第14話 クラッシャー・コーディ その3
【 サクヤ 】 ライフ:2300
ユニットなし
【 コーデリア 】 ライフ:4000
死天使・アズラエル
攻撃2200/防御1600
シェムハザ
攻撃1400/防御1500
3ターン目になり、サクヤに手番が回ってきた。
存在そのものが危険な暗黒シスター、コーデリアは2体の天使を従えて圧倒的な優勢。
有無を言わさぬ攻勢で相手のユニットを破壊し、ここまで突き進んできたプレイヤーである。
「しばきあいも一方通行やと、つまらんやろ?
そろそろ、キッツイのをおみまいしたるからな」
「いいですねぇ~、ガンガン来てください!
どちらかというと私、されるほうが好きなので」
「んなこと聞いとらんわ!」
コーデリアはずっとこんな調子なので、まともに付き合うと相手のペースに飲まれかねない。
深く息をついて落ち着いたサクヤは1枚のカードを引き、再び護符のように燃やして使用する。
「えらい待たせたなぁ。うちのデッキは、ここからやで――ユニット召喚」
■ ■ ■
「手札を使うよ! 【ブリード・ワイバーン】、スタックバースト!
さらに【バイオニック・アーマー】を装備!」
最終形態にまで成長したワイバーンが咆哮し、身にまとったサイバーな機械装甲を輝かせる。
苦戦した先ほどと違い、リンの決闘は絶好調。
圧倒的な攻撃力で相手のユニットをなぎ払い、一気にライフを削っていく。
「まだターンは終わらない! もう1枚カードを使って……ん?」
と、そのとき視界の端をピンク色の欠片が横切った。
どこかで行われている戦いの演出が届いたのだろうか、それはすぐに消えてしまったが、欠片の正体には見覚えがある。
■ ■ ■
「……花びら?」
いつものように絶対防御を展開し、両腕を組んで戦場に立つクラウディアの目にも、それは届いていた。
周囲を見渡してみたが、花が咲くような植物はどこにも存在しない。
公式大会では他の選手のカードを見ることが禁じられているため、隣のバトルフィールドの様子は分からなくなっている。
にも関わらず他のエリアに届いたということは、よほど広範囲に影響がある”何か”を使ったということだ。
■ ■ ■
そして、中継で一部始終を見ていたスタジアムの観客は言葉を失い、降り注ぐ花びらに目を奪われる。
日本という島国において、その樹木を知らない者はいない。
かつて神世の時代に、木花咲耶姫という美しい女神がいた。
彼女が大地に種をまくと、それは薄桃色の花を咲かせる木へと成長し、世に豊かな繁栄をもたらしたという。
人々は春の訪れを告げる木を愛し、サクヤヒメへの敬意を込めて彼女と同じ名を与えた。
その植物がバトルフィールドに根を張り、メキメキと成長して花を咲かせている。
全長30メートルに及ぶ巨大な満開の桜。
根本に立つ巫女は扇子を広げ、降り注ぐ花びらの下でユニットの召喚を終えた。
Cards―――――――――――――
【 幽門桜 】
クラス:レア★★★ タイプ:植物
攻撃0/防御3200
効果:自身のターンに1回のみ発動。バトルで破棄された自プレイヤーのユニットを1体復活させる。
この効果で復活したユニットは【タイプ:アンデッド】として扱われ、本来のタイプを失う。
スタックバースト【魂魄昂揚】:永続:上記の効果で復活したユニットの攻撃と防御を+800。
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「よ~し……ほな、いこか」
「ふ……ふふふふ、相変わらずド派手ですねぇ、サクヤさん!
本当に美しい……壊したい……壊されたいぃいいい!
ああああ、あなたと戦うと本当に、り、理性を抑えきれなくなりますっ」
「いや~、そこは抑えといてもらわんと。
うちも最近、後輩みたいな子らと遊ぶことが多くなったし、教育に悪いモンは困るんよ。
さて、まずは1体目」
まるで巫女が舞う『神楽』のように。
サクヤは広げた扇子を手に、しなやかな動きで【幽門桜】の能力を発動させる。
「幽門に引かれ、黄泉より来たれ――【バーゲスト】!」
宣言した直後、サクヤのフィールドで青白い炎が燃え上がる。
それは生物の姿になっていき、半透明の【バーゲスト】を霊体として蘇らせた。
「オオオオオオオォーーーーーーーーン!」
青白い炎の姿になりながらも、再び天に向かって吠える凶兆の犬。
舞い落ちる桜の花びらも相まって、サクヤの陣営は神域と化したかのように荘厳な空気に包まれる。
「「か……かっこいい~~~~~~!!」」
画面越しに試合を見るユウとソニアは、初めて【バーゲスト】が現れたときと同じ言葉を繰り返す。
超満員の観客も、これには割れんばかりの拍手喝采であった。
「倒されたユニットが復活するだけでも十分かっこいいのに、この演出!
くっそ~……これで俺と同じ高1かよ!」
「このソニア・シルフィード、お姉さまこそ至上にして絶対と決めているのですが……
和風もいい! 巫女と桜と英霊の組み合わせなんて、まるでかっこよさのお子様ランチ!」
「サクヤさんが使うユニットには【タイプ】が関係ないと言った理由、これで分かりましたか?」
「たしかに、全部アンデッドになるんだもんな。
っていうことは――まさか、あのデッキって」
何かに気付いたユウが発言する前に、ステラはニコッと笑いながら種明かしをする。
「はい、あれは【アンデッド】デッキなんです」




