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第9話 カードゲーム始めました その2

初心者講習会(チュートリアル)で何を習ってきたんだよ!

 これはこういうゲームなの!」


「でも、やっぱり恥ずかし――」


「捨てろ! 羞恥心(しゅうちしん)なんて捨てちまえ!」


 自分のターンに【ヘビーナイト】を召喚した後、ユウは妹の説得にあたっていた。

 やはり、このラヴィアンローズの世界において、かっこいい召喚ポーズは必要不可欠らしい。


「いい機会だから説明してやるが、今の俺たちはどういう姿勢だ?」


「どうって……立った状態で向かいあってる?」


「そう、立った状態で向かいあってるんだよ!

 リアルだとカードゲームは座った姿勢でやるよな。

 でも、ここはそうじゃない。

 立ったままプレイして、背景にも気合いが入ってて、カードから超かっこいいユニットが出てくる。

 なのに、座って遊んでるときと同じテンションだったら、どうなると思う?」


「えっと……すごく……地味かな?」


「そーだよ、地味なんだよ!

 さっきだって『じゃ、俺のターン。ユニットを召喚』で、あっさり終わらせることもできた。

 でも、そんなテンションじゃ、この背景もユニットもいらねーんだよぉおお!!」


 『いらねーんだよー、いらねーんだよー、いらねーんだよー』と、さわやかな高原に響く兄の声。

 全身全霊で説得してくる彼の言葉を、リンも少しずつ納得し始めた。


「なるほど……たしかに、これだけ作り込まれた世界だもんね。

 カードをポンッて置くだけで終わらせたら、逆に浮いちゃうかも」


「だろ? 今はこうして2人だが、他の人に見られることだってあるんだぞ。

 たとえば、大会上位プレイヤーのバトルなんてコロシアムに大勢の観客が集まる。

 そんな大観衆の前でポーズのひとつも決めずに、ポンッとカードを置くだけ。

 そっちのほうが恥ずかしいと思わないか?」


「えっ!? そんな場所で戦うこともあるの?」


「ん? あ~、そうかそうか」


 ここでユウは口元をニヤリと歪ませる。

 リンにとっては、子供のときから嫌というほど見てきた『妹をからかうときの顔』だ。


「すまんな~、つい熱くなっちまった。

 お前には関係ない話だったよな。

 いくらスーパーレアのマスターと言っても、所詮は始めたばかりの素人だし」


「むぅうううう~~~!

 初心者なのは間違ってないけど、バカ兄貴に()められると腹立つ!」


「じゃあ、実力で撤回させてみろよ。

 俺はこれでターンエンドだ」


「見てろ~、こうなったら本気でやってやる!」


 ターンが回ってきたので、リンはデッキからカードを1枚ドロー。

 実際のところ、相手側にいる【ヘビーナイト】はかなり厄介だ。初手に出すユニットとしては理想的だろう。


 バトルのたびに劣化するとはいえ、初期値2000を誇るガードの固さ。

 一撃で倒すか、何回も防御させて劣化させる手段が必要だ。


「たしかに、固い……ものすごく固いけど……ふ~む」


 手札とにらめっこしながら戦略を練った結果、リンは1枚のカードを取り出して呼吸を整える。


 覚悟は決まった。

 これから兄と戦うという覚悟が。

 そして――かっこいいポーズで召喚するという覚悟が。


「いっくよ~! ユニット召喚!」


 慣れない動きながらも、片手にカードを持ってビシッと前に突き出すリン。

 そして、実戦で初めてのユニットが彼女のフィールドに現れた。


Cards――――――――――――――

【 トロピカルバード 】

 クラス:コモン★ タイプ:飛行

 攻撃300/防御100

 効果:このユニットは【タイプ:人間】からのダメージを受けない。

 後攻効果:召喚されたとき、自プレイヤーのデッキの中から★1のユニットを1枚手札に加える。

 スタックバースト【ブレイクスルー】:永続:このユニットのアタックは【タイプ:人間】でガードできない。

――――――――――――――――――


「クエッ、クエーーッ!」


 その名のとおり、南国にいそうな鳥が羽ばたきながら空を飛ぶ。

 赤や青、黄色といったカラフルな翼が美しく、非常に便利な特殊効果を持つ。


「なっ……【人間】耐性だと!?」


 兄のフィールドにいる【ヘビーナイト】はタイプが【人間】。

 これにより、普通に殴りあうだけでは決して倒されることがない。


「驚くのは早いっての!

