第十九話 それは運命
うおおお! 一年以上ぶりの更新だー!!
「いらっしゃい」
空美は、玄関のドアを開け双子の少女エルフィーとアルウィーを自宅に招く。
警戒心を高める空美に対し、二人はまるで家に遊びに来たような雰囲気で中へと入っていく。
「お邪魔しまーす!」
「しまーす!」
中に入ると、丁寧に靴を脱ぎ、予め出されていたスリッパを履く二人。
「こっちよ。あたしの部屋で話しましょう」
いつもの調子で居る二人を空美は、自室へと案内する。
一歩、また一歩と階段を上がる中、空美はずっと二人のことを警戒していた。
そして、自室に入り、内鍵を閉めた空美は大きく深呼吸をする。
「それで」
「用事って」
《なーに?》
刹那。
二人の雰囲気も一変する。にやにやと小馬鹿にするような笑みを浮かべながら、空美のことを見ている。
滲み出る魔のオーラ。
部屋中を覆うその魔のオーラをひしひしと肌に感じながらも、臆することなく空美は口を開く。
「あなた達に聞きたいことがある。……あなた達、一晴のことで隠していることがあるんじゃないの?」
思えば、ずっとおかしかった。
今では、兄に甘える双子の妹と認知されているが。少し前までは違っていた。一晴自身も、可愛い義妹が二人もできたが、無反応で何を考えているかわからない。
そう常々空美に話していた。
それがどうだ?
一晴が空美へ告白しようとした途端に、本性を現したかのように。
明らかに、一晴が誰かを好きになる、ということを阻害している。
空美も、二人のせいで一晴のことを傷つけてしまった。
「別に? ねえ、エルフィー」
「そうそう。なーんにも隠してないよ。空美お姉ちゃんは、どうしてそう思うの?」
ここまできてはぐらかすつもりか。
空美は、もっと踏み入ろうと再び口を開く。
「どうしてもこうしても。明らかにおかしいじゃない? 今まではずっと一晴があなた達に話しかけても無反応だったのに。その……あ、あたしに告白しようとした一晴を急に小細工で阻害して!」
「だって、ねえ?」
「うんうん。それは、ねえ?」
二人は手を繋ぎ合い、空美を見詰める。
「これでも悪魔だし」
「そうそう。お兄ちゃんの反応を見て、楽しんでたんだよねぇ」
くすくすと笑い合う。
「そもそもさー」
「最初からあなたの恋は実らないんだよ?」
「は、はあ? どういう意味よそれ」
一晴は、空美のことを好きだった。空美自身も一晴のことが好きだった。
本来ならば両想い同士が、結ばれるのは必然だ。
二人の邪魔がなければ今頃……ぐっと拳を握り締めながら意味の分からないことを言いだす二人を空美は睨みつける。
「これは運命」
「あなたが生まれる前から決めっている運命」
「覆すことなんてできない」
「塗り替えることなんてできない」
《運命なんだよ?》
ますます意味がわからなくなってきた。
運命? つまりその言葉が示すのは。
「……まさか、一晴とあなた達が運命の赤い糸で結ばれているとでもいうのかしら?」
「赤い糸なんてそんな」
「人間の感性で語らないでほしいよねー? アルウィー」
「うんうん! 失礼しちゃうよねー! エルフィー」
きゃははは! と更に空美を馬鹿にするかのように笑う二人。
これが、二人の本性。
一晴が居る前では、相当猫を被っていたんだと感情を高ぶらせる。
「それにさ」
しん……と静寂に包まれる。
「あなた、お兄ちゃんのことを……怖がってるでしょ?」
「なっ!?」
エルフィーの言葉に、空美は車に轢かれた時の一晴を思い浮かべる。
明らかに人のものじゃない雰囲気。
あれは一晴じゃない。
今まで感じたことのない……恐怖。
「そ、そんなわけないじゃない!」
「あー、嘘ついちゃだめだよー」
「アルウィー。あんまり虐めちゃだめだよ? だって空美お姉ちゃんは人間なんだもん」
「そうだね、エルフィー。人間だから仕方ないよね」
なんとか言い返そうとするも、真実のためかなかなか言葉が出てこない。
確かに、空美はあの時以来どこか一晴のことを怖がっている。
自然とあの時の顔が、恐怖心を思い出してしまうからだ。
退魔士として、恐怖耐性はかなりあった空美だったが、あの時の一晴から感じたものは、人間から感じるものではない。
今まで、感じたどのものよりも……。
「きょ、恐怖心なんてどうにでもなるわ!」
「ほんとかなぁ?」
空美の言葉に、アルウィーが小馬鹿にした表情で言う。
「まあ、頑張ってみてよ」
エルフィーはそう言いながらアルウィーと共に歩き出す。
空美は自然とドアから離れ、二人を通す。
「でも、お兄ちゃんは絶対に渡さないから。ねー、アルウィー」
「もちろんだよ。今日も、お兄ちゃんとラブラブしちゃおうかなー」
最後まで、空美を挑発するような態度のまま二人は部屋から出て行く。
そして、隣の一晴の家へと戻っていった。
立ち止まることもなく、真っすぐに。
「―――はあ」
二人が見えなくなったところで、空美はベッドに倒れこみ大きく息を吐く。
そして、顔に手を当て先ほどのことを思い出す。
「言ってくれるじゃない、小悪魔ども」
確かに事実を突き付けられ悔しい思いをした。
が、それで諦めるわけにはいかない。
あれだけ挑発されてしまっては、こちらも燃えざるほかない。空美は、にやりと笑みを浮かべた後、飛び跳ねるようにベッドから離れる。
「見てなさいよ」
空美は次なる戦いへ向けて、より一層気合いを入れた。




