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第39話 リンの挑戦 その2

【 リン 】 ライフ:4000

ユニットなし


【 サクヤ 】 ライフ:4000

イースターエッグ

 攻撃1000/防御1000

「あたしのターン、ドロー!」


 初手の後攻、手番が回ってきたリンは手札を見ながら戦略を立てる。

 サクヤの陣営には【イースターエッグ】が1体いるのみ。


「(怪しい……何をどう考えても絶対に怪しい)」


 対戦相手にまでドロー効果が発動するユニットを置き、倒してくださいといわんばかりにターンを終えたサクヤ。

 あまりにも見え見えの罠だ。うかつに手を出すのは危険なように感じる。


 しかし、リンとしても序盤に手札が増えるのはありがたい。

 このラヴィアンローズというゲームは、アリサのように極端な構成にしない限り、ドローが増えにくいバランス調整になっている。

 ここはリスクの少ない攻撃で【イースターエッグ】を倒し、とりあえずドローしてから様子を見てもいい。


「よ~し、ユニット召喚! イースターといえば、ウサギもいるよね。

 そんなわけだから、また活躍してもらおう! 【アルミラージ】!」


Cards―――――――――――――

【 アルミラージ 】

 クラス:アンコモン★★ タイプ:動物

 攻撃1600/防御900

 効果:このユニットは攻撃ステータスでガードすることができる。

 スタックバースト【殺人兎(ヴォーパルバニー)】:永続:プレイヤーに貫通ダメージを与えるとき、攻撃ステータスの半分を加算する。

――――――――――――――――――


「キィーーーーーーッ!」


 本戦3回目となる【アルミラージ】の召喚。実質、攻防1600なので序盤に出しやすいユニットである。

 サクヤの陣営に突っ込ませる先鋒として、ステータスもちょうどいい。


「【アルミラージ】、攻撃宣言!」


「まっすぐ突っ込んできて、ええ子やなぁ。【イースターエッグ】でガード」


 頭に生えた1本の角を振りかざし、槍のように突撃していくウサギ。

 その攻撃に跳ね飛ばされた卵は、空中でパァンと弾けて7色の光を散りばめた。


 いかにもイベントで配布されたユニットらしく、見た目と能力が独特な一方、戦う力はほとんどない。

 だが――


「サクヤ選手、残りライフ3400!」


「ふむ……でかいユニットを出さんで、様子見っちゅう感じやな。

 場の状況を読む基礎は、ようできとる。とりあえず【イースターエッグ】の効果で1枚ドロー」


「あたしもドローさせてもらうよ」


「ほな、うちもドロー」


「………………んんっ!?」


 このとき、リンには相手が何をしたのか分からなかった。視認する限り、サクヤは間違いなく2回ドローしている。

 プログラムによって管理されたVR世界では不正行為などできないはず。

 しかし、それでも彼女のドロー重複は平然と行われていた。


「えっと、あの……審判(ジャッジ)のウェンズデーさん、今のはどういうこと?」


「ルール上は、まったく問題ありません。

 まず、【イースターエッグ】が倒されたことで、お互いに1枚ずつドローしましたね。

 次にリン選手のドローに反応して、サクヤ選手が特殊ルールで追加のドローをしたんです」


「特殊ルールって、まさか……ハイランダー!?」


 対戦相手が通常の方法以外でドローしたとき、自分も同じようにカードを引くことができる。

 そんな特殊ルールは、ひとつしか思いつかない。

 サクヤは広げた扇子を左右に振りながら、面白そうな顔で秘密を明かした。


「ステラは最初(はじめ)っからカードゲームが上手かったわけやない。

 あの子はハイランダーデッキが使えるけど、使いこなすにはコツが()るんや。

 で……そのコツを仕込んだんは誰やと思う?」


「そっか、サクヤさんはステラの師匠だもんね。

 でも、ハイランダーって今みたいな方法でもドローできるの?」


審判(ジャッジ)が言うたとおり、ルールに沿った処理や。気になるならTips広げて確認してみ」


 このように対戦相手が認めた場合、プレイヤーは決闘(デュエル)の最中でもルールの確認をすることができる。

 リンが腕輪のコンソールからTipsを表示させて読んでみると、そこにはこう書いてあった。


Tips――――――――――――――

【 ハイランダー 】

 デッキ内のカードに同種同名のものが1枚も存在しない場合、そのデッキを扱うプレイヤーに特殊ルールが適応される。

