第七話 戦う乙女達
「やあ、来たよ一晴」
「いらっしゃい、夏騎。それに空実も」
「うん。お邪魔します」
本日は晴天。
絶好のお出かけ日和だ。
そんな良き日に、空実と夏騎が遊びに来てくれた。今日の目的は、遊ぶこともあるが、俺の双子の義妹であるエルウィーちゃんとアルフィーちゃんと会う。
客人用のスリッパを二人に履かせ、俺はリビングへと一緒に移動する。すでに二人は、歓迎の準備をしている。
朝から張り切っていて、義母さんが手伝うと言うが、それを拒否するほど。俺も何か手伝おうか? と言ったのだが、笑顔で断られてしまった。とまあ、そんなこんなで、俺と義母さんは暇で暇で……ついテレビゲームを一緒にやっていた。
案外、ゲームがうまく相手が義母さんながらムキになったのは内緒だ。
「二人が来たよ」
「お邪魔します」
「お邪魔します……」
リビングに入るなり、真剣な表情でコントローラーに操作するミランダ義母さんの姿が目に入る。
入ってきた夏騎と空実に気づいた義母さんは、ハッと我に帰り、コントローラーから手を離す。
「あ、あら。二人ともいらっしゃい」
「はい。お久しぶりです、ミランダさん」
さすが夏騎。さっきの義母さんを見ても、動揺が見られない。
「……」
さて、空実だが。
やっぱりエルウィーちゃんとアルフィーちゃんが気になっているようだ。
二人は、楽しそうに可愛らしいエプロン姿で台所に立っている。
どうやらクッキーを作っているようだ。
「空実ちゃん?」
「あ、すみません。……ミランダさん。ゲームがお好きなんですね」
「あ、あはは。母親になってからは触らないようにしていたんだけど。つい熱中しちゃって……」
そういえば、俺がゲームをしている姿をじっと見ていたことが何回かあったな。
あれは、自分もやりたいという欲求が漏れていたんだな。
「気にしないでください。ゲームは、いくつになっても楽しめる素晴らしい娯楽だと僕は思っていますから」
「そうだよ、義母さん。これからは、いつでも相手になるから。我慢しなくていいと思うよ」
「ほ、本当? ……そこまで言われると、たまにはいいかな」
たまに、か。まあ、家事があるからいつでもってわけにはいかないか。それに、義母さんも仕事があるし。
毎日ではないが、義母さんはパートとして近くの店で働いている。
結婚する前は、掛け持ちをしていたようだが、今はひとつに絞って無理をしない程度に働いている。
「できたー!」
「うん、おいしくできたね。エルウィー!」
「そうだね、アルフィー!」
お? どうやら二人が作っていたクッキーが完成したようだ。
さて、いったいどんなクッキーなのか。
できてからのお楽しみだと言って、全然教えてくれなかったから余計に楽しみである。
「あっ、夏騎お兄さんに空実お姉さん。いらっしゃい!」
「今日は、二人のためにおいしいクッキーを作ったんだよ。自信作だから食べていってね!」
「それは楽しみだね。どんなクッキーなのかな?」
「……」
相変わらず爽やかな笑顔の夏騎に対し、空実は二人を警戒するかのように見詰めている。
二人は、あんなにも歓迎する気満々なのに。
・・・・・★
(さて、とりあえずは不審な様子はない。いや、あの笑顔がすでにあたしには怪しく見えてるけど)
一晴の家に遊びに来た空実は、いつエルウィーとアルフィーが仕掛けてきても良いように警戒心を高める。
が、あまり警戒していても居心地が悪くなるだろう。
(自然に……自然に……)
一度深呼吸をし、気持ちを整える。
すると、自分の前に小さな皿に取り分けられたクッキーが置かれる。
どうやら、普通のチョコチップクッキーのようだが。
(いや、違う。このクッキー……)
見た目は完全にチョコチップクッキーだ。
しかし、退魔士である空実にはわかる。
クッキーから放たれるどす黒い力を。
「どうぞ、空実お姉さん」
「おいしくできたと思うから」
とても可愛らしい笑顔だ。しかし、空実にはそれが邪悪な笑みに見えてしまう。
周囲を見渡すと、明らかに自分のだけがどす黒いオーラを放っているのは明白。
(この双子……さっそく仕掛けてきたわね)
空実以外からは、可愛らしく客人にわざわざ手作りのクッキーを作って歓迎してくれるような気立てのいい双子に見えているだろう。
その証拠に、一晴も夏騎もおいしいおいしいと二人のクッキーを食べている。こんな中で、一人だけ食べないのは不自然。
「ん? どうしたの? 空実。このクッキーすごく美味しいよ」
「ありがとう、夏騎お兄さん。ほら、空実お姉さんも食べて食べて」
「それとも、わたし達の作ったものなんて食べられない、かな?」
明らかに、クッキーを食べれば体に異常をきたす。
となれば、ここは。
「ごめんね。実は、ちょっとお腹の調子が良くないの。だから、後で食べるわね」
「大丈夫か? 具合が悪いなら、無理に来なくてもよかったのに」
「大丈夫よ。そこまで悪いってわけじゃないから。……ごめんね、二人とも」
と、笑顔を向ける。
「……そっか。じゃあ、これはお土産として持って帰ってね」
「あっ、家族と一緒に食べてもいいから」
(それはつまり、家族共々体調を崩せって言いたいのかしら?)
何とか最初の攻撃を回避した空実は、笑顔を振り撒くエルウィーとアルフィーを見詰め、目を細めた。