異世界召喚
わにわーにです。
初の投稿なので拙い文章ですがよろしくお願いします。
回転する手斧が、放物線を描きながら向かってくる。
世界が一瞬遅くなったように感じ、俺はその光景を他人事のように見つめる。
手斧はその運動エネルギーに従い、避けられないスピードで目前まで迫っていた。
そして俺は、俺の感覚は、現実へと引き戻される。
ーー危ない
咄嗟に体を捻るも、その刃を避けきることはできない。錆びた刃が皮膚を切り裂き、冷たい金属がその下まで入ってくるのを感じた。
そうして、左腕が抉れた。
「ぐっ、がぁぁぁぁぁーーーーーー」
醜い叫び声が、薄暗い洞窟に木霊する。
生まれて初めて身体を失った衝撃に、その強すぎる刺激に、この感覚が異常なまでの痛みだと気づくのに幾らかの時間を要した。
情けのない声を上げながら、俺ーー天原創也は、激痛のする左手に視線を移す。そこには、在るはずの小指が欠け、左側面の肉が抉れた、見るに耐えない光景が広がっていた。
「ーー【操、、朧】、、」
この世界に来てから、何度も練習したスキル名を呟く。黒い"もや"が左腕から発生し、創也の傷口を覆うように変形する。スキル使用のお陰か、出血量が少しばかり減った気がするが、痛いことに変わりはない。
「なんで、こんなことに」
土と鉱物の混じり合った地面を見下ろしながら、創也は愚痴を溢した。
▼ ▼
照りつける日差しの中、創也は学校へ向かった。今日9月1日は、きっとどの学生にも憂鬱であろう夏休み明け初日である。
だるい体を動かし、1歩1歩階段を上がっていく。肌に張り付く制服を鬱陶しく思いながら、1-D の表記を確認し、
ガララッ
引戸を開け、教室に入る。教室内の生徒達は、一瞬創也に視線を集め―――顔を背けた。
別に、いじめがあるとか、そういうことではない。入学初日に少しばかり問題を起こして、そして少しばかり友達作りに失敗しただけである。
酷い反応だ、と内心溜め息をつく創也。すると、後ろから声がかかった。
「どいてくれないか?」
高圧的な口調で戸の前にいる創也に声をかけたのは、クラスカーストの頂点に位置する神崎龍次だ。
成績優秀、眉目秀麗とは正に彼のことであり、ファンクラブも存在するような完璧超人である―――はずなのだが、創也に対してはいつも当たりが強い。
創也は、ああ、と返事をして自分の席へ向かう。担任も教室に入って来て、ホームルームの準備をしている。
何の目的もなくスマホを起動し、ゲーム画面を開く。クラスの端では、神崎達カースト上位陣が近々行われる文化祭について話していた。
「ホームルーム始めるよー」
担任が声をかけ、生徒の1人が始まりの号令をかけた。
また憂鬱な1日が始まるのか、と沈んだ気持ちを抱えながら、軽く頭を下げる。
誰もが凡庸で、ありきたりで、平和的な空気を感じたその瞬間、
視界が、白く染まった。
「きゃぁぁっ」
「うぉぉっ」
続けて浮遊感。
「うわっ」
「な、なんだぁ!?」
「み、皆さん、落ち着いて!」
担任の碧が生徒を気遣った声をかけるが、落ち着けるわけもない。
創也は何かを掴もうと、真っ白な世界のなか、必死に手を動かす。座っていたはずの椅子の感覚すらなく、叫ぶ生徒の声だけが、彼に、これが現実であると示していた。
そんな浮遊感もあまり長くは続かず、創也達は突然、座りこんだ状態で固い床に落とされた。
いきなり回復した視界と、白く固い床。白と黄色のステンドグラスに、周りを取り囲む甲冑の兵士達。
創也達の正面には、金の髪、金の瞳を持つ、恐ろしく美しい女性がステンドグラスから差し込む日光に照らされ、神秘的に佇んでいた。
その肌は白く、年齢は20代前後に見える。瞳は生徒達を静かに見つめ、髪は日の光を浴びて半分透けていた。化粧でも、染料でもない自然の美しさがそこには表れているのと同時に、その肢体と容貌は計算しつくされたかのように完璧で、神なる者に創られたといっても良いだろう。
何もかもが意味不明の生徒達に向かって、神の造形とでも言うべきか、どこか浮世離れした美しさを放つ女性は、静かに、しかし力強くこう言った。
「ようこそ、異界の勇者様。あなた方をお待ちしておりました。」
次回の更新は明日の21:00です。