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第十八話 不安

「……」


 空実は、自室のベッドで膝を抱えながら思い出す。

 いつもの幼馴染の顔が……まるで悪魔のように見えてしまった。

 あれから二日が経つが、一晴はいつもと変わらず接してくれる。

 あの日、事故に遭い騒ぎを見ていた者達が、警察に連絡をし、車を運転していた運転手は連行された。

 その時、運転手である二十代の男はひどく怯えた様子だったのをよく覚えている。


 一晴は、その後到着した救急車に乗り病院へ検査に向かった。

 空実も付き添い、検査の結果。

 脳や体のどこにも異常は見つからなかった。

 とても喜ばしいことだが、空実には不安という感情しか出てこなかったのだ。


(あれだけの衝撃音。それに車の凹み具合……無傷なはずがない。警察や医者は、運良くぶつからなかったんだろうって言っていたけど)


 そんなはずがない。

 ぶつかっていないのであれば、歩道に倒れていたはずだ。だが、あの時の一晴は道路側に居た。

 つまり、横断歩道を渡ろうとして、信号を見ていなかった車に激突。そのまま吹き飛ばされたということになる。


「一晴……あなたは、いったい」


 あの日と同じく激しい雨が降る中。

 窓から一晴が居る部屋を見詰める。

 その後、スマートフォンを手に取り、一晴に連絡をしようとするも指が動かない。


「怖がってる?」


 無意識に震えていた。

 聞くのが怖いのだ。

 あんなものを見た後に、なにを、どう聞けばいい? いや、もしかしたら一晴なら真面目に考えてくれるかもしれない。

 

「あの時の一晴の様子だと、自分の身に何が起こっているのか理解していない。もし、あれが何なのかわかるとしたら……」


 空実の脳裏に浮かぶのは、一晴の双子の義妹であるエルウィーとアルフィーの姿。

 前々から、一晴にあれほど執着するのには、まだ隠された理由があるはずだと空実は考えていた。いくら家族になったとはいえ、あの執着ぶりは異常だ。


「よし。迷ってるなんてあたしらしくない。もう知らない仲じゃないんだから」


 空実は、意を決し、スマートフォンを操作する。



・・・・・★



「お兄ちゃん、本当に大丈夫?」

「どこか痛いところはない?」

「あはは。だから大丈夫だって。あれから二日経ってるけど、この通りピンピンしてるだろ?」


 空実とのデートをした日。

 俺は、車にひかれた、らしい。

 正直、その時の記憶は曖昧なんだ。確かに、車が突っ込んできたのは覚えている。


 だけど、気づけば俺は歩道から道路に移動していて、車は停車しており、空実は俺のことを見詰めたまま固まっていた。

 病院で精密検査をしたが、脳や体のどこにも異常は見当たらず、警察からの事情聴取でも、覚えていることを全て話した。


 その時、空実もなにかを聞かれていたようだけど。たぶんほとんど俺と同じようなことを話したんだと思う。

 それで、問題である俺のことをひいたことになっている車の運転手だが。


 ひどく怯えており、警察の事情聴取でも、まともに喋れない状態のようだ。

 一応、俺の事故のことはニュースで取り上げられていたけど。なんだか自分が事故に遭ったなんて実感がわかないっていうか。

 あれから、空実もまた少し様子がおかしくなった気がするし。


「……本当に、何が起こったんだろうな」


 と、俺はベッドに倒れ込む。


「ん?」


 すると、スマホにメッセージが届く。

 どうやら空実からのようだ。

 なんだろう? と、メッセージアプリを開き確認してみると。


「……二人とも、なんだか空実が話したいことがあるらしいんだけど」

「え? 空実お姉さんが?」

「なんだろうね?」

「今から家に来れないかって」


 珍しい。空実が、二人を家に誘うなんて。

 

「むう。弱っているお兄ちゃんを癒してあげなくちゃならないけど」

「まあ、丁度わたし達も話したいことがあったし。ね? エルウィー」

「しょうがないっか。じゃあ、行こうよ。アルフィー」

「ごめんね、お兄ちゃん。帰ったらいっぱい癒してあげるから」

「いってきまーす!」

「うん、いってらっしゃい」


 二人がいなくなり、一人になった俺は再び思考する。

 話したいことか。

 いったいどんなことを話すんだろう。


「思い付くとしたら、やっぱりあの事故のこと。というか、俺について、かな」


 考えたくはないが、俺の身に何かが起こっているのかもしれない。

 だから、エルウィーちゃんもアルフィーちゃんもいつも以上に俺のことを甘やかそうとしてくれているんだろう。


 そして、空実が呼び出した理由。

 俺の身に起こっていることが、また二人に原因があるって疑っている?

 

「聞いても教えてくれなさそうだよなぁ」


 かなり気になっている俺は、メッセージで聞いてみようかと考えたが、絶対教えてくれないような気がして、自然とスマホから手が離れた。


「……暇だ」

 

 こうして、エルウィーちゃん、アルフィーちゃんがいないのは久しぶりだ。

 あの日以来、ずっと家にいる時は、俺の側に居てくれた。

 だから、こうして久しぶりに一人で自室に居ると、何をしたらいいのか考えてしまう。

 前は、空実や夏騎と話したり、漫画を読んだり。

 普通の高校生がやってそうなことばかりをやっていた。


「そうだ。明日、秋波ちゃんが借りた本を返しに来るって言ってたし。また何か貸そうかな。押し入れに何か良い本はっと」


 三人のことが気になるが、今はどうにもできない。

 本当にやばい時は、空実も話してくれるはずだ。

 何かが起こっているのは確かなのだろうけど、今は待つことしかできない。

 不安、だけど。信じるしかないんだ……。

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