第16話 クラッシャー・コーディ その5
【 サクヤ 】 ライフ:2300
幽門桜
攻撃0/防御3200
バーゲスト《アンデッド化》
攻撃1700(+1000)/防御1000(+1000)
装備:コープス・アーマー
【 コーデリア 】 ライフ:3100
死天使・アズラエル
攻撃2200(+3000)/防御1600(+1200)
装備:ホーリーブレイド(【悪魔】【アンデッド】とのバトル時に攻撃600上昇)
「ふ~む……手札が少ないんは、うちも同じや。今のドローで、ようやく2枚。
相手はユニット1体、手札1枚、ライフは3100。
ま、なんとかなるやろ!」
高火力の一撃を回避し、今度はサクヤのターン。
コーデリアの陣営にいる天使【アズラエル】は防御2800。
対するサクヤの陣営にいるアタッカー【バーゲスト】は攻撃2700。ぎりぎり100足りない状況だ。
「とりあえず、そこの真っ黒な天使には黙っててもらうで。
プロジェクトカード、【霊魂呪縛】!」
サクヤのデッキには、破棄されたユニットを使う手段がいくつかある。
このカードは【幽門桜】による復活が間に合わず、眠ったままになるユニットを有効活用する手段。
Cards―――――――――――――
【 霊魂呪縛 】
クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード
効果:破棄された自プレイヤーのユニット1体を指定して発動。
ターン終了まで目標のユニット1体に、指定した破棄ユニットの攻撃および防御と同数のステータス低下を与える。
この効果で使用された破棄ユニットは対戦終了まで使用不可になる。
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「使うユニットはもちろん、【熟練の斬り込み隊長】!
【アズラエル】のことを押さえといてや!」
発動を宣言した直後、コーデリアの陣営にいる天使は青白い霊気に包まれた。
英霊として復活できなくなる代わりに、攻撃1500、防御1700という多大なステータス低下を引き起こす【熟練の斬り込み隊長】。
すさまじい効果を発揮するが、このプロジェクトカードを活かすには相応のユニットを破棄させておく必要がある。
「ううっ、【アズラエル】の防御が1100に……!」
「その天使を失ったら、そっちは終わりやろ?
それじゃあ、【バーゲスト】の攻撃宣言!」
「ふふふふ……ひひひひひひひ!」
「むっ?」
明らかにサクヤのほうが有利な状況だが、コーデリアは凶悪な笑みを浮かべて歓喜する。
彼女の手に握られた最後の1枚、それは恐ろしい効果を持つ切り札だった。
「しましたね、攻撃宣言を! しちゃいましたねぇ!
私は本体で受けます――そして、カウンターカード発動!」
Cards―――――――――――――
【 凛麗なる聖域 】
クラス:レア★★★ カウンターカード
効果:ターン終了まで、自プレイヤーが受けたダメージの半数を相手プレイヤーに与える。
このカードは対戦中に1枚しか使用できない。
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コーデリア側のフィールドを薄い虹色のオーラが覆っていく。
★3レアの中でも、極めて高い効果を持つカウンターカード。
あまりの強さに使用制限が入るほどであり、受けたダメージの半分を相手に跳ね返すことができる。
【アズラエル】がユニットを仕留めてはプレイヤーを回復させ、自身はガードなど気にせず痛み分けに持ち込む。
コーデリアの戦略は単純ながらも凶悪であった。
「くっ、それをどうにかする手段はあらへん……」
「ほんの半分ですけどねぇ! 私が受けた快楽を分けてあげますよ!」
紫色の炎に包まれた魔犬がコーデリアに飛びかかり、その体に牙を突き立てる。
VRのシステムによって痛みのフィードバックは抑えられているはずだが、彼女は悦楽に満ちた表情で絶叫した。
「ああああああああああ~~~~~っ!!
サクヤさんに見られながら犬に襲われるなんて……私、こういうのもいけそうです!
あはははは! あははははははははは!!
