第23話 大事な大事な1週間 その4
「あの~、すみませ~ん」
「いらっしゃいませ、またお会いしましたな」
先ほど対応してくれた老年のショップ店員は、メガネの位置を直す仕草をしながら笑顔を向けてくる。
こんなリアルさでもAIというのだから科学技術の進歩は恐ろしい。
「ここで服の合成ができるって聞いたんですけど」
「ええ、できますよ。詳しくはこちらに」
Tips―――――――――――――
【 コスチュームの合成 】
プレイヤーが着用する服に、他の服の効果を移すことができる。
ベースとなる衣装および合成させる衣装を用意し、お互い、もしくは片方の見た目を維持したまま1つの衣装にまとめることが可能。
元々ベース側に効果が付いていた場合は継続するか、消去するかを選べる。
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「んん~~~、合成なんてやったことがないから、ちょっと分かりにくいかも」
表示された説明文を読んでみるが、そもそもゲームに疎いリンには実感が湧かない。
しかし、その隣で同じ文章を読んでいたソニアは、意を得たりとばかりにうなずく。
「なんとなく理解したであります。
たとえば『属性ヲ開眼セシ者ノ左目』の炎と雷を合成した場合、炎の見た目のまま雷のエフェクトが使えたり、両方を切り替えたりすることができるわけです」
「そのとおり、まだ小さいのに賢いお嬢さんですなぁ」
「わたしというか、この身に流れている血が賢いのです!
ちなみに炎と雷をいっぺんに使うことは可能です?」
「残念ながら、それはできません。
ただ、合成すればそれぞれを装備し直さなくても、すぐに切り替えられて便利ですよ」
「おお~! それでは、合成をお願いするのです!
エフェクトは両方を引き継ぎつつ、切り替えるタイプで」
「かしこまりました。しばらくお待ちを」
目の前でテキパキと話を進め、さっそく合成に挑戦するソニア。
彼女から炎と雷のカラーコンタクトを受け取った店員は、なにやら装置を動かして作業を始める。
「うわ……小学生が完全に理解して、合成してるんですけど!
あたし、おいてかれちゃったんですけど!」
「ソニアちゃん、まだ子供っていうだけで素質はすごいですからね」
笑いながら言うステラは、左目から紫のコンタクトを外していた。
普段は外して決闘のときに改めて使うらしい。
それはともかく、恐るべきはシルフィード姉妹の血。
クラウディアは言わずもがな、妹のソニアも持ち前の理解力と実行力で物事を覚えていく。
姉のことが大好きすぎて暴走しがちな点を除けば、将来有望な新人プレイヤーなのだ。
「お待たせしました。こちらが完成品です。
合成の費用は掛かりませんが、分離するときにはポイントをいただきますのでお気をつけて」
「了解、ありがとうです!」
どこで知ったのか、手の甲を見せるアメリカ空軍式の敬礼をビシッと決め、ソニアは受け取ったカラーコンタクトを装着する。
この世界では眼球に被せる必要がなく、コンソールを操作するだけで良い。
ちなみに、このときだけは本来の青い目を見ることができた。
クラウディアと同じ碧眼なのは、ソニアにとっても誇らしいことだが、左右で色が違うオッドアイの魅力はそれ以上なのだろう。
雷のほうをベースにしたらしく、装着を終えた彼女の左目はライトイエローに染まっていた。
「それでは……カラーチェンジ! もう1回、チェンジ!」
別に叫ぶ必要はないのだが、ソニアの左目は声に合わせて黄色から赤へ、赤から黄色へと切り替わる。
「おお~、なるほど! 今度は――属性開眼! そして、チェンジ!」
先ほど見せた派手な雷のエフェクトが発動したかと思うと、すぐさま炎に切り替わって燃え上がる左目。
本来ならコスチュームを装備し直さなければいけないのだが、合成したことで手間が省け、エフェクトを発動させたままでも変えられるようだ。
「これは素晴らしい! 雷と炎の使い分けができて、とても便利なのです!」
「素敵ですね~。初めてとは思えないくらい、いい合成ですよ」
「うう~、年下の子に負けてらんない!
そもそも、あたしの服を選ぶために来たんだし……
店員さん、エフェクト付きの衣装を見せてもらってもいいですか?」
「ええ、どうぞ。それにしても、良いお友達ですな」
「あはは……この世界では、みんなが先輩です。
あたしが知らないこと、たくさん教えてもらってますから」
賑やかな友人たちに囲まれた少女を見て、ショップの店員も笑顔になっていた。
それから数十分ほど、リンは勝負服に組み合わせる衣装を真剣に選ぶ。
エフェクトは良さそうだが、いまいち服のデザインが合わない。
あるいは、見た目は良いのだがエフェクトが付いていない。
そんなコスチュームでも、合成できるなら話は変わってくる。
「よしっ! これに決めた!
あたしが今着てる服をベースにして、『サイバー・キャットスーツ』を合成したいんですけど」
「ほほう、それは可愛らしくなりそうですな。
合成はどのように?」
「見た目を半分ずつ組み合わせることって、できます?」
「おしゃれに妥協はしないということですな。
しかし、それは高度な合成です。
後で分離するときのコストが高額になってしまいますが」
「構いません。それでお願いします!」
かくしてリンは新しい衣装を買い、それを今の勝負服と合成する。
全てを1つのアイテムとしてまとめてしまうため、しばらくの間、リンは懐かしい『ビギナーズローブ』を着て待つことにした。




