第40話 リンの挑戦 その3
【 リン 】 ライフ:4000
アルミラージ
攻撃1600(+4000)/防御900
装備:破滅の剣『ストームブリンガー』
【 サクヤ 】 ライフ:3400
ユニットなし
「ほな、ウチのターン。ドロー」
2ターン目の先攻、ドローを終えたサクヤの手札は計7枚。
ハイランダーは同名のカードを1枚ずつしかデッキに入れられない代わりに、手札の枚数でアドバンテージを取ることができる。
ただし、そのためには相手が通常以外の方法でドローしなくてはならず、ハイランダーの存在自体が追加ドローを抑制してしまっている。
一度でもハイランダーと戦った者は、対策のためにドローを控えたデッキ構築を心がけるようになるからだ。
相手が追加ドローを行ってくれないと、ハイランダーにはデメリットしかなくなる。
よって使い手は少なく、ましてや大会の上位となれば存在しているだけで絶滅危惧種。
同じカードを2枚使用できないため、スタックバーストを封印した状態で勝ち続けなければならない。
そんなハイランダーの中でも、日本サーバー屈指の実力者と呼ばれるのがサクヤであった。
魔女のステラは彼女から多くを学び、いまだ不完全ではあるものの、希少な技術を受け継ぐ唯一の弟子だ。
「サクヤさんのハイランダーデッキは本当にすごいです。私はただ、見よう見真似で近付こうとしてるだけ。
たぶん――あの人と同じデッキは、他の誰にも扱えません」
観客席で師を応援するステラは、心から尊敬の眼差しを送っていた。
普段は飄々とした佇まいのサクヤだが、実は関西でも若手筆頭と評される実力者。
本人は評判など気にしないかのように遊んで過ごし、こうした大きな舞台で優秀な結果を残しては、また自由気ままな日常へと戻っていく。
「クラウディアお姉さまのように、威風堂々とした強者も素晴らしいのですが……
強さを隠し持っているスタイルも捨てがたい! なにゆえサクヤ殿は、こうもわたしの心を惑わせるのか!」
「分かるぞ、時代劇では王道のパターンだよな。街の遊び人とか旅の一行が、実はすごい人っていうやつ。
さて……このターンは、どうなるやら」
スタックバーストを使わないとはいえ、2ターン目にして7枚の手札は驚異だ。
サクヤは魔剣を装備したリンの【アルミラージ】を見つめ、やがて自陣にユニットを呼び出す。
「まずは、そこのウサギちゃんにどいてもらんとなぁ。
ガンガン攻めるで! ユニット召喚!」
Cards―――――――――――――
【 ギルタブリル 】
クラス:レア★★★ タイプ:昆虫
攻撃2100/防御2300
効果:永続効果。このユニットとバトルするたびに、相手のユニットが次に受けるダメージは1000ずつ加算される。
スタックバースト【デッドリーポイズン】:瞬間:このユニットよりも【クラス】のレアリティが低いユニット1体を即座に破棄する。
――――――――――――――――――
「あっははははははは!」
再び燃えながら発動するサクヤの手札。
高らかな笑い声を上げたのは彼女ではなく、カードの中から陣営に現れたユニットである。
その姿は非常に恐ろしく、身の毛もよだつような巨大サソリ。
弓ぞりになった尻尾は先端に鋭い毒針を持ち、胴体だけでも5mほどの大きさがある。
サソリの頭の部分にはケンタウロスのように人型の上半身が生え、艶めかしい女性の姿をしていた。
「うわわわわっ! きれいなお姉さんだけど……腰から下が虫になってて、めちゃくちゃキモい!」
リンの向かい側で蠢く、現実的にはありえない大きさのサソリ。
ワシャワシャと動く長い足は、多くの女子にとって直視しがたいものである。
できるだけ人型のほうを見るようにすると、こちらは本当に美しい女性だ。
褐色の肌に豪華な金の装飾を身につけ、中東の踊り子のように口元を半透明の布で覆い隠している。
こんな姿だが、実は古代バビロニアの創造神が生み出した聖獣。
人々を襲う邪悪なモンスターではなく、神を守り、神を討つために戦う兵士であった。
「サソリの毒はなぁ、じわじわと効いてくるんや。
まずは一撃! 【ギルタブリル】、攻撃宣言!」
「うえぇ、次のダメージに1000加算かぁ……でも、防ぐしかないよね。
【アルミラージ】でガード!」
【ストームブリンガー】の強化効果はリンのライフに依存しているため、本体に通すわけにはいかない。
猛毒を持つ尻尾による刺突を、ウサギは魔剣を盾にして受け止める。
片や中東バビロニアの神獣、一方の【アルミラージ】もインド洋の島に生息するとされる獣。
その間で火花を上げるのは、これまた違う出典を元にした黒き魔剣。
世界各地の神話や伝承がカードになり、VRの仮想空間で戦いを繰り広げる21世紀。
魔剣を携えたウサギは巨大サソリを退けたが、次に受けるダメージが1000増加するという形で毒に蝕まれる。
「ここでサクヤ選手から牽制するような攻撃! リン選手に攻撃は通りませんでしたが、ガードするたびに毒が浸透していきます!」
「まだまだ全然! 耐えられるよ!」
「うちもこれで決まるとは思ってへんよ。せっかく実現したギルメン同士の試合やし、ゆっくり楽しもうや。
プロジェクトカード、【使い魔の助力】」
Cards―――――――――――――
【 使い魔の助力 】
クラス:コモン★ プロジェクトカード
効果:★1かつ【タイプ:悪魔】のユニットを手札から召喚する。この効果は通常の召喚に含まれない。
――――――――――――――――――
続いてサクヤが発動させたのは、★1コモンのプロジェクト。
レアリティは低いが、通常以外の方法でユニットを召喚できる便利な1枚だ。
「あれ……そのカード、ステラも使ってたような?
たしか、この後は手札から――」
「手札からユニットを召喚、【トリック・デーモン】」
Cards―――――――――――――
【 トリック・デーモン 】
クラス:コモン★ タイプ:悪魔
攻撃200/防御200
効果:このユニットがガードした場合、自プレイヤーへの貫通ダメージが無効化される。
後攻効果:自プレイヤーのユニットが貫通ダメージを与えたとき、このユニットの攻撃を上乗せする。
スタックバースト【バイバイ☆】:瞬間:このユニットを持ち主の手札に戻す。
――――――――――――――――――
「キシシシッ☆」
「あああああーーっ、出たぁあああああーーーーっ!!」
可愛らしい幼女の姿をした小悪魔が現れ、リンは思わず叫び声を上げる。
魔女のステラは色々なカードを使っていたが、このユニットにはろくな思い出がない。
それこそ宇宙ネコでも出てきたほうがマシなくらい、【トリック・デーモン】はトラウマなのだ。
「なんや、そないに大っきな声あげて。この子にイタズラでもされたんか?
うちは盾の代わりに呼んだだけやから安心せえ。これで終い、ターンエンドや」
サクヤは先攻なため、後攻効果はない。
しかし、どれほど強力な一撃でも、この小悪魔に防がれると貫通ダメージが無効化されてしまう。
単純な防御力よりも厄介な盾を置かれた状態で、リンは自分のターンを迎えた。
修正:ギルタリブルのユニット効果を変更しました。




