第15話 クラッシャー・コーディ その4
【 サクヤ 】 ライフ:2300
幽門桜
攻撃0/防御3200
バーゲスト《アンデッド化》
攻撃1700/防御1000
【 コーデリア 】 ライフ:4000
死天使・アズラエル
攻撃2200/防御1600
シェムハザ
攻撃1400/防御1500
一方的な局面でサクヤが召喚したのは、咲き乱れる巨大な桜の木。
これでも【タイプ:植物】のユニットで、攻撃力を持たない代わりに防御とユニークな能力に長けている。
1ターンに1体、これまでに破棄されたユニットを【タイプ:アンデッド】として復活させる唯一無二の効果。
復活したユニットは腐ったゾンビのような姿ではなく、青白く燃える英霊として蘇る。
サクヤ自身が巫女装束を着ていることもあり、その統一感は属人が立ち入ってはならない神域をかもし出していた。
対するコーデリアもシスターの姿に【タイプ:神】のユニットという統一感だが、どこを見ても黒づくめ。
2体の天使を従える彼女と向かいあい、サクヤは1枚のカードを発動させる。
「【バーゲスト】にリンクカードを装備、【コープス・アーマー】!」
Cards―――――――――――――
【 コープス・アーマー 】
クラス:レア★★★ リンクカード
効果:装備されたユニットの攻撃と防御-600。
【タイプ:アンデッド】のユニットに装備された場合、上記効果ではなく攻撃と防御+1000。
装備しているユニットが破棄されたとき、このカードは所有プレイヤーの手札に戻る。
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使用したのは、サクヤが持つ★3レアカードのひとつ。
アンデッド以外に装備させるとデメリットしかないが、条件を満たせば強力な効果を得られる。
腐った肉のような禍々しい鎧が【バーゲスト】を包み、燃える体と混ざりあって怨霊のように変化。
青白い炎が紫色に塗り替わり、より攻撃的な姿へと変貌を遂げる。
「ほな、こっちからいくで! 【バーゲスト】、攻撃宣言!」
「【シェムハザ】でガードします!」
攻撃しやすい先攻のサクヤだが、ここで初めてのアタック。
紫色の炎が尾を引き、天使へ向かって火球のごとく突っ込んでいく魔犬。
鋭い牙で噛み付いた部分から発火し、【シェムハザ】は全身が燃え上がって消滅する。
「コーデリア選手、残りライフ2800」
「ふふふふ……ようやく、あったまってきましたねぇ!
でも、これっぽっちじゃ気持ちよくなれませんよ」
「ようやく軌道に乗ったとこやし、今回はこれで勘弁してぇーな。
うちのターンは終いや」
「あれあれ~、いいんですかぁ? ガードが甘いみたいですけど」
「3200じゃ足らんのかい!
ま、『クラッシャー・コーディ』なら防御が5000あっても、どうせ壊してまうんやろ。
うちはこれでええ」
「そうですか……では、ドロー!
こっちも良い感じになってきました。まずはユニット召喚です!」
Cards―――――――――――――
【 能天使・カマエル 】
クラス:レア★★★ タイプ:神
攻撃2600/防御1200
効果:このユニットの攻撃がガードされたとき、バトルを行っていない相手ユニット1体に対して、攻撃力の半分のダメージを与える。
スタックバースト【天蠍貫通撃】:瞬間:上記の効果が攻撃力と同数になる。
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光と共に空から舞い降りたのは、またしても【タイプ:神】の天使ユニット。
サソリのように真っ赤な甲冑に身を包み、手には鋭い三角形の刃が付いた長槍を持っている。
その槍に貫通効果があるらしく、1回の攻撃で2体にダメージを与えられるようだ。
が、しかし――強力な効果を持つ★3ユニットでありながら、【カマエル】が槍を振るうことはなかった。
「【アズラエル】、スタックバースト。
出てきたばかりで悪いのですが、【カマエル】には糧になってもらいます」
召喚されるなり、粒子化して消えていく能天使。
その粒子が【アズラエル】へと降り注ぎ、攻撃と防御のステータスを加算させる。
容赦なくユニットを破壊することで恐れられる『クラッシャー・コーディ』は、自身のカードを壊すことすら厭わなかった。
「あ~あ、せっかくの★3やのに」
「ふひっ! 勝利のためには犠牲も必要なのです!
これで【アズラエル】は攻撃4800、防御2800。
さらに――リンクカードを装備!」
Cards―――――――――――――
【 ホーリーブレイド 】
クラス:アンコモン★★ リンクカード
効果:装備されたユニットに攻撃+400。
【タイプ:悪魔】および【タイプ:アンデッド】とバトルしたとき、追加で攻撃+600。
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聖騎士が持つ白銀の片手剣。清められた刃は悪魔や怨霊への特攻があり、アンデッドを扱うサクヤに有効打を与えられる。
「ほ~れ、見てみい。防御が5000あっても足りんやないかい」
「このままでも、攻撃力は5200。そっちのワンちゃんで受けたら5800。
ふひひ、ひひひひひひっ!
