表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/297

第23話 大事な大事な1週間 その4

「あの~、すみませ~ん」


「いらっしゃいませ、またお会いしましたな」


 先ほど対応してくれた老年のショップ店員は、メガネの位置を直す仕草をしながら笑顔を向けてくる。

 こんなリアルさでもAIというのだから科学技術の進歩は恐ろしい。


「ここで服の合成ができるって聞いたんですけど」


「ええ、できますよ。詳しくはこちらに」


Tips―――――――――――――

【 コスチュームの合成 】

 プレイヤーが着用する服に、他の服の効果を移すことができる。

 ベースとなる衣装および合成させる衣装を用意し、お互い、もしくは片方の見た目を維持したまま1つの衣装にまとめることが可能。

 元々ベース側に効果が付いていた場合は継続するか、消去するかを選べる。

――――――――――――――――――


「んん~~~、合成なんてやったことがないから、ちょっと分かりにくいかも」


 表示された説明文(Tips)を読んでみるが、そもそもゲームに疎いリンには実感が湧かない。

 しかし、その隣で同じ文章を読んでいたソニアは、意を得たりとばかりにうなずく。


「なんとなく理解したであります。

 たとえば『属性ヲ開眼セシ者ノ左目』の炎と雷を合成した場合、炎の見た目のまま雷のエフェクトが使えたり、両方を切り替えたりすることができるわけです」


「そのとおり、まだ小さいのに賢いお嬢さんですなぁ」


「わたしというか、この身に流れている血が賢いのです!

 ちなみに炎と雷をいっぺんに使うことは可能です?」


「残念ながら、それはできません。

 ただ、合成すればそれぞれを装備し直さなくても、すぐに切り替えられて便利ですよ」


「おお~! それでは、合成をお願いするのです!

 エフェクトは両方を引き継ぎつつ、切り替えるタイプで」


「かしこまりました。しばらくお待ちを」


 目の前でテキパキと話を進め、さっそく合成に挑戦するソニア。

 彼女から炎と雷のカラーコンタクトを受け取った店員は、なにやら装置を動かして作業を始める。


「うわ……小学生が完全に理解して、合成してるんですけど!

 あたし、おいてかれちゃったんですけど!」


「ソニアちゃん、まだ子供っていうだけで素質はすごいですからね」


 笑いながら言うステラは、左目から紫のコンタクトを外していた。

 普段は外して決闘(デュエル)のときに改めて使うらしい。


 それはともかく、恐るべきはシルフィード姉妹の血。

 クラウディアは言わずもがな、妹のソニアも持ち前の理解力と実行力で物事を覚えていく。

 姉のことが大好きすぎて暴走しがちな点を除けば、将来有望な新人プレイヤーなのだ。


「お待たせしました。こちらが完成品です。

 合成の費用は掛かりませんが、分離するときにはポイントをいただきますのでお気をつけて」


「了解、ありがとうです!」


 どこで知ったのか、手の甲を見せるアメリカ空軍式の敬礼をビシッと決め、ソニアは受け取ったカラーコンタクトを装着する。

 この世界では眼球に被せる必要がなく、コンソールを操作するだけで良い。


 ちなみに、このときだけは本来の青い目を見ることができた。

 クラウディアと同じ碧眼(へきがん)なのは、ソニアにとっても誇らしいことだが、左右で色が違うオッドアイの魅力はそれ以上なのだろう。

 雷のほうをベースにしたらしく、装着を終えた彼女の左目はライトイエローに染まっていた。


「それでは……カラーチェンジ! もう1回、チェンジ!」


 別に叫ぶ必要はないのだが、ソニアの左目は声に合わせて黄色から赤へ、赤から黄色へと切り替わる。


「おお~、なるほど! 今度は――属性開眼! そして、チェンジ!」


 先ほど見せた派手な雷のエフェクトが発動したかと思うと、すぐさま炎に切り替わって燃え上がる左目。

 本来ならコスチュームを装備し直さなければいけないのだが、合成したことで手間が省け、エフェクトを発動させたままでも変えられるようだ。


「これは素晴らしい! 雷と炎の使い分けができて、とても便利なのです!」


「素敵ですね~。初めてとは思えないくらい、いい合成ですよ」


「うう~、年下の子に負けてらんない!

 そもそも、あたしの服を選ぶために来たんだし……

 店員さん、エフェクト付きの衣装を見せてもらってもいいですか?」


「ええ、どうぞ。それにしても、良いお友達ですな」


「あはは……この世界では、みんなが先輩です。

 あたしが知らないこと、たくさん教えてもらってますから」


 賑やかな友人たちに囲まれた少女を見て、ショップの店員も笑顔になっていた。

 それから数十分ほど、リンは勝負服に組み合わせる衣装を真剣に選ぶ。


 エフェクトは良さそうだが、いまいち服のデザインが合わない。

 あるいは、見た目は良いのだがエフェクトが付いていない。

 そんなコスチュームでも、合成できるなら話は変わってくる。


「よしっ! これに決めた!

 あたしが今着てる服をベースにして、『サイバー・キャットスーツ』を合成したいんですけど」


「ほほう、それは可愛らしくなりそうですな。

 合成はどのように?」


「見た目を半分ずつ組み合わせることって、できます?」


「おしゃれに妥協はしないということですな。

 しかし、それは高度な合成です。

 後で分離するときのコストが高額になってしまいますが」


「構いません。それでお願いします!」


 かくしてリンは新しい衣装を買い、それを今の勝負服と合成する。

 全てを1つのアイテムとしてまとめてしまうため、しばらくの間、リンは懐かしい『ビギナーズローブ』を着て待つことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