表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/297

第22話 蒼の貴公子 その3

【 リン 】 ライフ:2600

パワード・スピノサウルス《バースト1回》

 攻撃2000(+1000)/防御2000(+1000)


【 カイン 】 ライフ:4000

パワード・スピノサウルス《バースト1回》

 攻撃2000(+1000)/防御2000(+1000)

「僕のターン、ドロー! 【パワード・スピノサウルス】、攻撃宣言!

 カウンターカード、【パワースレイヴ】!」


「スピノサウルスでガード! カウンターカード、【タクティカル・ディフェンス】!」


 その日、そのとき。観客たちが目にしたのは、公式大会でも滅多に行われない同ユニット対決であった。

 お互いのフィールドにスピノサウルスが1体ずつ。両者1歩も引かないまま、真正面から恐竜同志の殴りあい。


 1億年の時を越えた縄張り争いに観客は大熱狂。

 試合開始の時点ではカインを支持する者が多かったが、リンというプレイヤーの心意気に魅せられて声援を送る者も増えてきた。


 ――が、その激突も長くは続かない。カインは手札からカードを取り出し、自陣の強化を始める。


「このままプロレスを続けるのも面白いけど、さすがに本戦だからね。

 スピノの攻撃は防がせてもらうよ。ユニット召喚――【シェルタークラブ】!」


Cards―――――――――――――

【 シェルタークラブ 】

 クラス:アンコモン★★ タイプ:水棲

 攻撃1000/防御1800

 効果:ステータスの強化効果を受けているとき、このユニットの防御力に+1000。

 スタックバースト【オートガード】:永続:攻撃力がゼロまで減少。

 このユニットはいかなる状況でも必ずガードし、自身の防御力以下のダメージを無効化する。

――――――――――――――――――


 ズシッと重量感のある音を響かせて登場したのは、1mほどもある大きなヤドカリ。

 岩のように頑強なサザエの貝がらを背負い、その下から触覚と目で周囲の様子をうかがっている。どうやら、かなり臆病な性格らしい。


 ヤドカリにしては非常に大きいが、スピノサウルスに比べれば石ころ程度のサイズ。

 しかし、そんなユニットが1体いるだけでも厄介な防壁となる。


「さらにプロジェクトカード、【清澄なる呼び水】」


Cards―――――――――――――

【 清澄なる呼び水 】

 クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード

 効果:自プレイヤーのフィールドに【タイプ:水棲】のユニットが2体以上いる場合のみ使用可。

 ★2までの【タイプ:水棲】のユニットカード1枚をデッキから任意に手札へ加える。

――――――――――――――――――


「へぇ~、そういうカードって【水棲】にもあるんだ」


「え……っ?」


 ここまで勝ち上がってきたにも関わらず、思わず初心者丸出しなことを言ってしまうリン。

 突然のことでカインは表情が固まったが、やがて苦笑しながらも丁寧な口調で説明を加える。


「あはは、このゲームはユニットがいないと何もできないからね。

 それぞれの種族ごとに、★2までなら”引き”をコントロールするカードがあるんだ」


「なるほど~、この大会が終わったら探してみよっと」


 初心者であることを隠そうともしないリンの姿に、観客たちから巻き起こる笑い声。

 どう考えても、トップを競いあう戦いとは思えない会話だ。ユウとステラは自分のことのように顔を赤らめてしまった。


「あのバカ……こんな場所でする会話じゃねえだろ!」


「私たちも、ちゃんと教えてあげるべきでしたね」


「でも、あのカインという対戦相手……顔は優しそうだけど、目が笑っておりませんぞ」


 子供ゆえの直感なのか、ソニアは彼の内心を見抜いていた。

 特定の【種族】を手札に引き寄せるカードは、ラヴィアンローズでも使用率が高い常套手段。

 これまでリンと戦った者だけでも、ステラ、サクラバ、プロセルピナ、マツモトが使用している。


 だがしかし、そんな誰もが使って当たり前なカードを知らないまま、リンは17回も連勝してきたのだ。

 観客からの笑い声が響く中、カインだけは警戒を緩めずに両眼で相手を(とら)えていた。


「続けさせてもらうよ、【清澄なる呼び水】で引いた2枚目の【シェルタークラブ】をスタックバースト!」


 効果が発動した直後、ヤドカリは慌てるように貝がらの中へ閉じこもってしまう。

 スピノサウルスからの強化効果も加算すると、防御力3800の防壁。さらにオートガード能力を備え、自身の防御力以下のダメージを無効化。

 実況席からは感心したようなコンタローの声が響く。


「ほほう、これは良い采配。さすがはカイン選手なのだ」


「シンシアにはよく分からないんですけど、すごく固い盾になるユニットを置いたってことですよね?」


「ただの盾じゃないことは、フィールドをよ~く見れば分かるのだ。

 スピノサウルスは装備品を破壊する。つまりはリンクカードが使い物にならない。

 そんな状況で装備に頼らない防壁を作り出すのは、とても難しいことなのだ」


 スピノサウルスに装備品が通用しないのは、【アルミラージ】と共に魔剣を葬った時点で明らかなこと。

 よって、カインは別の手段で防壁を築き、リンとの殴りあいに備えたのだ。


「僕はこれでターンエンド」


「あたしのターン、ドロー!

 たしかに固いけど……そういうことなら、こっちもユニット召喚!」


 この時点でリンの手札は、たったの2枚。カードに余裕がない戦況の中、負けじとユニットを召喚する。

 彼女の陣営にユラユラと現れたのは、城壁の戦いでキャプテン・マツモトを苦しめた毒クラゲ。


Cards―――――――――――――

【 ポイズンヒドロ 】

 クラス:アンコモン★★ タイプ:水棲

 攻撃1600/防御1200

 効果:プレイヤーが所有するユニットに対してのみ有効。

 このユニットとバトルした相手は、ターン終了まで効果とスタックバーストの全てを失う。

 スタックバースト【毒素濃縮】:永続:上記の効果を次の相手ターン終了時まで持続させる。

――――――――――――――――――


 紫色のランタンのように美しく光るクラゲだが、その触手に隠し持っているのは恐ろしい猛毒。

 スピノサウルスの効果で攻防が1000ずつ増加し、さらにバトル相手のユニット効果とスタックバーストを無効化。これで相手の攻撃をギリギリ防ぐ壁となる。


「なんとぉお! ユニットの効果を打ち消す毒クラゲが現れました!

 【ポイズンヒドロ】と戦うと、スピノサウルスは弱体化して攻撃力が2000まで下がります。

 カイン選手、ほんのわずかに届かない!」


「ここにきて、お互いに防衛戦。この先どうなるのか、まったく分からなくなったのだ」


「格上が相手なのに果敢に挑んでいきますね。

 もちろん、シンシアは両方を公平に応援しますけど……ここまで頑張ったリン選手、本当にすごいです!」


 実況席と共に会場も盛り上がるが、リン自身の消耗は激しい。

 初手にカードを2枚使って作り上げた防壁が破られたため、非常に苦しい手札不足に陥っている。


 深く息をつき、リンは慎重に場の状況を読みながら考えた。

 お互いの手札は1枚ずつ。このターンに攻めることも可能だが、それでは後が続かない。

 手札をゼロにしてしまったが最後、相手のカードに対処する(すべ)が無くなってしまうのだ。


「(それでも――あたしは、ここでやるしかない!)」


 意を決して挑んだリンはターン終了を選ばず、高らかに宣言する。


「【ポイズンヒドロ】にリンクカードを装備! お婆ちゃん……見ててくれるかな?

 使わせてもらうよ! 【エレメンタル・コア】!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