第10話 カードゲーム始めました その3
【 リン 】 ライフ:4000
トロピカルバード
攻撃300(+500)/防御100(-100)
装備:名刀『菊一文字』
【 ユウ 】 ライフ:3200
ヘビーナイト
攻撃100/防御2000
好戦的なエルフ
攻撃2400/防御500
エルフとは長命で美しく、体はスラッとしていて、弓とか魔法が得意な種族。
リンの中では、そういうイメージだった。
では、目の前でマッスルポーズを取っている筋肉の妖精みたいなのは、一体何なのだろう。
たしかに元気いっぱいで長生きしそうではあるのだが。
「それ……本当にエルフなの?」
「正直、俺にも分からん!
ただひとつ言えるのは、めちゃくちゃ強いってことだ!」
「フンガーーーーーーッ!!」
どう聞いてもエルフの雄叫びではない。
しかし、その威圧感は伊達ではないようだ。
Cards――――――――――――――
【 好戦的なエルフ 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:人間
攻撃2400/防御500
効果:このユニットには強化効果を付与できない。
スタックバースト【直撃】:永続:攻撃のとき、バトル相手のユニットを任意に選ぶことができる。
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2400という攻撃力はアンコモンの中でも最高峰を誇る。
ただし、デメリットとして強化を一切受け付けないので、召喚した後は敵陣に突っ込ませるだけの単純なユニットだ。
それゆえ――ただひたすら、純粋に強い。
「それじゃ、さっきのお返しだ!
【好戦的なエルフ】でアタック!」
「ううっ、でもタイプは【人間】でしょ?
【トロピカルバード】でガード!
これならダメージは受けないよね」
「何か勘違いしているようだが、たしかに鳥へのダメージは無効。
だが、お前への貫通ダメージはきっちり入るからな!」
「は……?」
拳を振り上げて殴りかかってくるマッチョエルフ。
【人間】からのダメージを無効化する【トロピカルバード】が立ちはだかったが、エルフのパンチは鳥ごとリンを叩きのめした。
「フンガーーーーーーーーッ!!」
「きゃーーーーーーーーっ!!」
『リン、残りライフ1600』
殴られはしたが、吹き飛ぶわけではない。
鉄塊のように大きくてゴツゴツとしたエルフの拳は、リンの体に触れる直前で止まって彼女に衝撃を浴びせた。
仮想空間で受けた痛みなので、実際には何の外傷もない。
リアルの世界で消しゴムでもぶつけられたほうが、よほど痛いと感じるだろう。
しかし、こんなマッチョエルフに殴られると精神的に来るものがある。
数値としても、2400もの貫通ダメージはシャレにならない。
「本体にダメージが通るなら先に言ってよぉー!」
「言ったところで、エルフの攻撃は止められなかっただろ?
このゲームでの『ダメージを受けない』っていう表記は、あくまでもユニットにだけ効果がある。
まあ、授業料だと思って今後に活かすんだな」
「むううぅ~! 兄貴のほうが色々知ってて、ずる~い!」
「ずるいも何もあるか、こちとら1年前からやってんだ!」
「うわぁ……ってことは、受験の間もゲームやってたの?」
「ちゃんと合格したからいいだろ?
やっと何も気にせず遊べるようになったんだから、ほっといてくれ!
俺はこれでターンエンドだ」
兄妹で言い争いをしている間にも、ユニットたちは静かに待っていてくれた。
ユウは【ヘビーナイト】で攻撃して100ダメージ通すことも可能だったが、バトルのたびに防御が劣化するユニットのため温存したようだ。
「それじゃあ、あたしのターン! ドロー!
んん~……手札がこうで、場の状況はこう……
よしっ、この子を召喚するよ!」
カードを突き出すようなポーズで、リンはユニットを召喚。
だんだん慣れてきたのか、彼女の中にあった躊躇いは薄れていった。
Cards―――――――――――――
【 オヴィラプトル 】
クラス:コモン★ タイプ:動物
攻撃200/防御300
効果:召喚されたとき、自プレイヤーのデッキの中から任意に★2までのリンクカードを1枚手札に加える。
スタックバースト【カード泥棒】:瞬間:目標のリンクカード1枚をプレイヤーの手札に戻す。
――――――――――――――――――
現れたのは体長1mくらいの小型恐竜。
かつて地球上に栄えた実在の恐竜で、2本足で立っている爬虫類。
あまり凶暴性は見られず、ニワトリのようにキョロキョロと周囲を見回している。
「この子の効果でデッキからカードを引くよ!」
これも【アルテミス】を使う上で有利になるだろうと思って入れたユニット。
リンクカードを引き寄せる能力を持つ。
しかし、リンのユニットが2体になったところで、ユウは目を細めた。
「たしかにデッキのコンセプトを考えたら、そうなるな。
カードを手札に持ってくるタイプのユニットは便利だ。
★1コモンの良さは、そういった効果のカードが豊富でデッキを回しやすいことにある。
だが……欠点はステータスの低さ」
「そこの筋肉エルフに殴られたら負けるって言いたいんでしょ?
