第三話 これってストーカー?
「か、一晴」
「空実?」
昼休みになった。
いつもなら空実と夏騎の三人で昼食を食べるのだが、今日はどうしよう? と考えていたところに空実が、何やら真剣な表情で話しかけてきた。
なんだか朝と違うような。
「そのさ。なんていうか……えっと」
空実にしては、かなり口ごもってる。
やっぱり昨日の今日だからな。
いつもの空実だったら、もっとこう男友達みたいな感じで話すのだが、今はどこか遠慮があるような気がする。
「そういえば、今日は遅かったけど。どんな用事があったんだ?」
「え? それは……」
じっと俺のことを見詰めたまましばらく考える。
俺に関係すること、なのか?
「なんだっていいでしょ? そ、それよりも何か困ったことがあったらあたしに相談しなさい! いいわね?」
「あ、ああ。うん、わかった」
「それと!」
「うおっ!?」
ぐいっと、一瞬鼻と鼻がくっつきそうなぐらいまで近づいてくる。
俺のほうが引かなければどうなっていたことか。
「あ、あたしは」
あたしは?
「……あなたのこと嫌いじゃないから!!」
そう言って、ズカズカと教室から出ていってしまった。
なんだか昨日と似たようなことを言われたけど……どうしてだろう。昨日の言葉とは、込められたものが違う。
そんな気がした。
「一晴」
「夏騎?」
空実が去った後、夏騎が入れ違うように話しかけてくる。
それもかなり真剣な表情で。
「あの様子。もしかして」
「もしかして?」
「いや、これは本人が言わなくちゃ意味がないと思うから」
「な、なんだよ! 気になるじゃんか!」
「あははは。まあでも、君にとっては良いことだと思うよ。ほら、早く昼食を食べてしまおう」
本当、なんなんだよ。
俺にとって良いことか……空実のあの様子から考えて、まさか、な。
いやいや、俺は空実にふられたんだぞ。
甘い期待をするな。
「って、一晴。その弁当」
「あ、あははは」
いつも通り、弁当箱を開けたらびっくり。
これは明らかに母さんが作ったものではないことは明白。
その証拠に、妹×兄×妹と鮭フレークや海苔などを器用に使って白飯の上に描かれていた。
「ものすごく積極的だね」
「正直、タジタジです」
嬉しいような恥ずかしいような。そんな気持ちで、俺は妹達の愛がこもった弁当へと箸を伸ばした。
・・・・・★
「むう」
幼馴染である一晴に危機が及んでいるとわかった空実は、その日の放課後。
一緒に帰ろうとしたが、まだ昨日のことが頭から離れないため隠れて様子を見ている状態にある。
こっそりと、一晴に気づかれないように。
それでいて周りから怪しまれないように。
エルウィー、アルフィーの二人には気づかれたが、普通の人間である一晴には、気づかれまい。
「この方向は、あの二人が通ってる小学校に向かってるみたいね」
いつもなら空実と共にまっすぐ帰宅している。
たまに寄り道をすることもあるが、基本寄り道を一切せずに二人で下校しているのだ。
が、今回はなにもかもが違う。
一晴は義妹達を迎えに行き、空実はその後をこっそりと追う。
「……なんだかストーカーしてるみたいで忍びないけど、これも一晴を守るため。ほ、本当は隣で守ってあげたいんだけど」
まだ恥ずかしい。
というか、操られていたとはいえ、ふった昨日の今日で何事もなかったかのように隣を歩くのは、さすがの空実も人としてどうかと思っている。
「あっ、コンビニに入った」
コンビニに入って一分。
一晴は、手ぶらででてきた。買うものがなかったのか。それともただトイレで入っていっただけか。
「ともかく、追跡再開ね」
それからは、何事もなく目的地である白原小学校に到着する。今年で創立百年になる学校で、町と町の境界線付近に建てられており、自然と町々の交流の場となっている。
「あっ、二人ともー!」
小学校に到着するなり、一晴は校門前に立っていた二人の少女へと声をかけた。
エルウィーとアルフィーだ。
一晴が近づくよりも早く、二人は嬉しそうに駆け寄ってくる。
『お兄ちゃん!!』
そして、人目も気にせず一晴に思いっきり抱きついた。
エルウィーとアルフィーはただでさえ目立つ。
双子ということもあるが、その美しい白銀の髪の毛が存在感をぐっと上げている。
「おっとと。危ないだろ?」
「ごめんなさい。でもね、アルフィー?」
「うん。早くお兄ちゃんに会いたくて。それに」
(き、気づかれてる。やっぱりただ者じゃないわね)
一晴に抱きついたまま、両脇から隠れている空実を見詰める。その表情は、明らかに敵意が見える。
自分のものを絶対渡さないという意思がひしひしと伝わってくる。
「どうかした? 二人とも」
「ううん、なんでもない」
「そうそう。それよりも、早くわたし達の家に帰ろうよ」
「そうだね。早く帰って、いっぱいよしよししてあげちゃうよ。お兄ちゃん」
「ちょ、ちょっと。そういうことは外で言うのは」
「ほらほら!」
「いこういこう!」
まるで、空実から逃げるように二人は一晴の手を引き走り出す。
「くっ! あたしが普段通り接することができないことをいいことに!」
小さくなっていく三つの背中を見詰めながら、空実は拳を握り締める。
「ふっふっふ。あまりあたしを舐めない方がいいわよ、サキュバス姉妹。今に見てなさい……!」
今後のことをよく考えるため、空実は別ルートから帰宅する。
このままやられっぱなしじゃいないと。