 普通に攻撃するだけでも、その硬そうな戦士の防御が500減るんだけど……

 後攻効果、発動! デッキからカードを引くよ!」


Tips――――――――――――――

【 後攻効果 】

 先にカードを使える先攻側が優位を保ちやすいため、後攻にも利点があるように設定された能力。

 文字どおり、後攻の場合にのみ効果を発揮する。

――――――――――――――――――


 さらにリンは後攻効果を発動させることができた。

 デッキから★1のユニットを1枚選んで手札に加える。

 1ターンに召喚できるのは1体だけだが、すでにリンの戦略は決まっていた。


「あたしがデッキから選んだのは、もちろん――

 2枚目の【トロピカルバード】!

 これでスタックバースト効果が使えるよね!」


「こ、こいつ……!」


 【トロピカルバード】も★1のユニットである。

 よって、このカード自身の後攻効果で2枚目を引き、一気にスタックバーストまで持っていくことが可能。

 【ヘビーナイト】ではガードができなくなり、今ならユウの本体へダメージが直撃する。


「じゃあ、手札から【トロピカルバード】を使ってスタックバースト!

 さらに――」


「まだ何かあんのかよ!?」


「リンクカードを装備!」


Cards―――――――――――――

【 名刀『菊一文字』 】

 クラス:アンコモン★★ リンクカード

 効果:装備されているユニットに攻撃+500、防御-100。ゼロ以下にはならない。

――――――――――――――――――


 リンのデッキには★4スーパーレアの【月機(ルナティック)武神(・ウェポン)アルテミス】がいる。

 リンクカードを無限に装備できるという強力なユニットだが、何も装備させていない状態では性能を活かせない。

 よって、リンのデッキには必然的にリンクカードが多めに入っていた。


「さあ、ばっちり仕上がったよ。

 【人間】のユニットじゃ、倒すこともガードすることもできない攻撃力800!

 兄貴の本体に向かってダイレクトアタック!」


 コンボが決まってテンションが上ったのか、リンは勢いよく兄に指を向けて攻撃宣言。

 ガードできるユニットがいないため、ダメージは全て相手プレイヤーに直撃する。


 両足で日本刀を持って飛ぶ南国の鳥が、盾を構えた重装兵の横をすり抜けて、ユウに直接斬りかかった。


「クエーーーーッ!」


「ぐわーーーっ! このクソ鳥がー!」


『ユウ、残りライフ3200』


 ダメージの発生に反応して戦況を読み上げるシステム音声。

 ユウの近くに表示されている4000という数字、いわゆる【ライフカウンター】が動き、3200に変わった。


「や、やるなぁ……初手からここまで大暴れするとは……

 正直、いい意味で予想外だったぜ」


「へへ~ん、どうよ!

 初心者だって、頭を使えばやれるんだから!

 (ヤバ……面白(おもしろ)っ! ワックワクが止まらない!)」


 リンは体の底から湧き上がってくる楽しさに、思わずブルッと震えながらターンを終了した。

 ひとつのコンボが決まったときの爽快感。

 それを知ってしまうと、カードゲームは一気に奥深いものになる。


「ああ……初めてにしては上等だ、ほめてやるよ。

 だけどな、800ダメージ与えたくらいで喜んでるようじゃ、まだまだ!

 俺のターン、いくぞ! ドロー!」


 相変わらず、なにやら勢いのある動きでカードを引いたユウ。

 召喚のタイミングが彼に回り、その眼光がギラリと光る。


「ライフは4000もあるんだ。

 鳥に武器を持たせたのはいい作戦だったが、致命傷にはならない。

 どうすれば効率的に相手のライフを削れるのか、今から教えてやるぜ!」


 そう言って、ユウは1枚のカードを天に(かか)げた。

 何かあるのかとリンも釣られて見上げたが、そこには青空が広がっているだけ。


 ああ、そうか。

 かっこいい召喚ポーズの予備動作なんだと気付いたのは、数秒後のことだった。


「俺は手札から『好戦的なエルフ』を召喚する!」


「エルフ……?」


 その種族には聞き覚えがある。

 あまりゲームをやっていなくても、映画やファンタジーなどで有名だ。


「いっくぜええっ! ユニット、カモーン!」


 天にカードを(かか)げた状態から、またしても激しい召喚ポーズを決めるユウ。

 気合いの入った兄の召喚に応じ、カードから飛び出したエルフ。


 美しい金髪に白い肌、特徴的な長い耳、ツタや葉っぱで作ったアクセサリー。

 そして――


 岩のように割れた大胸筋。巨木のごとく鍛えられた手足。

 太陽を受けて輝くマッスルボディ。


「ウオォォォォォーーーーーーーーーッ!!」


 身長2メートルを超える筋肉もりもりマッチョエルフの雄叫びが、空気をビリビリと震わせた。

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