第19話 強運の少女
オルブライトへの挨拶を済ませたクラウディアたちは彼から離れ、再び3人で話しあう。
「急な対面で驚かせたかしら」
「まあ……ビックリはしたよ。あれがクラウディアの?」
「ええ、私とプロセルピナが所属していたギルドのリーダー、オルブライト大団長。
正確には”元”リーダーで、今はどこにも所属していないけれど。
私たちはあの人の下で勉強して、戦いかたやギルドの運営を学ばせてもらったわ」
「ハードボイルドなイケオジやないか~。
せやけど……近付いただけで、よう分かる。あの人はバケモンやな」
リンを震えさせた圧倒的な格の差を、すでにサクヤも感じ取っていたようだ。
どんなカードを使ってくるのかは分からないが、少なくとも今のリンでは勝てる気がしない。
「はぁ~……ここまで来ると、さすがにみんな強いよね。
あたしのビギナーズラックも、そろそろ限界だよ」
「本戦に出とる時点で、とっくにビギナーは卒業やろ。
クラウディアは『鋼』やし、うちも『禍巫女』なんて不吉な呼ばれかたしとるけど――
この大会でリンにも何かくっつきそうやな、おもろい二つ名が」
「二つ名って……称号とは違うよね?」
「そうね。ゲームシステム上では何の意味もない、あだ名のようなもの。
ただ、二つ名を冠するということは、それだけ多くの人に注目されている証よ。
名誉かどうかはともかく、その人の知名度を反映する要素としてね」
クラウディアが言うように、誰も知らないプレイヤーに二つ名が付いたところで、その名が広まらないのでは意味がない。
多くの人が二つ名で呼び、この世界に浸透しなければいけないのだ。
ゲームシステムである『称号』は誰にでも得られるチャンスがあるが、『二つ名』は知名度が高いプレイヤーだけに与えられた特権といえる。
「いや~、もう今回の大会はお腹いっぱいだからさ。
できるだけ何事もなく、スーッと退場させてもらえると……」
「お待たせしました! この3回戦からは生き残った選手たちによるトーナメント形式!
ただいまマッチングが終了し、対戦者が決定しました。
なお、3回戦の試合は4名がシードとなり、1回お休みとなります」
会場全体に響くウェンズデーの声。
言葉を遮られたリンだが、アナウンスを聞いた途端にネコ衣装の尻尾をピンと立たせる。
「シード? シード枠があるの!?」
「それでは、こちらがトーナメント表になります!」
「(シード、シード、シード、シード……!)」
どうせ戦うなら1回でも少ないほうがいい。
リンが天に祈りを捧げながら待っていると、やがて控室のモニターにトーナメント表が映し出された。
「あ、うちシードみたいや。すまんなぁ」
「私は違うけれど……別にどうでもよかったわ、1戦くらい多くても。
リン、いつまで祈ってるの? 目を開けて見てみなさい」
呆れた声で促され、少しずつ目を開けながらトーナメント表を見るリン。
たしかにサクヤはシード枠で、クラウディアはシードではない。
そして、リンは――なんと、3回戦のトップを飾る第1試合に配置されていた。
対戦相手はカイン。さらにはリンの隣にクラウディアの名前が並んでいる。
「ト、トップにいるんですけどぉおおお~~~~~!?」
「おめでとさーん、しっかり盛り上げてきてや」
「しかも、勝った後は4回戦で私とぶつかる組み合わせ。
ふふふ……面白くなってきたわね」
「あ、あばばばば、あば、あばばば……っ!」
もはや、リンの口からはまともな言葉が出なかった。
顔面蒼白になってカインのほうを見てみると、イケメンの貴公子が白い歯をキラッと輝かせながら微笑んでくる。
たとえ彼に勝ったとしても、次の相手はクラウディア。
こんな面白い配置になる時点で強運の持ち主なのだが、本人にとっては地獄行きの宣告に等しい。
「あんな馬の骨はさっさと倒して、この前の続きをしましょう。
悪いけど、今度は手加減なんてしないわよ?」
「あは……はは……もう、どうにでもして」
ネコの耳と尻尾をしおらせ、観念したかのように脱力するリン。
決戦のときを迎えた友人の肩に手を置いて笑うクラウディアだが、その目は鋭い刃のごとく警戒を緩めていない。
それもそのはず、彼女が3回戦で戦う相手には『アリサ』と書かれているのだ。
この大会にはクラウディアの過去と現在に関わる人物が入り乱れている。
かつての仲間であったプロセルピナが破れ、師と仰ぐオルブライトと久々の再会。
そして、在籍していたギルドの系譜を引き継ぐ――いや、横から奪ったアリサとの直接対決。
クラウディアが目を向けると、【エルダーズ】の新リーダーは悪童のようにニヤリと笑みを浮かべていた。




