのエースアタッカーだもん! 【パワード・スピノサウルス】で攻撃宣言!」
「【トリック・デーモン】でガード、効果が発動するから貫通ダメージは無しや」
いつぞやステラと戦ったときと同じように、小悪魔の幼女はボンッと白い煙を撒き散らしながら消えてしまう。
戦う相手を見失ったスピノサウルスは攻撃のチャンスを奪われ、リンの陣営に引き返してきた。
カードの効果が見えている以上、想定の範囲内ではあったが、やはり【トリック・デーモン】は厄介極まりない。
「相変わらずだなぁ……あの小悪魔。
でも、これでサクヤ先輩を守る盾はなくなったよね。あたしはターンエンド!」
「うちのターン、ドロー。
とりあえず、”いつものをひとつ”! 【ギルタブリル】で攻撃宣言!」
「あたしは居酒屋じゃないっての!
くうっ、また毒の効果が……【アルミラージ】でガード!」
妖艶な女性の上半身を乗せた巨大サソリが、猛毒の尻尾を突き立ててリンの陣営を襲う。
それを再び魔剣が弾き返し、またしても毒の効果が付与された。【アルミラージ】が次に受けるダメージは2000も加算されてしまう。
「だんだんキツくなってきたんちゃうか、そのウサギちゃん?」
「大丈夫、まだまだいけるって!」
もはや、サソリとウサギは神獣同士でお見合いをしている状態だ。サクヤが何もしてこなければ次のターンも耐えてくれるが、それゆえリンは脳内で首をかしげる。
「(なんで、何も強化しないまま攻撃してくるんだろ……?
ちょっとでも攻撃力を上げれば、そのぶんウサギちゃんはキツくなるのに)」
お互いに特殊な手段を使っているが、基本的にラヴィアンローズのユニットは1ターンに1体ずつしか出せない。
よって、何らかの方法で強化させて防壁を固めるか、手早く相手を倒すために攻撃力を上げるのが定石である。
しかし、とっくに使われていてもおかしくない強化カードを、サクヤは1枚も発動させていないのだ。
「さてと、だいぶ”お客さん”が増えてきたことやし、そろそろ頃合いやろ。
リン、うちとええことして遊ばん?」
「ええことって、何? めちゃくちゃ怪しいんですけど」
「別に悪いことやないで。アレやアレ、ゆるゆる~っとあったかくて。
みんなでしても楽しいし、ひとりで静かにするのも情緒があって。あとは美味しいもんがあると最高やな」
「ん~……温泉旅行?」
「ざんね~ん! 正解は――ユニット召喚」
サクヤは手の中でカードを燃やし、1体のユニットで答えを示す。それは暖かな春に目を覚まし、人々に愛され続けてきたもの。
バトルフィールドにメキメキと巨大な木が生え、白紅色の花が咲き乱れていく。
Cards―――――――――――――
【 幽門桜 】
クラス:レア★★★ タイプ:植物
攻撃0/防御3200
効果:自身のターンに1回のみ発動。バトルで破棄された自プレイヤーのユニットを1体復活させる。
この効果で復活したユニットは【タイプ:アンデッド】として扱われ、本来のタイプを失う。
スタックバースト【魂魄昂揚】:永続:上記の効果で復活したユニットの攻撃と防御を+800。
――――――――――――――――――
花びらを散らしながら咲き誇る、雄大な桜の巨木。
数々の戦いを重ねてきたリンも、樹木のユニットを見るのは初めてだ。
あまりの美しさに見とれる対戦相手に微笑みながら、キツネの耳と尻尾をつけた巫女は優雅に扇子を広げる。
「正解は、お花見や」




