第八話 余所見厳禁
「それで、何をしようか。せっかく二人が遊びに来てくれたんだから。何かやりたいんだけど」
そう言って一晴は、一度テレビを見る。
「やっぱり、定番のゲームでもやるか?」
「うーん。そうだね……ゲームはゲームでもジャンルがあるからね」
「うちには、テレビゲーム以外にもトランプやオセロのようなゲームもあるけど」
いまだ目の前に、どす黒いオーラを放つクッキーがある中、空実は思考する。
この後、エルウィーとアルフィーが何を仕掛けてくるか。
いきなり挨拶代わりに、どす黒いオーラを放つクッキーを出してきたぐらいだ。これで終わりとは思えない。
「あっ、そういえば父さんが仕事仲間からジェンガを貰ってきたような」
「ジェンガか。良いんじゃないかな? 実は一度もやったことがないんだよね。空実はどう?」
「あたしは、何度か。でも、良いんじゃないかしら。楽しそうだし」
「よし。二人も、ジェンガでいい?」
一晴がエルウィーとアルフィーに問いかけると、笑顔で首を縦にふる。それを確認した一晴はちょっと待っててと伝えリビングから出ていってしまった。
「っと、そういえば止めたままだった。良いところまで進めてセーブしなくちゃ」
ゲームの途中だったことを思い出したミランダは、慌ててコントローラーを握り締める。
その姿を一晴が来るまで空実達は見詰めていた。
「くすっ。よく見破ったね、あのクッキーを」
すると、静かに空実の背後からアルフィーが話しかけてきた。
「よく言うわ。隠す気なんてなかったくせに。あのクッキー、何を入れたの?」
「知りたい? 本当に?」
問いかけにエルウィーが楽しそうにくすくすと笑ってみせる。
「正直、どうでもいいわ。明らかに体に悪いってことはわかるし」
「えー、そんなことないんだけどなー。ねえ? アルフィー」
「そうそう。体に害があるものなんて一切入ってないよ? だから、一個。食べない?」
あくまで、普通のクッキーだと言い張り、空実にクッキーを進めてくる。
「食べないわよ。そんなに美味しいならあなた達が食べれば?」
『遠慮しまーす』
「……はあ」
そんなやりとりをしていると、一晴がジェンガを持ってリビングへと戻ってきた。それをエルウィーとアルフィーは出迎え、見せつけるように抱きついて見せた。
「こ、こら二人とも」
「早く早く!」
「早くやろうよ、お兄ちゃん」
「へえ。確かに、以前とは全然違うみたいだね」
「そうなの。でも、この方が私は良いと思うの」
「ですね。何より一晴も嬉しそうだ」
と、夏騎は空実へと視線を送る。
(なによ、夏騎の奴。まさか、あたしもあんな風にしろって言いたいわけ?)
「そんなに睨まないでくれるかい?」
「別に睨んでないわよ。そっちこそ、言いたいことがあるなら目じゃなくて口で言いなさいよね」
ちょっとした言い争いをしていると、一晴がジェンガをテーブルの上に置く。
見た目は、どこにでもありそうな普通のジェンガだ。
「よし。それじゃあ、さっそくやるけど。ミランダ義母さんはどうする?」
「ご、ごめんね。もうちょっとかかりそう!」
どうやら、ミランダはまだテレビゲームを止められないようで、コントローラーを握りながらテレビを睨んでいた。
それを確認した一晴は、苦笑しながら未開封のジェンガの封を解いていく。
「それじゃあ、やるのは俺、空実、夏騎、エルウィーちゃん、アルフィーちゃんの五人ってことで」
「あっ、わたし達は二人で一度ってことでいいかな? お兄ちゃん」
「その方が早く進むと思うんだけど」
相変わらずぴったりと一晴にくっついているエルウィーとアルフィーの提案に、一晴は空実と夏騎に確認をとるように見る。
「僕は構わないよ」
「あたしも」
「うん。てことで、順番は」
話し合いの結果。
順番は一晴をスタートとし、時計回りにエルウィーとアルフィー、空実、夏騎、再び一晴となった。
最初は、特に苦労することなく一個ずつ木の板を抜いて、上に積み重ねる作業が続く。
だが、次第にバランスが悪くなり、一個抜くのにも慎重になってくる。
「はい! 成功!」
「さすがアルフィー!」
そして、四週目でのアルフィーが終わったところで、空実は少し考える。
まだ抜く場所は残っている。とはいえ、最初の時のようにスルスル抜ける場所も少なくなってきた。
「えっと」
どこを抜こうかと周りを観察していると。
「ねえ、お兄ちゃん。今日の夜なんだけど」
「え? あ、ちょっと今は」
「えー? いいじゃん。別にー。出番まで暇なんだし」
何事かと視線を送ると、エルウィーとアルフィーが一晴の膝の上に乗り顔を近づけていた。
その様子を、夏騎は笑顔で見守っているが、空実は心中穏やかではなくなってきた。
(こ、この……明らかに見せつけてる。お、落ち着け……落ち着くのよ。ここで心を乱したら)
ジェンガは集中力をかいたら終わりだ。
空実は、二人の妨害工作などには屈しない! と木の板を慎重に人差し指と親指で摘まみ、抜いていく。
「ふー」
「ちょっ!? 耳に息を……!」
「あー、エルウィーばっかりずるい。わたしもわたしも!」
「いや、だから!」
(心を乱したら……)
「いくよー!」
今まさに、一晴の耳にアルフィーの息が吹き掛けられようとした刹那。
「ハッ!!」
信じられない早さで木の板を抜き、そのままの勢いで一晴とアルフィーとの間に投げ飛ばした。
「ひゃっ!?」
「え?」
もう少しで当たりそうになったアルフィーは、小さく悲鳴を上げる。
「あ、ごめんねアルフィーちゃん。つい力が入っちゃってすっぽ抜けちゃった。当たってないかしら?」
「う、うん。だいじょうぶ」
「一晴も当たってない?」
「俺も当たってないけど……気を付けろよ?」
「あはは。ごめんごめん」
何度も謝りつつ、飛んでいった木の板を拾いに行く。そして、崩れないように積み重ねたところで、何事もなかったかのように夏騎に順番を渡した。
「まったく驚いたよ。うーん、さすがにきつくなってきた、かな?」
夏騎が、悩んでいる中、空実はいまだ硬直してるアルフィーに視線を送った。
調子に乗るんじゃないわよ、という意思を込めて。