さあ、一緒に楽しみましょう。感じあって溶けあって慰めあって、私とひとつにぃいいい!!」
「うっさいわ! 黙って、かじられとけ!」
「コーデリア選手、残りライフ400。
サクヤ選手、残りライフ950」
2700の攻撃力を持つ【バーゲスト】のダメージが、そのままコーデリアに。
そして、半分のダメージがサクヤに与えられ、お互いのライフが激減する。
このターンの開始時には落ち着いて見ていたステラたちも、これには動揺するしかなかった。
「まずいですね……これでは最悪の場合、引き分けです」
「引き分けになったら、どうなるのです?」
「同時にライフがゼロになると相討ち。両方とも負けた扱いになるんだ」
「ええっ!? あの【凛麗なる聖域】とかいうカード、かっこいいから欲しいと思ったのですが……そんなに凶悪な効果だなんて」
「あれはカウンターカードの、ほぼ最高峰。
手に入れようと思って得られるカードじゃありません。
ただ……コーデリアさんが初めて引いたレアだそうで、その魅力に取りつかれて今のようになったとか」
「いや~、あれは元々の性格の問題じゃないか?」
ダメージの共有という形での、他者との感覚のつながり。
そこに気持ちよさを求めるような戦いかたは、とてもソニアの教育によろしくない。
こんな破廉恥な対戦がワールド全域に中継されているとは知らず、サクヤは眉をひそめて考え込んでいた。
「やっかいな状況になってしもた……」
「さあ、さあ、どうします? 私だけを倒したいなら、と~っても細い道を通らなければいけませんよ」
弱体化しているとはいえ、【アズラエル】の防御力は1100。
これよりも攻撃力が低いユニットでは、ガードされてしまうので意味がない。
かといって高火力のユニットを出してしまうと、コーデリアは自分で受けて相討ちに持ち込むだろう。
さらに、サクヤはこのターンで相手を倒さなければならない。
ターン終了を宣言したが最後、霊魂の呪縛が解けてしまい、攻撃力5000を超える【アズラエル】が襲ってくる。
「うちだけ負けるか、両方負けるかの2択かいな。
ほんま、デッキも使い手もいやらしい……ハッキリ言って、うちはあんたのことが苦手や」
「ああんっ、そうやって絶対に気を許さないですよね……私はサクヤさんが大好きです」
「あんたの『好き』は、気に入った相手全員が対象やろ。
まったく、こんなんと出会ってしまったのが運の尽きやで」
コーデリアのシスターらしい点は、愛を惜しまず、愛に忠実なところ。
ただし、ひたすら欲望に忠実でもあるので、結局シスターには向いていない。
「とりあえず、今回はこれで幕引きにしよか」
「へぇ~、何か持ってるんですか?
その最後の1枚の手札、ちょうど攻撃力1500以上1900未満のユニットなら私の負けですが」
「んなもん持っとるわけないやろ、細かすぎやっちゅーねん!
せやけど――条件を満たすことは可能や。このカードでな、【霊魂変異】!」
Cards―――――――――――――
【 霊魂変異 】
クラス:レア★★★ リンクカード
効果:自プレイヤーが所有する【タイプ:アンデッド】のユニット1体を選択して発動。
そのユニットをリンクカードとして扱うことが可能になり、装備したユニットに攻撃と防御の【基礎値】を加算できる。
この効果は合体ではなく、破棄扱いにもならない。
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「アンデッドをリンクカードに変える効果……?
まさか……それを装備するのは!」
「せや、装備品になってもらうんは【バーゲスト】。
ほんま、今回は最初から最後までお疲れさんやで。
でもって、装備するユニットは――おるやろ、うちのところにデカイのが」
そう言って最後のカードを発動させたサクヤの背後には、巨大な満開の桜が1本。
【幽門桜】に【バーゲスト】の魂が還るかのように憑依し、本来なら戦う力を持たない桜に攻撃ステータスを与える。
「これで桜の木は攻撃力1700。
あんたが本体で受けてもうちは生きていられるし、天使でガードしたところで600ダメージ貫通」
「う……ううっ……降参はしません!
攻撃は……ふ……ふひっ、私が受けます!」
「そう言うと思ったわ。ほんなら、遠慮なくいかせてもらうで。
【幽門桜】、攻撃宣言!」
巨大な桜は、攻撃の際にも動くことはなかった。
ただ一陣の風が花びらと共に吹き荒れ、バトルフィールドを吹き抜けていく。
「これで終い――往生せいやぁああああああああああっ!!」
「ふ、ひひ……あはははははははははははっ!!
一緒に感じてください、この快楽、削れていくライフ!
最っっ高の気分で……ふ、ふひひひ……逝けますねええええええ!!」
桜の花びらを乗せた風がコーデリアのライフを消し去り、その半分となる850ダメージをサクヤに与える。
最後にユニットでガードせず、感覚の共有を求めたのは、コーデリアなりの意地であった。




