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第12話 クラッシャー・コーディ その1

「生中継って、いつから!? そんなことになってるなら言ってよぉ~!

 あああ~、せっかく新しいコスチュームを作ったのに、雨でびしょびしょだし!

 え? 今も放送されてる?

 うわぁああああああ~~~~~~~~っ!!」


 うろたえる女子中学生の姿が日本ワールド全域に放送され、見ている人々は笑顔でほっこりとする。

 しかし、これでリンはワールド上位24名の仲間入り。

 猛者中の猛者に名を連ね、その存在を生中継で知らせることになった。


「沼のあたりで見かけた子、リンちゃんっていうのか」


「やっぱり、ただ者じゃなかったな……」


 ミッドガルドで彼女を見たことがあるプレイヤーは、都市伝説が本物になっていく様を()の当たりにする。

 スピノサウルスのカードを持つ少女は、間違いなく実在していたのだ。


 一方、スタジアムではコンタローやシンシアたちの実況が続く。


「すごいですね~! まだ中学生くらいなのに、一歩も引かない戦いでした」


「今回の『ファイターズ・サバイバル』には年齢制限がないので、小さなお子様から年配の方まで、幅広いプレイヤーが参加したのだ。

 みんなで5周年を祝う大会にしたかったから、運営としても、この賑わいには感謝感激なのだ~」


「見事に勝ち上がったリン選手は、なんと13歳!

 先ほど少しだけ映ったクラウディア選手のギルドに所属しているそうです。

 そして……同じギルドに所属している選手が、もうひとり!」


 そこで画面が切り替わり、サクヤの姿が映し出される。

 彼女は赤い和傘とセットになった縁台に座ってお茶を飲み、のんびりと休憩の真っ最中。

 が――そこは茶屋の店先ではなく、次の試合が行われる城壁の上であった。


「強豪プレイヤーとして名を馳せているミマサカ・サクヤ選手!

 対戦相手を待っているのでしょうか、なんとバトルフィールドで休憩中です!」


「キツネの巫女さんがお茶を飲んでいるように見えるけど、あの耳と尻尾は【天狐の装飾パーツ】。

 こちらの手違いで高難易度になってしまったイベントの上位報酬で、持っている人は日本ワールドに0.01%しかいない激レアアイテムなのだ……」


「キツネのように見えて、もはやライオンのたてがみですね」


 あまりにも低い所持率に観客たちはざわめき、華やかなお茶の風景に見入る。

 彼女のことをよく知る弟子のステラは、笑いながら所見を付け加えた。


「あ~、サクヤさんはもう『作り始めて』いますね」


「作るって、何を?」


「自分のテリトリーです。

 あそこで選手として参加している人が、今のサクヤさんを見たら、どう感じると思います?」


「それはもう、異様な光景なのです。

 どうにか1回戦を勝ち抜いて先に進んだら、対戦相手がのんびりお茶を飲んで待っている。

 しかも、雰囲気まで作り込んで堂々と……明らかに強敵としか思えないのです」


「なるほど……そう感じさせた時点で、すでに先手を取ってるわけだ。

 サクヤも抜け目がないなぁ」


 納得しながら考え込むユウ。試合とは単純に技量の差を競うものではない。

 戦う前に相手の精神を動揺させ、自分の世界に引き込んでしまえば、ある程度は有利に戦うことができる。

 サクヤの第2試合は、すでに始まっているのだ。


「さ~て、まもなく1回戦が全て終了し、勝ち残った選手が進んでくるころです。

 おおっと、サクヤ選手のところにも対戦相手が到着しました!」



 ■ ■ ■



「ふ、ふふふふ……や~っぱり、サクヤさんでしたかぁ。

 運命の女神、アリアンロッドに感謝します」


「うっわ~、最悪や! 嫌な予感がすると思ったら、あんたが相手かい!」


 普通のプレイヤーであれば、進んだ先で巫女さんがお茶を飲んでいたら、雰囲気に引き込まれかねない。

 しかし、それが通じない相手もいる。

 たとえば、サクヤの知り合いだ。手の内が分かっているので、今さら策に引っかかったりはしない。


 対戦相手として現れたのは若い少女。サクヤと歳が離れておらず、高校生くらいの年ごろに見える。

 座った両目とニヤニヤ笑い続ける口からは邪悪な気配がするが、なんとシスターの修道服に身を包んでいた。

 それも厳格なものではなく、黒いタイツで覆われた足がハッキリ見えるほどのミニスカート。

 首元を白い布で隠さず、代わりに大型犬用の首輪を付けるという、かなり個性的なファッションだ。


 巫女とシスター。まったく違う宗教の衣装を着た2人。

 サクヤは明らかな嫌悪を浮かべながら、和風の休憩セットを片付けて粒子化させる。


「あんたが来るなら、こんなもん用意せんかったわ。あほらし」


「そんなに嫌わないでくださいよぉ。私とサクヤさんの仲じゃないですか」


「うっさい、ドMが! ”さぶいぼ”立つわ!

 うちとあんたは腐れ縁なだけで、仲良うした記憶なんぞ欠片もないわ!」


「ああんっ、その突き放し……いいですねぇ、今日もキレッキレで」


 ゾクゾクと顔を赤らめながら身をよじるシスターは、サクヤが言うように少し性癖が歪んでいるようだ。

 そんな彼女たちの姿がモニターに映し出されたスタジアムは、大歓声で盛り上がる。


「これは、すごい対戦カードです! 『クラッシャー・コーディ』!

 サクヤ選手にとっては宿命のライバル、コーデリア選手が現れました!」


 響き渡るウェンズデーの実況。熱狂に包まれる観客たちの中、ステラは真剣な表情で画面を見つめる。


「これは、まずいですね……あの人はサクヤさんにも勝ったことがある強敵です」


「サクヤ殿を倒すほどの相手!?」


「なんか、見た目からしてヤバそうだもんな。

 ずいぶんと親しそうに話してるが、2人は知り合いなのか?」


「知り合いというか、本当に縁があるんですよ。

 こうして大会に出ると当たったり、ショップに行くと偶然会ったり。

 すごいときには、ほとんど人が行かないようなミッドガルドの奥地で、ばったりと遭遇したり」


「それはもう、神の手(ゴッドハンド)が2人を引き合わせているとしか思えないのです」


「ですよね……だから、コーデリアさんからは気に入られているんですけど。

 一方のサクヤさんは苦手みたいで、いつも突き放してる感じです」


「なんか、本当に腐れ縁って感じだな。

 ただ――問題はあのシスターさんが、サクヤに匹敵するほどの強さだってことだ」


「はい……正直なところ、どっちが勝つのか分かりません。

 私は断然、サクヤさんを応援します」


 『クラッシャー・コーディ』の異名を持つ、コーデリアというシスター。

 観客たちはモニターへ釘付けになり、中継するウェンズデーも2人の様子を映し続ける。


 やがて試合は進行し、巫女VSシスターという異色の戦いが幕を開けたのだった。

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