第22話 蒼の貴公子 その3
【 リン 】 ライフ:2600
パワード・スピノサウルス《バースト1回》
攻撃2000(+1000)/防御2000(+1000)
【 カイン 】 ライフ:4000
パワード・スピノサウルス《バースト1回》
攻撃2000(+1000)/防御2000(+1000)
「僕のターン、ドロー! 【パワード・スピノサウルス】、攻撃宣言!
カウンターカード、【パワースレイヴ】!」
「スピノサウルスでガード! カウンターカード、【タクティカル・ディフェンス】!」
その日、そのとき。観客たちが目にしたのは、公式大会でも滅多に行われない同ユニット対決であった。
お互いのフィールドにスピノサウルスが1体ずつ。両者1歩も引かないまま、真正面から恐竜同志の殴りあい。
1億年の時を越えた縄張り争いに観客は大熱狂。
試合開始の時点ではカインを支持する者が多かったが、リンというプレイヤーの心意気に魅せられて声援を送る者も増えてきた。
――が、その激突も長くは続かない。カインは手札からカードを取り出し、自陣の強化を始める。
「このままプロレスを続けるのも面白いけど、さすがに本戦だからね。
スピノの攻撃は防がせてもらうよ。ユニット召喚――【シェルタークラブ】!」
Cards―――――――――――――
【 シェルタークラブ 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:水棲
攻撃1000/防御1800
効果:ステータスの強化効果を受けているとき、このユニットの防御力に+1000。
スタックバースト【オートガード】:永続:攻撃力がゼロまで減少。
このユニットはいかなる状況でも必ずガードし、自身の防御力以下のダメージを無効化する。
――――――――――――――――――
ズシッと重量感のある音を響かせて登場したのは、1mほどもある大きなヤドカリ。
岩のように頑強なサザエの貝がらを背負い、その下から触覚と目で周囲の様子をうかがっている。どうやら、かなり臆病な性格らしい。
ヤドカリにしては非常に大きいが、スピノサウルスに比べれば石ころ程度のサイズ。
しかし、そんなユニットが1体いるだけでも厄介な防壁となる。
「さらにプロジェクトカード、【清澄なる呼び水】」
Cards―――――――――――――
【 清澄なる呼び水 】
クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード
効果:自プレイヤーのフィールドに【タイプ:水棲】のユニットが2体以上いる場合のみ使用可。
★2までの【タイプ:水棲】のユニットカード1枚をデッキから任意に手札へ加える。
――――――――――――――――――
「へぇ~、そういうカードって【水棲】にもあるんだ」
「え……っ?」
ここまで勝ち上がってきたにも関わらず、思わず初心者丸出しなことを言ってしまうリン。
突然のことでカインは表情が固まったが、やがて苦笑しながらも丁寧な口調で説明を加える。
「あはは、このゲームはユニットがいないと何もできないからね。
それぞれの種族ごとに、★2までなら”引き”をコントロールするカードがあるんだ」
「なるほど~、この大会が終わったら探してみよっと」
初心者であることを隠そうともしないリンの姿に、観客たちから巻き起こる笑い声。
どう考えても、トップを競いあう戦いとは思えない会話だ。ユウとステラは自分のことのように顔を赤らめてしまった。
「あのバカ……こんな場所でする会話じゃねえだろ!」
「私たちも、ちゃんと教えてあげるべきでしたね」
「でも、あのカインという対戦相手……顔は優しそうだけど、目が笑っておりませんぞ」
子供ゆえの直感なのか、ソニアは彼の内心を見抜いていた。
特定の【種族】を手札に引き寄せるカードは、ラヴィアンローズでも使用率が高い常套手段。
これまでリンと戦った者だけでも、ステラ、サクラバ、プロセルピナ、マツモトが使用している。
だがしかし、そんな誰もが使って当たり前なカードを知らないまま、リンは17回も連勝してきたのだ。
観客からの笑い声が響く中、カインだけは警戒を緩めずに両眼で相手を捉えていた。
「続けさせてもらうよ、【清澄なる呼び水】で引いた2枚目の【シェルタークラブ】をスタックバースト!」
効果が発動した直後、ヤドカリは慌てるように貝がらの中へ閉じこもってしまう。
スピノサウルスからの強化効果も加算すると、防御力3800の防壁。さらにオートガード能力を備え、自身の防御力以下のダメージを無効化。
実況席からは感心したようなコンタローの声が響く。
「ほほう、これは良い采配。さすがはカイン選手なのだ」
「シンシアにはよく分からないんですけど、すごく固い盾になるユニットを置いたってことですよね?」
「ただの盾じゃないことは、フィールドをよ~く見れば分かるのだ。
スピノサウルスは装備品を破壊する。つまりはリンクカードが使い物にならない。
そんな状況で装備に頼らない防壁を作り出すのは、とても難しいことなのだ」
スピノサウルスに装備品が通用しないのは、【アルミラージ】と共に魔剣を葬った時点で明らかなこと。
よって、カインは別の手段で防壁を築き、リンとの殴りあいに備えたのだ。
「僕はこれでターンエンド」
「あたしのターン、ドロー!
たしかに固いけど……そういうことなら、こっちもユニット召喚!」
この時点でリンの手札は、たったの2枚。カードに余裕がない戦況の中、負けじとユニットを召喚する。
彼女の陣営にユラユラと現れたのは、城壁の戦いでキャプテン・マツモトを苦しめた毒クラゲ。
Cards―――――――――――――
【 ポイズンヒドロ 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:水棲
攻撃1600/防御1200
効果:プレイヤーが所有するユニットに対してのみ有効。
このユニットとバトルした相手は、ターン終了まで効果とスタックバーストの全てを失う。
スタックバースト【毒素濃縮】:永続:上記の効果を次の相手ターン終了時まで持続させる。
――――――――――――――――――
紫色のランタンのように美しく光るクラゲだが、その触手に隠し持っているのは恐ろしい猛毒。
スピノサウルスの効果で攻防が1000ずつ増加し、さらにバトル相手のユニット効果とスタックバーストを無効化。これで相手の攻撃をギリギリ防ぐ壁となる。
「なんとぉお! ユニットの効果を打ち消す毒クラゲが現れました!
【ポイズンヒドロ】と戦うと、スピノサウルスは弱体化して攻撃力が2000まで下がります。
カイン選手、ほんのわずかに届かない!」
「ここにきて、お互いに防衛戦。この先どうなるのか、まったく分からなくなったのだ」
「格上が相手なのに果敢に挑んでいきますね。
もちろん、シンシアは両方を公平に応援しますけど……ここまで頑張ったリン選手、本当にすごいです!」
実況席と共に会場も盛り上がるが、リン自身の消耗は激しい。
初手にカードを2枚使って作り上げた防壁が破られたため、非常に苦しい手札不足に陥っている。
深く息をつき、リンは慎重に場の状況を読みながら考えた。
お互いの手札は1枚ずつ。このターンに攻めることも可能だが、それでは後が続かない。
手札をゼロにしてしまったが最後、相手のカードに対処する術が無くなってしまうのだ。
「(それでも――あたしは、ここでやるしかない!)」
意を決して挑んだリンはターン終了を選ばず、高らかに宣言する。
「【ポイズンヒドロ】にリンクカードを装備! お婆ちゃん……見ててくれるかな?
使わせてもらうよ! 【エレメンタル・コア】!」




