プロローグ
進んだ科学は魔法のように見える――と。
そんな言葉を聞いたことがある。
だが、実際に21世紀まで進んでみると、科学文明は魔法どころか世界の創造にまで至ってしまったのではないだろうか。
真宮涼美はそう感じながら青空を見上げていた。
「は~い、こんにちは~!
カードゲーム型VRMMO、ラヴィアンローズへようこそ!
私はこの初心者講習会を含め、各種イベントの進行を担当するヒューマノイドAI、ウェンズデーです」
「へぇ~、あれがAI? 人間そっくりじゃない!」
ウェンズデーと名乗る女性は、いかにも司会進行らしいスーツ姿。
彼女は人間ではなく、このVRの世界で生まれた疑似人格だという。
「このゲームは大規模多人数同時参加型、いわゆるMMO。
従来のMMORPGと違うのは、皆さんがカードを使って戦うということです。
カードから『ユニット』と呼ばれる駒を召喚し、それを上手に駆使することでモンスターやライバルと戦います」
そう言って、1枚のカードを取り出すウェンズデー。
裏にはラヴィアンローズのロゴが、表にはユニットの絵や魔法の効果などの情報が記されている。
「それでは、さっそくユニットを召喚してみます。
今から私が取るポーズは超かっこいいので、しっかり見ていてくださいね!
いざ! ユニットォオオオオ、召喚!」
なにやら腕をババッと動かし、ウェンズデーはやたらと派手なポーズを決めた。
正直、超かっこいいのかどうかは微妙だ。
彼女がポーズとともにカードをかざした直後、激しい光のエフェクトが飛び出して生物の形を取っていく。
それは翼を高速で動かすハチドリのように飛び、空中に浮いている小型の鳥。
ただし、通常の鳥と違ってクチバシの代わりにドリルが付いていた。
Cards―――――――――――――
【 ハチドリル 】
クラス:コモン★ タイプ:飛行
攻撃200/防御200
――――――――――――――――――
「ふふふ、可愛いでしょう?
まるで生きているかのようなカードユニット。
それこそがラヴィアンローズの画期的な要素です」
「「「おお~~~~っ!」」」
初心者講習会の参加者たちから、どよめきが起こる。
ドリルが付いたハチドリが可愛いのかはさておき、たしかに視覚効果としては、『ついにここまで来たか!』と驚くほどだ。
カードゲームの召喚ユニットが、実体を持って飛び出したらどんなに楽しいだろう。
その夢が、ついにVRによって叶えられたのである。
「皆様の手札の中にも、強そうなユニットがいますよね。
それでは、試しに召喚してみましょう!
あ、そうそう……決めポーズも忘れちゃダメですよ?」
「えっ、アレをやらなきゃいけないの?」
「カードゲームではデッキを組むことも、戦況を見極めることも大事です。
でも、絶対に忘れちゃいけないことがひとつ!」
そう言って、クルクルと2回転ほどした後、ビシッと天を指差すウェンズデー。
「召喚や攻撃のときは、かっこいいポーズを取らなければいけないのです!」
「え……えぇ……」
涼美を含め、講習会に参加していた初心者たちは、ポカーンとするしかなかった。
初回はプロローグ~第2話まで投稿します。
よろしくです!