第二話 これから
これからの展開を考えると、もしかしたらタイトルを変えるかもしれません。
「おはよう! 夏騎!!」
「え? あ、ああ。おはよう一晴。……えっと」
教室の到着するなり、元気な挨拶をした。が、夏騎は何やら不思議なものを見るような表情で言葉を詰まらせている。
……まあ、当然だろうな。
昨日の出来事をよく知っている夏騎にとっては、次の日に何事もなかったかのように挨拶をする俺を見たら。
「大丈夫、なのか?」
「ああ。なんとかな」
夏騎は、俺が帰った後も、ずっと心配してくれていたようだ。
「でも、驚いたよ。昨日は、あんなに落ち込んでいたから。足取りも危うかったし」
「確かに、昨日の俺は自分でもやばいと思った。けど、今はこの通りだ。心配かけて、ごめん」
「いや、一晴が謝るようなことじゃないよ。僕は、親友が元気だったことを嬉しく思うよ」
あぁ、なんて眩しい笑顔。そして、心に染みる言葉。
俺が女子だったら、確実にドキッとしていただろう。ただでさえ、女装すれば美人さんランキング一位なのだから。
「それで、これは答えられなければ答えなくていいんだけど。その、どうやって一日で?」
ま、気になるよな。
自分でも必死に励ましたのに、完全には吹っ切れなかった俺がどうやってここまで回復したのか。
「それは……妹達のおかげなんだ」
「妹達って、あの双子の?」
夏騎も二人のことは知っている。何度か自宅で会ったこともあるから。
「ああ。恥ずかしながら、妹達に全力で甘や、もとい。励ましてもらったんだ」
「なるほどね。やっぱり、家族の言葉が一番ってことか。それに、よかったね。嫌われてなんかいなかったみたいで」
「まったくだ」
二人から嫌われているんじゃないかということは、夏騎にも話していたのだ。
夏騎にも妹が居るため、何か役立つアドバイスを貰えるんじゃないだろうか? と。
夏騎の妹さんは、現在小学校六年生。
名前は、秋波ちゃん。
俺も何度か会ったことがある。礼儀正しく、物静かな子で、まさに文学少女と言った容姿。
夏騎と仲は良好で、よく二人で出掛けているほどだ。
「そういえば、秋波と同じ学校だったよね?」
「うん。一学年下。二人とも、学校でのこと話してくれないからどんな感じなんだろうな……」
って、学校どころか日常的に話したのだって、昨日が初めてだったんだけど。
これからは、たくさん二人のことを知っていこう。
そして、たくさん甘えよう。もちろん、父さんとの約束通り一線は超えない程度に。
「ところで」
話が一段落したところで、俺は周囲を見渡した後、夏騎に問いかけた。
「空実は?」
「え? まだ来てないけど。おかしいな……空実がこんなに遅いなんて」
昨日までは、俺と一緒に登校していた。だが、今日に限っては昨日のこともあり、彼女なりに気を使って先に行っていたとばかり思っていたんだが。
・・・・★
「……」
空実は、頭を抱えながら思考する。
それは、つい先日のことだ。
幼馴染である一晴に告白をされた。そして、空実はそれを断った。
記憶ははっきりしている。
だが。
「なんで、昨日あんなこと言ったんだろ……」
正直、一晴からの告白は嬉しかった。
幼馴染ということもあり付き合いは長く、気の許せ合う仲。
とはいえ、付き合うということは昨日の告白を受けるまでは考えたこともなかった。
が、嬉しいという気持ちは嘘ではない。
今も、昨日のことを思い出すだけで心臓の鼓動が激しく高鳴るのだから。
「昨日、一晴と出会う前に、何かあったような」
なんとか思い出そうとするも、なにかもやがかかったように思い出せない。
「……ううん。確か、あの双子に」
そう、双子だ。
一晴の義妹であるエルウィーとアルフィーの二人に会った。そこから考えていることとは違った行動をとってしまった。
「でも、そんなことが……ん?」
学校に向かわずその辺をうろうろしながら考えていると、見覚えのある二つの影を発見する。
エルウィーとアルフィーだ。
彼女達は、ここから先にある小学校に向かっているはず。今の時間では、走っても間に合わない。まさかサボり? どうにも怪しさが消えない。そう思った空実は、二人の後を着いていく。
「ここは」
到着したのは、空実も通っている高校。
どうして、ここに?
