表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/297

第11話 カードゲーム始めました その4

【 リン 】 ライフ:1600

トロピカルバード

 攻撃300(+500)/防御100(-100)

 装備:名刀『菊一文字』

オヴィラプトル

 攻撃200/防御300


【 ユウ 】 ライフ:3200

ヘビーナイト

 攻撃100/防御2000

好戦的なエルフ

 攻撃2400/防御500

デンドロバティス

 攻撃200/防御300

デンドロバティス

 攻撃200/防御300

 対戦相手のユニットを倒して貫通ダメージを与えるという仕様上、このゲームは短時間で終わる。

 後攻3ターン目にして現在の状況は劣勢。

 ユウに次のターンを回せば、【好戦的なエルフ】の一撃で敗北するだろう。


 しかし、リンの顔は戦意に満ちあふれていた。

 1枚のカードを手に取り、まっすぐ真上に(かか)げて宣言する。


「いっくよー! これがあたしの最強ユニット!」


「なにっ!? アレを出すつもりか!」


「お願い、力を貸して――【月機(ルナティック)武神(・ウェポン)アルテミス】!」


 リンがその名を呼んだ直後、カードから一閃の光が飛び出して天空を貫く。

 蒼天(そうてん)へ向かってレーザービームのように伸びた光は、押し広げられた雲がリングを描くほどのエネルギーを放ち、やがて弾けて拡散する。


 それは空の色を塗り替えるように浸透し、今まで昼間だったフィールドは急速に夜へと変化した。

 太陽に代わって世界を照らすのは黄金色の満月。


 その月光を背に、リンと契約した女神が静かに降りてくる。


 銀の髪はプラチナのように輝き、各所に機械的な光をたたえたサイバーな衣服は、古代神話と科学文明の結晶。

 勇ましく、そして優雅に整った美貌(びぼう)の女神が降り立ち、契約者であるリンに目を向けた。


「参りましょう、マスター」


Cards―――――――――――――

【 月機(ルナティック)武神(・ウェポン)アルテミス 】

 クラス:スーパーレア★★★★ タイプ:神

 攻撃2600/防御2600

 効果:リンクカードを何枚でも装備できる。

 スタックバースト【(ハイパー)次元(ディメンジョン)射撃(シュート)】:永続:装備されているリンクカードを1枚破棄するたびに攻撃宣言を追加で1回行う。

――――――――――――――――――


 そうして召喚が完了すると、フィールドは再び昼の高原地帯へと戻っていく。

 あまりにも派手な女神の登場に、兄妹はポカーンとした顔で立ち尽くしていた。


「す……すっご~い!」


「今のがスーパーレアの召喚演出かよ……初めて見たぜ」


「これで形勢逆転だね!

 じゃあ、さっそく【アルテミス】にリンクカードをセット!

 さらにリンクカードをセット!」


認識完了(アクティベイテッド)

 マルチプル・リンクビット、展開します」


 リンクカードを何枚でも装備できるという【アルテミス】の能力。

 契約者に応じた女神は『マルチプル・リンクビット』と呼ばれる機械を、体の周囲にいくつか浮かせた。


 女神自身ではなく、ビットにリンクカードが1枚ずつ装備され、それらが個々に自立飛行する。

 この機能によって、どれほど大量の武器であろうと同時に扱えるというわけだ。

 もちろん、装備の効果は女神自身に適応される。


Cards―――――――――――――

【 汎用アタッチメント・ブレード 】

 クラス:コモン★ リンクカード

 効果:装備されているユニットに攻撃+300。


【 名刀『菊一文字』 】

 クラス:アンコモン★★ リンクカード

 効果:装備されているユニットに攻撃+500、防御-100。ゼロ以下にはならない。

――――――――――――――――――


 リンクカードがビットに装備された結果、【アルテミス】の周囲には2本の刃物が浮かんでいた。

 さすがのユウも、これには戦慄する。


「攻撃力……合計3400だと? バケモノかよ!?

