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朧術師

じょうほうたか、、、泣

賢の予想外の返答に戸惑う創也。


天井を見つめ、息を吐く。吐き終わったところで目を閉じ、数秒経ってから大きく息を吸い込む。


創也が落ち着き、集中するときのルーティーンだ。


「わかった」


熱くなった頭は冷えそうにないが、思考だけは止めずに返答する。


「今お前が知るべきことはーー


賢は、この世界の常識、情勢、注意点を分かりやすくまとめて創也に伝える。


国名、マナー、地位、魔物、、、賢の説明は実に簡潔で、とても分かりやすい。


二度手間だろうに、ここまでして自分と協力するか?と若干の疑いを持つ創也だが、賢の言葉を一言一句逃さないように頭に入れる。


「そして最後に、」


一拍置いて、吐き出すように賢は続けた。


「この世界のステータスの平均は20から25だ」


創也は、賢が何を言っているのかしばし理解できなかった。


勇者である創也達のステータスと、一般人のステータスがほぼ同等ということが理解できなかったからだ。


聖女は創也達のステータスを褒めあげていたし、すぐにバレるような嘘をつくほど馬鹿ではない。


だが、すぐに聖女の話していた内容を思い出す。

ーーー「召喚された勇者は、誰もが戦える《職業》と、ある【スキル】を保有しています」


「なら、俺ら勇者の持つ力は、スキルか職業、もしくはその両方にあるってことか?」


創也は冷静になりきれていない思考を落ち着かせようと、賢に質問する。

創也にとって、先ほどの情報はそれほど大切なものだった。


創也は過信していたのだ。

勇者として召喚されたのなら、周りの人間よりも力があるのだろう、と。

ある程度の安全は、保証されているはずだ、と。

死の可能性は限りなく少ないと思わされていた(・・・・・・・)


聖女の話に対して警戒はしていた。だが、自分が召喚された事実から、自分にはそれなりの力があるものと思い込んでいた。


そんなことはなかったのだ。創也のステータスは、技量の数値は高いものの、ほとんどの数値は20だ。

戦闘訓練を受けた兵士と争えば、数十秒と持たずに殺される未来しか見えない。


創也は意識しないうちに小さく震え、目には不安感が浮かんでいる。


低すぎる自分達の力に、そして自分の警戒心の足りなさに憤りすら感じていた。


「まずは落ち着け」


賢の声にハッとし、自分が質問していたことを思い出す。

賢は、そんな創也を何とも言えない表情で眺めていた。おそらく、彼もこの情報を見つけた時、同じように恐怖を感じたからだろう。


「俺ら勇者の持つ力は、スキル【取得経験値増加】とレベルの伸び代だ。」


「レベルの伸び代?」


スキル【取得経験値増加】は、文字通り、経験値を増加させるものだろう。

ステータス、レベル、といった概念から考えると、レベルを上げるのに必要なものであることが分かる。


「あぁ、この世界では魔物を倒さずに生活していても、20才を過ぎる頃にはLv10くらいまで成長することができる。逆に言えば、Lv10以降は段々とレベルが上がりにくくなる。現在、一般人並みのステータスの俺らはLv1だ。つまり、その俺らがLv10に到達すれば、一般人の軽く2倍を越えるステータスが手に入る」


賢の説明は、簡潔でいてとても分かりやすかった。次々に出て来る情報のソースが気掛りではあるが、それは一旦無視して、創也は気になっていたことを質問する。


「《職業》のことなんだが、魔術師なら魔術を使うことに補正が掛かるとして、俺のこれは何なんだ?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

天原創也 人族


朧術師Lv1


体力:30

魔力:20

智力:35

技量:40

敏捷:30

耐久:20


スキル:【操朧】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


創也はステータスを開き、自分の職業《朧術師》を指差す。

クラスメイトたちが、《剣術師》《槍術師》といった職業を授かっている中、創也は1人、何ができるのか分からない職業に就いていた。

読み方としては、朧術師(おぼろじゅつし)で合っているだろうか。しかし、肝心のスキルが読み方すら分からない。


「職業《朧術師(おぼろじゅつし)》、スキルはーーー操朧(くりおぼろ)操朧(そうろう)操朧(みさおおぼろ)操朧(そうる)、あたりの読み方が妥当だろう」


賢のアドバイスを受け、創也は1人、確認するように呟く。夜も更け、橙の月が南中した頃、賢の部屋では創也の詠唱だけが静寂を強調するように響いていた。


操朧(くりおぼろ)


何も変化はなく、場を静けさが支配する。


操朧(そうろう)


変化は起こらない。


操朧(みさおおぼろ)


同様に変化はない。


「【操朧(そうる)】」


手の平に違和感が生じ、何かが集まるような感覚を覚える。

しかし、見つめた手の平に変化はなく、違和感も数秒すると消えて無くなった。


「今、手に何か感じたんだが、、、」


首を傾げる創也に、賢は単語のみで答える。


「操作する物、自分の名前、方向性、スキル名の順だ。」


それだけの情報で、創也は昼のロールズの行っていた詠唱を思い出し、スキルを言い直した。


「朧よ、天原創也の名において球体となれ【操朧(そうる)】」


すると、先ほどの感覚がよりはっきりと感じられた。身体の中から右手の先へと"何か"が移動し、その表面から出て行く。

手の平で丸まった"何か"に視線を移すと、それは黒い"もや"であった。細かい黒い粒が大量に集まって、手の平の上で球体を作っている。


創也は、恐る恐る左手で"もや"ーーーおそらく"朧"であるもの、を触ってみた。


朧の感触は砂の塊のようで、触れる度、創也自身にも『触れられた』という感覚が伝わってきた。

右へーーそう念じると黒い塊はゆっくりと右へ移動した。

別れろーー黒い球体から2つの小さめな球体へ分けるイメージをすると、黒い塊は、先ほどと同様にゆっくりとその姿を変形させていった。


それから、創也と賢は〖朧術師〗の戦い方を理解し、密会の目的すら忘れて朧の操作を試行する。

朧は、賢の部屋の中で創也の手足のように動き周り、刻々とその姿を変えていった。


未知の力に、そして物質に魅了された賢と創也は、時も忘れて夜明けまでその検証に取り組んだ。


朝日が城壁から登り、白い光が差し込む頃、創也はまたロープを伝って自分の部屋へと戻っていった。


こうして、異世界での激動の1日目は終了した。


次回の更新は明日の21:00です。

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