「あれ? お姉さん、こんなところで何をしているの?」
「サボり? そういうのよくないと思うよ」
「……あなた達こそ、サボって何をしているの? というか、単刀直入に聞くけど、あたしに何かした?」
どうやら、尾行していたことを気づいていたらしい。余裕の笑みを浮かべながら、こちらへ近づいてくる。
「何かって、なにを?」
と、エルウィーが首をかしげる。
「この際だから、はっきり言うけど。あなた達……普通じゃないわね?」
普通なら、なにを言っているんだ? と笑うところだ。だが、二人は余裕の態度を崩さず、同時にくすりと怪しく笑みを浮かべる。
「なーんだ。気づいていたんだね」
「そういうお姉さんも、普通じゃないよね?」
「ええ。皆には隠しているけど、あたしは退魔士よ。で、退魔士であるあたしの勘が言ってるわ。あなた達は、魔なる存在だって」
きっと睨む空実だったが、二人はそれでも余裕の態度を崩さない。
「ばれちゃったか……そう、わたし達は悪魔。それも人々を惑わす」
「世間でいう、サキュバスだね」
「なるほど。それで、狙いは一晴の生命力ってところかしら?」
そのために、邪魔となる自分を遠ざけるためなにかしらの術を使った。それを理解した空実は、身構える。
「勘違いしちゃだめだよ」
「え?」
「そうそう。確かに、狙いはお兄ちゃんだけど。生命力じゃない」
「わたし達はただ愛する人を独り占めにしたかっただけ」
「だから、お兄ちゃんには悪いと思ったけど。人生初めての告白を台無しにしちゃったの」
「そうすれば、お兄ちゃんは落ち込む」
「そんなお兄ちゃんをわたし達が全力で癒してあげる」
高揚した様子で、手を繋ぎ合い、その場で踊るようにくるくると回る。
「お兄ちゃんは、わたし達だけを見てくれる」
「わたし達に依存してくれる」
互いに抱き合い、こつんっと額をくっつける。
「そのためにあなたは邪魔だった。だから、お兄ちゃんをふるように仕向けたの」
「本当だったら、もうちょっときつい言葉で断るかと思ったんだけど。無意識に抵抗していたんだね。記憶もはっきりしているみたいだし」
「あなた達……そんなことして。それで、一晴が嬉しいと思うの? これ以上、一晴になにかをするっていうならあたしが」
「許さない?」
「それはちょっとおかしいよ。お兄ちゃんをふっておいて」
「それはあなた達が!」
「ふふ。でも、本当にお兄ちゃんを好きならさっさと告白しちゃえばよかったんだよ。ねえ? エルウィー」
「そうだね、アルフィー」
二人の言葉に、空実は口を閉ざす。
返す言葉もないからだ。
確かに、一晴のことは好きだ。だが、それは幼馴染として。恋愛感情というものは、空実にはなかった。
しかし、初めて一晴から好意を向けられた時に生まれた感情。
あれは嘘じゃない。
もしかしたら、自分は知らないうちに一晴を好きになっていたんじゃないか。今だからこそ、そう思える。
「何とでも言いなさい。なんと言われようとも、あなた達の好きにはさせないから!」
「あーあ、普通の人間だったらとっくに終わってたのに」
「これから大変な日々になりそうだね」
と、初めて余裕の表情が崩れる二人。
不満げな言葉を残し、二人は姿を消していく。
「……とはいえ、どうしよう。相手の術にかかっていたとはいえ、一晴を傷つけちゃったわけだし」
これからどうやって彼女達から一晴を守ろうか。チャイムが鳴り響く中、空実は頭を抱えた。
というわけで、またファンタジー系か! という声がそこかしこからあがるような展開でした。
申し訳ない。
普通の恋愛は、他の人達がたくさんやっているので。自分は、こういう路線でいこうかなと。