 スタックバーストの効果も、いかれてやがる。

 まあ、★4でバーストするなんて実質不可能なのが救いか」


 【アルテミス】のスタックバーストは、まさに神のごとき破壊力を誇る。

 通常は1ターンに1回しかできない攻撃宣言を、装備されたリンクカードを破棄するたびに何回でも行えるのだ。


 そもそも、リンクカードを無限に装備できるということは、無限に強くなれるということ。

 装備したもの次第で様々な立ち回りができるため、汎用性も非常に高い。

 ただし、あまりにも希少な★4のため、スタックバーストは実質封印された状態である。


「準備は整ったよ! さあ、覚悟はいい?」


「おうよ! 盛り上がってきたなぁ!」


「テンションが上がるのは――うん、今なら分かる。

 ここまでド派手なことになったんじゃ、アガらないほうが無理ってもんでしょ!」


 理解不能なことが多かったラヴィアンローズの世界に、リンも少しずつ馴染んできていた。

 もはや、躊躇(ためら)うこともなく腕を前へと突き出す。


「いくよ! 【アルテミス】、攻撃宣言っ!」


「カエルで受けても耐えられるが、まだ鳥が残ってるしな……

 俺は【ヘビーナイト】でガードする!」


 他のユニットを守るかのように、重装戦士が前に出て盾を構えた。


 【アルテミス】はサイバーな色に輝く金属製の弓を手にすると、具現化させた光の矢をギリギリと引き絞る。

 月の女神にして、狩猟の女神。

 彼女が矢を放った瞬間、音速を超えたかのように衝撃波がほとばしり、浮いていた刃物も後を追って斬りかかる。


 あれほど頑丈な壁に見えた【ヘビーナイト】は一瞬で消し飛び、ガラスが割れるように砕け散った。

 それだけでは(とど)まらず、2000の防御ステータスで軽減しても、なお1400の貫通ダメージがユウに突き刺さる。


「ぐああああああああっ!」


『ユウ、残りライフ1800』


「すっ……ごぉ……」


 初めて手にした圧倒的な火力に、リンはゾクッと震えた。

 戦略コンボが決まったときの喜びとは別種の、レアカードの強さで場を制圧する爽快感。

 カードゲームが与えてくれる蜜の味を、またひとつ知ってしまったのだ。


「まだいくよ! 今度は【トロピカルバード】で攻撃!」


「800ダメージで済むならガードはしない。俺が受ける!」


「え……?」


 テンションが最高潮になりかけていたリンは、ここで冷静な思考に引き戻された。

 日本刀を持って飛ぶ南国の鳥が、1ターン目と同じようにユウへと突っ込む。


「クェーーーーッ!」


「うぐ……!」


『ユウ、残りライフ1000』


 ライフポイントは逆転し、これで優勢になった。

 ……はずなのだが、リンの顔には緊張が走る。

 たしかに『ユニットで防御したくない場合、プレイヤー自身がダメージを肩代わりすることもできる』というルールは存在していた。


 だが、2体も並んでいる【デンドロバティス】で受ければ、貫通ダメージを軽減できる上に、カエルの能力でリンにダメージを返せたはずだ。

 どうして、兄はそうしなかったのか。


「へへへ……まだ攻撃するか?」


「あ……あたしはこれでターンエンド」


「じゃあ、俺のターンだな。ドロー!」


 不穏な空気が漂い始めた中、ユウにターンが回る。

 現時点では彼のほうが不利。


 【好戦的なエルフ】は高い攻撃力を誇るが、強化効果を受けないというデメリットがあるので、【アルテミス】の防御に少しだけ届かない。

 よって、このターンに彼は何かを仕掛けてくるはずだ。


「ふははははっ、妹よ。

 俺はな……すでにお前の知っている兄ではないのだ」


「は?」


「このコスチュームは、俺のデッキに合うように選んだ漆黒の戦装束(いくさしょうぞく)

 お前が【アルテミス】と出会ったように、俺にも魂の相棒がいるのだ。

 そして、その相棒と共に戦うために、俺は人としての情けを捨てた!」


「何言っちゃってるの?」


「いいから聞けぇ! ()のテンションに戻るな!

 とにかく、お前の兄は今から非道なことをする。

 勝利のためなら闇の力だろうと使うのが真の強者なのだ!」


 おかしな角度に首を傾け、顔の半分に手を当てながら語るユウ。

 何か策があるなら、さっさと披露してほしいのだが、ここはポーズを取らなければいけない場面らしい。


「来たれ、我がしもべ! 我が魂のカードよ!

 肉を喰らい、血に染まり、暴虐の限りを尽くすがいい!

 ユニットォオオオオーーーッ、召喚!」


 そして、それはユウが召喚を宣言した直後のことだった。

 あの強そうな筋肉エルフが、そして2体の毒ガエルが次々と黒く染まり、ボロボロに崩れていく。


 一体どうしたのかと身構えると、リンに向かっていきなり200ダメージが直撃。

 正確には100ダメージが2回放たれた。


 それは去りぎわに相手プレイヤーへ直接ダメージを与える【デンドロバティス】の効果。

 つまり、あのユニットたちは破棄されたのだ。


『リン、残りライフ1400』


「くっ……な、何が起こってるの!?」


 3体もいた相手側のユニットは姿を消し、フィールドには真っ黒な物体だけが残される。

 その物体は一箇所に集まって(かたち)()し、大型のモンスターを誕生させた。


 鋭い牙が並ぶ口からは、飢えたケモノのような(うな)り声。

 前後の足で大地を踏む肉食獣の体に、後方でユラユラと揺れる2本の長い尻尾。

 全身を覆う赤黒い毛は、まるで時間とともに酸化して黒くなった血液のようだった。


 やがて――鋭い両目が見開かれ、真っ赤な眼光が敵となる【アルテミス】をとらえる。


Cards―――――――――――――

【 ダークブラッド・ビースト 】

 クラス:レア★★★ タイプ:動物

 攻撃2100/防御1900

 効果:召喚したとき、自プレイヤーが所有するユニットを全て破棄する。破棄したユニット1体につき攻撃+300。

 スタックバースト【血塗られた咆哮(ブラッディーバーク)】:瞬間:全ての強化および弱体効果を失い、その数値をダメージに変換して相手プレイヤーに与える。リンクカードは含まれない。

――――――――――――――――――


「グォオオオオオオオーーーーッ!!」


「え……ええええええっ!?」


 兄が全てを賭けて召喚した魔獣の威圧感に、リンは驚愕(きょうがく)するしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