こんなのが入ったら、サクヤさん壊れちゃいますよねぇ!!」
「うちに入れようとすな! たしかに、その貫通ダメージはブッ飛んでまうけど……」
コーデリアの恐ろしさは、5000以上の火力を安定して叩き出すところにある。
今回は【アズラエル】のスタックバーストを使ったが、それ以外にも攻撃力を強化する手段が大量に入った速攻デッキ。
この大会でも対戦相手をことごとく叩き潰し、壊しながら勝ち進んできたに違いない。
ただ、性格に難がある点を除けば、プレイヤーとしては優秀。
どんな相手と戦うことになっても正面から堂々と潰しにかかるため、ユニット同士の殴りあいを求めるプレイヤーには好評だったりする。
「うひひひっ……はぁ、はぁ……じゅ、準備はいいですか?
できれば一緒に逝きたかったんですけど、これだけ大きな試合ですからねぇ!
3ターンキルで神の御下に送ってあげますよぉお!!」
「分かった、分かった。キモいから早よせーや!」
「それでは、失礼して……んんん、攻撃っ宣言!!」
「【バーゲスト】でガード!」
焦点の合わない目で狂喜し、体をくねらせながら宣言するシスター。
自分のほうこそ悪魔だろうと心中で毒づきながら、サクヤは取り出したカードを1枚燃やす。
「【バーゲスト】を目標にカウンターカード、【ゾンビ・ウォール】!」
Cards―――――――――――――
【 ゾンビ・ウォール 】
クラス:コモン★ カウンターカード
効果:ターン終了まで、目標の【タイプ:アンデッド】1体は貫通ダメージを無効化できる。
このカードは1ターンに1枚のみ使用可。
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「うっ……姑息な手段を!」
ここでコーデリアの攻勢が大きく崩れる。
アンデッドにしか使えない★1コモンだが、サクヤのデッキならば十分に使いこなせる防御策。
黒い天使の攻撃で魔犬は2度目の破棄となり、またしても粒子を散らせて消えていく。
と――ここで発動する効果が3つ。
【バーゲスト】が装備していた【コープス・アーマー】がサクヤの手札へ戻り、さらに【バーゲスト】の効果でコーデリアの手札が1枚消滅。
コーデリア側は【アズラエル】が敵を倒したことで300のライフ回復効果を受ける。
「コーデリア選手、残りライフ3100に回復」
「ぐ……ぬ……うぐぐっ」
ライフの数値は彼女のほうが上だが、その顔は苦悶に歪んでいた。
必殺の一撃を回避され、さらに【バーゲスト】で2枚もカードを奪われたのは、戦略的に相当なダメージだ。
本来はカードの枚数で上回る後攻でありながら、コーデリアの手札は1枚しか残っていない。
「キツそうな顔やな~。はしゃぎすぎて、息が上がってしもたん?」
「ふひひひ、まだまだ……全然、いけますよ!
でも、このターンは終了です」
「ほな、うちのターン。ドロー。
まずは【バーゲスト】を復活! でもって、【コープス・アーマー】を装備!」
その瞬間、中継を見ていたスタジアムから大きなどよめきが起こる。
倒された魔犬が蘇り、さらには先ほどと同じリンクカードが再び装着されたのだ。
まったくもって無傷、ノーダメージ。
手札から【ゾンビ・ウォール】を1枚切った以外、何も失っていない状態でサクヤのターンが始まる。
「す、すげえ……あのデッキ、ユニットが無限に蘇るじゃねーか!」
「このパターンに入ったサクヤさんは本当に強いです。
しかも、復活するのは手札を削る【バーゲスト】。相手をすればするほど不利になっていきます」
「どんなに強いカードでも、使う前に消えてしまえば最初から無かったようなもの。
サクヤ殿の戦いかた、めちゃくちゃ強いけど……えげつないのです」
1ターン目に【バーゲスト】を負けさせ、相手の手札を削るところからサクヤの戦略は始まっていた。
これが上級者の戦いなのかと、度肝を抜かれるユウとソニア。
観客席から見守るステラの顔は、すでに明るい表情へと変わっている。
「さて、コーデリアのほうにはユニットが1体。手札も1枚だけ。
ふふふ……ガードが甘いんとちゃうか?」
攻めるなら、この上ない好機。
妖艶に笑うサクヤは2枚のカードを手に、反撃を開始したのだった。




