第十四話 更に変わる日常
「それで、あの二人は、サキュバス、なのですか?」
空実から衝撃の真実を知らされた夜。
俺は、自室で思いきって二人に問いかけてみた。
思わず、敬語になってしまうほど緊張しています。
「そうだよー」
「えへへ、ばれちゃったかー」
あっさり。あっさりと、二人は自分がサキュバスだということを明かした。
それも、悪戯がばれた子供のような笑顔を浮かべて。
「本当に……サキュバス、なんだな」
空実の言葉を信じるとは言ったが、実際に本人達の口から聞くとなんとも言えない気持ちになる。
「お兄ちゃんは、わたし達がサキュバスだって知って……嫌いになった?」
「空実お姉さんに危害を加えた悪い悪魔だって知って……嫌いになった?」
エルウィーちゃん、アルフィーちゃんと続いて言う。その表情は、今まで見たことがない悲しい表情だった。
「……ううん、嫌いにならないさ。まあ、空実に危害を加えたって聞いた時は、ちょっと心中穏やかじゃなかったけど」
ぴくっと体を震わせる二人。
だが、俺はすぐ二人を優しく抱き寄せた。
「でも、空実本人ももう気にしてないって言ってたし。許すよ。今度はあんなヘマしない! だってさ」
「……えへへ。わたし達だって、負けないよ」
「そうだね。今度は、どんなことをしようか?」
これは、三人が出会ったら大変なことになりそうだ。
「ところで、お兄ちゃん」
と、アルフィーちゃんが呟く。
「聞きたいんだけど、今でも空実お姉さんのこと……好き?」
「え?」
「お付き合いしたいって思ってる?」
続いてエルウィーちゃんにも言われ、俺は思考する。
俺の告白は、二人によって台無しにされた。
空実の言葉から、あれは本心じゃないってこともわかった。
そして、俺は空実に好意があるということも夏騎によって気づかされた。
今、このまま空実にもう一度告白したらどうなる?
俺は……。
「まあ、また邪魔しちゃうんだけど」
「ちょっ」
なんて悪魔的な! あっ、悪魔だった。
「お兄ちゃんは、わたし達だけのお兄ちゃんなんだから。誰にも渡さないよ。ねえ? アルフィー」
「当然だよ、エルウィー。というわけで」
『それー!!』
「うわっ!?」
あの日と同じように、俺は二人と一緒にベッドへ倒れ込んだ。
「さあ、お兄ちゃん」
左からアルフィーちゃんが呟き。
「今日はどっちのちっぱいに顔を埋めたい?」
右からエルウィーちゃんが呟く。
くっ! 落ち着くんだ俺。この前と違って、二人がサキュバスだってことはわかっている。
これは、サキュバスによる魅了の力と考えるべきだ。冷静になれば、こんな。
「うーん、悩んでるみたいだね。エルウィー」
「そうだね、アルフィー。というわけで」
「そんなお悩みのお兄ちゃんに」
いったいなにを。
『えい!!』
まさかの同時。
両サイドから小さいなりの柔らかい感触が俺を包み込んだ。
あぁ……この感触! 感覚! 理性が……だめ、だ。これはサキュバスの……。
「我慢、しなくていいんだよ?」
我慢?
「大丈夫。こんなことするのお兄ちゃんだけだから」
俺だけ?
「今日は、色々と疲れちゃったでしょ? だからわたし達が癒してあげる」
癒して……。
「甘えてもいいんだよ? お兄ちゃん」
刹那。
なんとか保っていた理性が……吹き飛んだ。
「あー! 今日は、頭がパンクしそうだったー! もうなにも考えずにぐっすり眠りたい!!」
ぐいっと二人を更に強く抱き締め、心の底から叫んだ。
今が、深夜だということもお構いなしに。
「はい、負けー」
「そんなよわよわなお兄ちゃんは、ちっぱいサンドの刑に処しまーす」
すまない……本当にすまない空実。
こんな弱い俺で……だから、助けて……。
・・・・・★
「ロリコン」
「ひっ!?」
朝出会って開幕の台詞がこれである。
「何時だと思ってるのかしら? 丸聞こえだったんですけど」
「マジで!?」
「嘘よ。盗聴していただけ」
「なんだそうなのか……よか、え? 今なんて?」
「さあ? あたし、なにか言ったかしら?」
なんだかとんでもないことを聞いたような気がするんだけど。このあっけらかんとした態度で、本当に何も言っていなかったように思ってしまう。
しかし、昨日の俺は本当にダメダメだった。
幼馴染にかっこつけた数時間後にあれだ。
「おはよう、空実お姉さん」
「今日もツンツンだね」
「あら、おはよう二人とも。そっちも相変わらず可愛いわね」
「えへへ、ありがとう」
「お姉さんも、可愛いよ?」
そして、この三人の会話。
互いに隠していた真実を知っているため普通に会話をしているだけに見えるが、俺には見える。
三人の間に、バチバチと火花が散っているのが。
「言っておくけど、何か怪しい行動をとったら容赦なく対処するから」
「えー? 怪しい行動ってなにか? アルフィー」
「さあ? なんだろうね、エルウィー」
こんなことが、これから毎日あるのか?
「ほら、早く学校に行くわよ一晴」
と、俺の手を取り移動しようとする空実。
「そうだね。早く行かないと遅刻しちゃうよ」
「わたし達と一緒に行こうね? お兄ちゃん」
それに対抗するように、空いている左手を二人で握り締め引くエルウィーちゃんとアルフィーちゃん。
天国の母さん。
俺、このままどうなってしまうんでしょうか?