ちゃんと考えてあるから大丈夫!
プロジェクトカード、【平和的軍事条約】を発動!」
Cards―――――――――――――
【 平和的軍事条約 】
クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード
効果:このターンに攻撃宣言を行っていない場合のみ使用可。
使用者の次のターンまで、全てのユニットは攻撃宣言ができなくなる。
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「うっ、1ターン凌いだか!」
「あたしも【トロピカルバード】で攻撃しなかったから、おあいこってことで。
じゃあ、これでターンエンド」
このターン、リンが使用したプロジェクトカードによって、ユウは攻撃宣言ができなくなった。
要するに『私は攻撃しなかったから、あなたも攻撃しないでね』という平和条約を一方的に押し付けるカードである。
そもそもは育成にターンを必要とする【ブリード・ワイバーン】のために入れたカード。
召喚直後は弱いワイバーンでも、これを使えば1ターン稼げるだろうと考えたのだが、意外と汎用性の高い効果だった。
「ギリギリで命をつなげたな……
まあ、攻撃できないならできないで、俺にも考えがある。
ドロー! そして、ユニット召喚!」
Cards―――――――――――――
【 デンドロバティス 】
クラス:コモン★ タイプ:水棲
攻撃200/防御300
効果:このユニットが破棄されたとき、相手プレイヤーのライフに100ダメージを与える。
スタックバースト【仲間呼び】:特殊:スタックバーストを行う際に使用した【デンドロバティス】のカードをフィールドに置き、別個体のユニットとして扱う。この効果は召喚とは別枠になる。
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「うげっ! なにそれ!?」
ユウが召喚したのは、赤や青の毒々しい色をしたカエル。
しかも、ネコくらいの大きさがある。
これも地球上に実在する『ヤドクガエル』をモデルにしているのだが、本来の大きさは3cmくらいだ。
20倍ほどに拡大されたカエルの姿に、リンは少し顔がひきつった。
「うわ~、きれいだけど大きすぎてキモい……
破棄されたときにダメージを与えてくるとか、えげつない能力してるし」
「ふふふ、さしずめ毒爆弾ってわけだ。
さらにスタックバースト! 【仲間呼び】!」
「ケロロロッ! クコココココッ!」
ユウが発動を宣言すると、カエルは高らかな声で鳴く。
その鳴き声に引き寄せられたのか、2匹目の【デンドロバティス】が隣に並んだ。
「え? ちょ、ちょっと、1ターンに2匹召喚!?
そんなのずるいって!」
「ずるくないんだよなぁ、これが。
このカエルはこういう能力なの」
【デンドロバティス】のスタックバーストは、発動のために使用した同種同名のカードを、そのままユニットとしてフィールドに配置するという効果。
1ターンに召喚できるユニットは基本的に1体だが、こうしてカードの効果で別枠の召喚を行うこともできる。
歯がゆいが、こればかりは知識と経験の差。
リンは悪化していく状況に眉をひそめるしかなかった。
「俺はこれでターンエンドだ」
「ううっ、どうしよう……相手のユニットが多すぎる」
倒されると毒を撒き散らすようなユニットが2体並び、さらに【ヘビーナイト】と【好戦的なエルフ】も健在。
【平和的軍事条約】の効果が消えて攻撃できるようになったが、当然ながら相手も襲ってくる。
このまま打開策がなければ、次のターンで負けることは確実だ。
「あたしのターン、ドロー! 何か……何か引いて!」
まさに祈るような気持ちでドローした1枚のカード。
それを手に取ったとき――リンの心にあった不安は全て消し飛んだ。
代わりに広がっていくのは、かつて見た神々しい光。
この1枚がリンを『マスター』として目覚めさせ、勝利に導いてくれる。
そう確信できるほど、圧倒的な力を持った★4スーパーレア。
「よしっ! いくよ!」
状況を打破するべく、リンはしっかりと両目を見開いた。
修正:【デンドロバティス】のスタックバーストを分かりやすくしました。