 相手がデッキからカードを手札に加える効果を使用したとき、自分も同じ処理を行って同数のカードを手札に加える。

 上記の効果を発動するまで、自身がハイランダーであることは隠匿(いんとく)される。

――――――――――――――――――


「う、う~ん……なるほど。

 たしかに、この書きかたなら【イースターエッグ】で2枚ドローできるかも。

 相手に無理やりドローさせたぶんもカウントするっていう解釈ならね」


 スタジアムの観客席でも多くの人々がTipsを確認しながら、どよめきの声を上げていた。

 『相手がデッキからカードを手札に加える効果を使用したとき』とあるが、決して対戦相手のカードに限定されているわけではない。

 実況席のコンタローたちも、これには感心したように声を上げる。


「いや、これはすごい……普通のハイランダーは相手がドロー系のカードを使うまで待つしかなくて、どうしても受動的なプレイングになるのだ。

 ところが、あえて相手にドローをさせることで、それをトリガーにしてしまう。いわば能動的なハイランダー。

 ルールの隙間を突いた巧妙な戦略なのだ」


「ユニットを1体出しただけなのに、サクヤ選手の熟練度が分かりますね」


 実際、サクヤは2枚のカードをドローしただけである。

 しかし、それらは戦略とデッキを鋭く()いだ上で、ルールも熟知していなければ成立しない手段。

 全てを理解できたとき、リンの中に浮かび上がったのは芸術作品を見たかのような感動であった。


「サクヤ先輩、すっご~い!」


「せやろ? もっとも、これでハイランダーなのがバレてしもた。

 相手の手札が増えるのもデメリットやし、そないに褒められた作戦でもないんよ」


 サクヤはそう言うが、その手にあるカードは6枚。

 普通なら手札の少なさで苦しくなる先攻なのに、次のターンには自身のドローで7枚に増える。

 それがいかに驚異的なことなのか、もはや分からないリンではなかった。


「このまま、あたしのターンを終わらせるとヤバそうだね。

 とりあえず、ウサギちゃんは無事に戻ってきたから、もうひと仕事してもらおっと!

 リンクカードを装備、【ストームブリンガー】!」


Cards―――――――――――――

【 破滅の剣『ストームブリンガー』 】

 クラス:レア★★★ リンクカード

 効果:装備されたユニットに攻撃力+X。Xはユニットを所有するプレイヤーのライフに等しい。

 攻撃宣言をした瞬間、このカードは破棄され、所持プレイヤーはXに等しいダメージを受ける。

――――――――――――――――――


 意思を持つ魔剣が飛来し、【アルミラージ】の上で浮遊する。

 たった2枚のカードで強力な防壁を作り出す、低コストかつ実用性の高いコンボ。

 サクヤが熟達した腕を見せる一方、リンは発想力で勝負を仕掛けていく。


「リン選手、【アルミラージ】に【ストームブリンガー】を装備しました!

 相変わらず固い5600の壁!

 防御に使うだけなら、デメリット効果も危険ではありません」


「普通に使うと自滅するカードだけど、こうして攻撃を済ませてから付ければ問題なし。

 ミッドガルドの序盤にいる★2モンスターを、本当に上手く使っているのだ」


 お互いの技量を見せあうかのように、1ターン目を終えた両者。

 前の戦いではスピノサウルスに粉砕されてしまったが、いきなり出てくる強固な防壁は、そう簡単に破れるものではない。


「いや~、固ったいなぁ。その剣はショップのポイント交換カードやろ?

 扱いが難しいのに、よう使いこなしとるわ」


「えへへ~、ステラとソニアちゃんに付き合ってもらって、試合前に買ったんだ。

 あたしのターンは、これで終わりっ!」


 これまで学んだことを活かし、持てるカードの全てを駆使して挑んでいくリン。

 しかし、サクヤがハイランダーであることなど、彼女が隠してきた情報の断片でしかない。


 長らくデッキの内容を秘匿してきた禍巫女(まがみこ)が本性を表す瞬間を、やがてリンは目撃することになる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もうすっかりハイランダーのルール忘れてて、この展開には正直度肝を抜かれた。 [一言] 思ったんですが、ハイランダーのルールを逆手にとって、自身のデッキの全てをドロー仕切ったら次の相手のター…
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