聖女セイラ
毎日投稿目指します。
ストックはあるので予約ミスだけ気を付けます。
「ようこそ、異界の勇者様。あなた方をお待ちしておりました。」
透き通るような金の髪に、よく澄んだ声、白い修道服に身を包んだ女性は、ゆったりと、しかし幻想的にそう言い放った。
彼女は、戸惑う創也達の気も知らずか、更に言葉を続ける。
「突然のことで混乱なさっているとは思いますが、まずはーー
「あぁ?いったいどうなってんだよ!」
その言葉を遮ったのは、高圧的で品のない怒声だった。
着崩された制服や無駄に派手なピアスからも、彼の素行の悪さが窺える。彼ーー三坂豪を一言で表すなら、"不良"であろう。
ちなみに、高校入学の初日に創也ともめ、問題を起こしたのも彼である。
大抵の場合トラブルメーカーとなる三坂だが、しかし、この場面においての彼の発言は的を射ていた。
「ホントに意味わかんねぇよ、ここは、何処で!、あんたは、何なんだよ!」
三坂は声を荒らげながら、金髪の女性へと近付こうとし、
ーージャキン
甲冑を着こんだ兵士の抜剣に阻まれた。
創也達を取り囲む兵士は、鋭い目付きで三坂を制し、生徒1人ひとりを警戒するように剣を構えた。
映像や絵画で見るような光沢のある剣と違い、鈍い色を放つそれは、素人目に見ても人を斬るためのものだと分かった。
「うっ、、」
三坂も真剣の圧に押されてか、動くのを止める。
「取り敢えず落ち着いて、私達の話を聞いて下さい。ロールズも、威圧するのは止めなさい。」
「はっ」
ロールズと呼ばれた兵士は短く返事をし、剣を収める。
張り詰めた空気が和らぎ、生徒達の心に安心が生まれた。しかし、現状が何も分かっていない今、これで終わり、というわけにもいかない。
生徒の代表である教師の碧と金髪の女性の間で何回か言葉が交わされ、落ち着けるところへ場所を移してから、改めて詳しい話をする、ということでこの場は収まった。
▼ ▼
金髪の女性ーーいわゆる教会における"聖女"というやつらしい、との話し合いには、教師であり1-Dの担任の碧が応じた。
創也達は碧と一緒に、広く屋根の高い、講堂のような部屋に案内され、碧と聖女の話し合いを聞いていた。
話によると、ここは創也達の世界から見て、"異世界"という立ち位置にあるとのこと。
半信半疑ではあったものの、華美な装飾が施された廊下に、創也達に水を用意したメイドを見せつけられては、ここが元いた世界と同じであるとは考え難かった。
一部、ヒステリックになった女子生徒が半泣きになりながらも聖女の話を否定したが、聖女が周りを囲んでいた1人の兵士に目配せをすると、その兵士は見せつけるかのように手をかざし、詠唱を始めた。
「魔よ、ロールズの名において炎となれ【火球】」
上に向けた手のひら周辺の空気が揺らいだかと思うと、その中から火の粉が生まれた。
最初は少量だったそれは、増え続けながら回転し、最後には火球として煌々と渦巻いている。
創也は、その手際の良さから聖女達を訝しむと同時に、兵士の使った技術に興味を抱いていた。
きっとあれは、魔法というやつだーーと。
そんな創也達の関心を知ってか、聖女はよくとおる声で、この状況について説明し始めた。
「私は、聖女セイラと申します。ここ、ノスフィディア王国の教会に所属し、今回は、主神アドヴ=アドヴァ様からの神託により、碧様達を勇者として召喚させて頂きました。この世界は、現在、崩壊の危機に瀕しようとしています。どうか我々に力を貸して下さいませんか?」
聖女セイラは、そう話を切り出した。
「力を貸すと言われましても、何がなんだか、、、そもそも、一般人である私達にそんな大層なものはありません、、」
困惑しながら答える碧。こんな状況に陥っても、正常に対話し、生徒達の代表として振る舞っていることから、彼女の優秀さが分かる。
今だに生徒達が騒ぎ立てないのも、彼女が矢面に立って聖女やその他の異世界人と話しているからだろう。
「心配しなくても大丈夫です。あなた方には、神から授かった恩恵である強力なステータスがあるはずです。異世界から召喚された勇者は、誰もが戦える《職業》と、ある【スキル】を保有しています。魔物の侵略に耐えきれていない私達異世界人に、その力を少しでも貸して頂きたいのです。」
セイラのその言葉は、最初の幻想的な雰囲気とは打って変わって、同情を引くような話し方であった。
多くの生徒が聖女セイラの話を信じ、その美しさから、「俺が力になってやる!」と一部の男子生徒のやる気を掻き立てる中、逆に創也はセイラに対する信用を無くしていた。
先ほどからの話し合いを見るに、この召喚とその後の流れは、ある程度計画されていたものであることは明らかである。
そう考えると、創也達を"勇者"と持ち上げてから、自分達が危機であると自信の無力をアピールし、生徒達の自信、感情をコントロールすること。
兵士ロールズの抜剣・威圧から、聖女セイラが宥めることでセイラがまるで生徒達を護ったかのような印象を与えることも、聖女らの計画だと窺える。
事実、生徒達はそれほどセイラを疑っていないし、力を貸すことにも協力的だ。
本当にあるかも分からない自分達の力に自信を持ち、セイラ達異世界人の自作自演の演技に惑わされている。
これらのことを踏まえて、この女は安易に信じるべきではないなーーと創也は考えた。
しかし、創也のように思慮深い生徒は、そう多くない。
「分かりました。俺達で良ければ、微力を尽くします。」
聖女に対して自信満々で返答したのは、先ほどまで話していた碧ではなく、クラスの中心人物といえるであろう生徒、神崎龍次であった。
次回は明日の21:00に投稿します。