第38話 リンの挑戦 その1
「さあ、さあ、ついに準決勝! ご覧ください、残る【サバイバー】の数は4!
長かったイベントも、残り3試合で王者が決定します!」
決戦の地は、いよいよクライマックスの様相を呈していた。
激戦の爪痕はどこにも見えないほど修復され、スタジアムの舞台には正方形のブロックが敷き詰められている。
そこに立つのは進行役のウェンズデー。実況席の面々も変わらず、コンタローとシンシアが並んでいた。
「ここまでの試合を見るだけでも、本当にすごい選手ばかりですね」
「日本サーバーの上位4名といってもいい実力者なのだ。
もっとも、データが少なすぎて例外な子もいるけど……」
「ちょうど、その例外。本大会で最もイレギュラーな選手が来るところです。
それでは東からの入場、ラヴィアンローズを始めて2ヶ月半の中学生!
何もかもが予想外の超新星! ギルド【鉄血の翼】所属、リン選手~~~!」
最初の入場式を除けば、これで3回目の出陣。
大歓声が降り注ぐスタジアムの中、リンは大きく深呼吸して歩き出す。
ほんの数回の決闘が彼女の名を広め、今や多くの人々が彼女に注目している。
だが、極度の緊張感やプレッシャーに潰されることはない。
アリサとの戦いのように、絶対に勝たなければいけないという使命感もないが、だからといって手を抜いて負けるつもりもない。
リンの心にあるのは、ただ純粋な期待であった。
「今回のリン選手、足取りが軽いですね」
「対戦相手が知り合いだからでしょうか。
ご覧ください。西から入場してきたのは、同じく【鉄血の翼】に所属するミマサカ・サクヤ選手!
特徴的なキツネの耳と尻尾は、かつて行われたイベント『白面襲来』の上位報酬」
「数々のイベントで実績を残してきたサクヤ選手も、この時点ですでに3位入賞が確定してるのだ。
奇しくも準決勝は同ギルド対決、これは注目の戦いなのだ~!」
どちらが勝っても、【鉄血の翼】から決勝進出者が出る。
観客席にいる応援メンバーも表情は明るく、誇らしげな気持ちで試合を見ることができていた。
「リン殿~、サクヤ殿~! どっちも頑張るのです!」
「俺たちは全部の試合を見てるけど、リンはサクヤのデッキを知らないんだよな。
はははっ、どんな反応をするのか楽しみだ」
「リンもリンで、使うカードが奇想天外ですからね。
サクヤさん自身も気付かないような裏をかくかもしれません」
ギルドの仲間たちですら、初めて見るリンとサクヤの決闘。
両者は舞台の中央へと足を進め、軽く笑顔を交わしながら語りあう。
「やっとサクヤ先輩のカードが見られるよ、楽しみだな~」
「すまんなぁ、隠すようなことして。
こないな風に、いつどこで戦いになるか分からんから、手の内は見せられんかった。
リンと戦う以上、うちも出し惜しみなしでいくけど……想定より、ちと早いんよな」
「早い?」
「うちが全力をぶつけるには、まだ時期が早すぎる。
ああ、嫌味ちゃうで? 嘗めとるわけでもない。
ただ……こないに早くやってしもてええんか、疑問に思とるだけや」
「そういうことなら、大丈夫。自分でも分かってるよ。
ここまで来たこと自体、ほんとに奇跡みたいなものだから。
でも――」
リンは両手を腰に当て、胸を張りながら挑戦的な目を向ける。
「この戦い、あたしのほうが勝っても問題はないよね? サクヤ先輩?」
「ほぉ~、威勢がええのう。手加減なんぞいらんっちゅうことか。
そんなら、きっちり型にハメたるわ」
サクヤも本気で怒ったわけではなく、お互いを信頼しているからこそできる”煽り”である。
やがて両者は自陣まで下がり、手札を5枚ドロー。
ウェンズデーから試合前の確認が行われ、ついに同ギルド対決が実現する。
「それでは、よろしいですか?
5回戦、準決勝・第1試合、リン選手 対 ミマサカ・サクヤ選手!
先攻はサクヤ選手です!」
「うちか~……ほな、まずはコレからやな。ユニット召喚」
サクヤの手中で1枚のカードが炎に包まれながら発動する。
観戦者たちには見慣れ始めたパフォーマンスだが、初見のリンは突然のことに目を見開く。
「ええっ!? カードを燃やした?」
演出の時点で驚いたが、召喚されたユニットも意外なもの。
それはカラフルな模様が描かれた卵、いわゆるイースターエッグであった。
Cards―――――――――――――
【 イースターエッグ 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:神
攻撃1000/防御1000
効果:このユニットが破棄されたとき、全てのプレイヤーはカードを1枚ドローする。
スタックバースト【復活祭の祝福】:瞬間:全てのプレイヤーのライフを500回復。4000以上にはならない。
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見た目は色のついた卵でしかないが、生きているようにコロコロと転がって動く。
殻の一部は割れていて、内側にいる”何か”が2つの丸い目を光らせながら外の世界を見ていた。
キャラクターらしさを感じるユニットで、なかなか愛嬌があって可愛い。
「おお~っと、日本の宗教は何でもありなのか!
憲法20条では『信教の自由』が認められていますが、サクヤ選手は神社の巫女さん!
なのに、召喚したのはイースターエッグ!」
「イースターって、キリスト教の復活祭ですよね?」
「あのカードは春に行われたイースターイベントで配布された★2ユニット。
他にはない、とてもユニークな能力を持っているのだ」
巫女とイースターエッグという組み合わせも不思議だが、その能力も奇妙なものばかり。
プレイヤー全員にドローさせたり、ライフを回復したりと、対戦相手にもメリットを与えてしまう。
季節のお祭りイベントで配布された、いわゆる『パーティープレイ向け』のカードだ。
「可愛い卵だけど……サクヤ先輩、ここはミッドガルドじゃないよ?」
「知っとるわい! 普通は支援に使うカードやけど、これでええ。
うちのターンは終いや」
リンが初めて目にしたサクヤのカードは、あろうことか西洋の復活祭で使われる卵。
相手の意図がまったく分からないまま、ターンは後攻へと移行する。




