第13話 初戦を終えて
「あははははっ、カードゲームって最高に楽しいね!」
「やっぱ、【アルテミス】ずるいわ……」
戦いが終わった後、リンとユウの兄妹は公共エリアを歩いていた。
ここは各エリアへの通路となっている他、カフェやショップなどがある。
「勝った後に記念撮影ができるっていうのも、ステキな機能だよね~。
ほら、すごくいい感じに撮れてる!」
リンがコンソールを操作すると、空中に1枚の写真が浮かんだ。
そこに写っているのは初勝利に喜ぶ彼女自身と、刃物を4本も装備して異様な威圧感を放つ女神。
最初のターンから大活躍だったトロピカルな鳥。
そして、ずっと放置されていたせいか、なんで勝ったのか分からないような顔をしているラプトル。
その写真を見ているだけで、リンの心は色々な感情でいっぱいになった。
のだが……隣を歩く兄は別のことを考えているようだ。
「あそこでなぁ、【ヘビーナイト】で鳥を殴っておけば100ダメージ……
でも、2ターン目じゃ先の戦況なんて読めなかったしなぁ」
「もぉ~、ちゃんと写真見てよ!
まださっきのこと考えてるの?」
「負けた試合を反省するのは大事なんだぞ。
ほんの一手のプレイミスが、後になって大きく響くんだ。
それを防ぐためには、自分のスキルを磨くしかない」
「自分のスキルを磨く……
たしかに対戦して初めて分かったことは多かったね」
特に貫通ダメージについては注意するべきだろう。
ユニットが倒されなくても、防御力を超えた数値はダメージになってしまう。
カードについても勉強が必要だ。
【タクティカル・ディフェンス】が良い例だったが、デッキに入れたカードの効果を対戦中に理解しているようではいけない。
起死回生の【極秘輸送任務】も計算していたわけではなく、偶然1ターン目に出した鳥に刀を持たせていたから成立した。
運良く、兄に勝てたのだ。
初心者ながらも、リンには自分の反省点が見えていた。
「お兄ちゃん……あたし、このローブを脱ぎたくなった」
「はぁあ!? お前、こんな場所で!」
「物理的に脱ぐわけないでしょ、バカ! 変態!
始めたばかりの初心者だけど、あたしは色々と憶えて、ちゃんとカードを使いたい。
この服が『初心者ローブ』って呼ばれてるなら、早く脱いだほうがいいって思ったの」
「まあ……最初に配布されたビギナーズローブは、みんないつか卒業するもんだ。
でも、そんなに焦って脱ぐものでもないぞ。
俺だって、このコスチュームは1年がかりで買いそろえたんだし」
言いながら、自分が着ている服を見せる兄。
相変わらずメタルバンドの人みたいな、全身真っ黒のレザーだ。
「そういう服って、お店で売ってるの?」
「ポイントで買えるけど高いぞ。今、どれくらい持ってる?」
「ん~、1000ポイントあるよ」
「は? それは講習会で配られたやつだろ。
もしかして、他の報酬を受け取ってないのか?」
「他の報酬……そういえば、なんかピコピコ表示されてたね。
この世界を見たり、バトルしたりで、まだ確認できてないけど」
「まったく、カードどころかネトゲも初心者かよ。
配られたものは必ず受け取ること。これはMMOの鉄則だぞ」
「え~と……あった!
この『達成済みクエスト報酬』ってやつかな?」
リンはようやくクエスト報酬の存在に気付き、コンソールからパネルを開く。
すると――溜め込んでいた達成報告が雪崩のようにドバドバと押し寄せてきた。
Notice――――――――――――
【 クエスト達成報酬を受け取れます 】
デイリー『今日のログイン』
デイリー『カードを手に入れよう』
デイリー『バトルしよう』
ビギナー『フレンド登録してみよう』
ビギナー『はじめてのお着替え』
ビギナー『はじめてのパック開封』
ビギナー『トレードしてみよう』
ビギナー『カードを100枚入手』
ビギナー『デッキを組んでみよう』
ビギナー『バトルエリアに行ってみよう』
ビギナー『はじめてのカードバトル』
ビギナー『フレンドと対戦しよう』
ビギナー『後攻効果を使おう』
ビギナー『スタックバーストを使おう』
ビギナー『プロジェクトカード発動!』
ビギナー『リンクカードを装備せよ!』
ビギナー『カウンターカードで切り返せ!』
ビギナー『対人戦で勝利しよう』
上級『★3以上のレアカードを入手』
特級『称号を入手』
――――――――――――――――――
「ぎゃ~~~~~~~~っ!!」
大量に並んでしまったクエスト達成報告の数々。
親切にも『まとめて受け取る』というコマンドがあったので、全部一気に回収する。
「うわ……いきなり18000ポイントくらいになったんだけど!」
「マジで!? 初心者が持ってる量じゃねーだろ、それ!
うわ、特級クエストのポイント報酬すっげぇ!」
『デイリー』や『ビギナー』を全部合わせても、たいしたポイントにはならない。
ユウも驚くような多額の報酬は、『上級』と『特級』の2つから配布されていた。
特に『称号を入手』は、それだけで10000ポイント。
偶然とはいえ、なかなか達成できないクエストを【アルテミス】1枚で終わらせてしまったわけだ。
「今日のログインボーナスを見てみろ、もらえるのは20ポイントだ。
何でもいいから1日に1枚カードを手に入れると5ポイント。
それに比べたら、初心者講習会でもらえる1000ポイントですら破格なんだぞ。
なのに、お前というやつは……」
「でさぁ、ショップってどこ!?」
「聞けよ、人の話を! すぐそこにあるけど……」
「じゃあ、行こう! 今すぐ行こう!」
「こら、走るなっての!」
デパートに連れてきてもらった子供が、『これで好きなものを買いなさい』と1万円を渡されたら、どうなるのかは言うまでもない。
ワクワクする気持ちを抑えられないリンは、兄を急かすように走り出したのだった。