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第十話 体が軽い

「いくぞ、夏騎!」

「ああ。いつでも!」


 早いもので、あの日からもう一週間が過ぎた。生まれて初めての恋、失恋、義妹達に甘えるなど。

 様々なことが起こった一日。

 自分でも信じられないほど、絶好調。毎日が充実した日々となっている。


 毎日のように双子の義妹であるエルウィーちゃんとアルフィーちゃんには甘え、ダメ人間にならないように気を付ける。

 その後、学校では幼馴染の空実と親友の夏騎を中心に学生生活を満喫中。正直、失恋相手の空実と今でもこうして過ごせているのは、そこまで気にしていないんじゃないか? と思ってしまうほどだ。


 まあ、それも空実が意味深な言葉と共に今までと違って俺のことを見てくれているからだろうか。

 前から俺のことは見ていてくれた。

 でも、今の空実からはその……好意のようなものを感じる。一度恋していると思った相手だから過敏になっているだけかもしれないけど。


「こらー! 一晴ー! 負けたら、お弁当のおかず取っちゃうからねー!!」

「なんでだ!?」

「余所見厳禁だよ!」

「くっ!」


 今は体育の授業でバドミントンをしている。

 俺は、夏騎と一対一の試合をしているのだが、さすがは夏騎。運動神経も抜群だ。

 けど、俺だって負けてはいられない。

 ちなみに、体育館を半分に隔て、片方でシングルス。もう片方でダブルスをすることになっている。ダブルスのほうも大分盛り上がっているようだな。


「らっ!」

「わっ!? す、凄いスマッシュだね」

「へへん。運動神経に関しては、自信があるからな」


 それに加え、本当に最近は絶好調。

 何だか体が軽くなっている気がする。色んなことがあって、いつの間にか人として一皮剥けたってことなのか?

 そういえば、人は失恋を乗り越えることで成長するとか誰かが言っていた気がするな。漫画の台詞だったかな?


「ふー。いやぁ、動いた動いた」


 そんなこんなで、試合は俺が勝利を納めた。

 あれだけ激しい運動をした後だが、そこまで汗を流していない。

 夏騎は、結構汗を流しているようだけど。


「お疲れ様、夏騎くん。惜しかったね」

「でも、すごくかっこよかったよ」

「あはは。ありがとう。次は、絶対負けないよ。覚悟しておいてくれ、一晴!」

「次も俺が勝つ。そっちこそ覚悟してろよ」


 相変わらず女子にモテモテだな。

 まるでマネージャーかのようにタオルとか貰って。


「ほい」

「おっと」


 夏騎の様子を見ていると、空実からタオルが投げられる。


「ありがとう」

「凄いじゃない。あんなに動けるなんて」

「自分でも驚いてるんだ。自分としてはそれなりに動けるぐらいだと思ってたんだけど」


 額や、首筋などの汗をタオルで吹きながら、俺は空実の隣に腰を下ろす。あれ? このタオル……俺のじゃない。

 

「なあ、空実。このタオル」

「え? タオルがどうしたのよ」


 気づいていないのだろうか?

 俺は、自分のタオルを手に取り、空実に見せる。

 すると、しばらく見詰めた後、あっと声を漏らす。


「……」

「このタオルって」


 空実のじゃ、と言葉にしようとするが、強引に俺のタオルが奪われる。


「ち、違うわよ! こっちがあたしのだから!!」

「いや、でも」

「あたしのだから!!」

「……あ、うん」

「わかればいいのよ」


 強引に言いくるめられてしまった。明らかに、間違っているんだが……これ、空実のタオルなんだな。

 そう思うと、ちょっと気恥ずかしくなる。

 

「……」

「なにやってるのよ」

「いや、汗を拭いてるだけだけど」


 思わず顔を埋めてしまった。

 別に匂いをかいでいたわけじゃない。うん、決して。

 

「……」

「空実もなにやってるんだ?」

「一晴が汗臭いからタオルで鼻を覆ってるだけよ」

「そうか」

「そうよ」


 なんだろう。微妙な空気になってしまっている。自分でやっておいてなんだけど、完全に変態なことをしてるよな。

 マジで、俺、あの日からちょっとおかしくなってしまったんじゃ。


「二人とも、何やってるんだい?」

「べ、別に何も。な? 空実」

「え、ええ。何か変なことをしているように見えるの?」


 女子達から離れてこちらにやってきた夏騎は、俺達の様子がおかしいと思ったんだろう。

 じっと無言でこちらを見詰めてくる。


「……そっか。まあ、何もないなら」

「そ、そういえば最近モデルの仕事はどうなんだ?」


 このままではやばいと思った俺は、無理矢理話題を出した。

 

「楽しい、かな。正直、最初は興味はなかったんだけど」

「え? そうなの? それは意外ね」


 空実が驚くのは無理もない。俺だって、そのことは初耳だ。てっきりノリノリでファッションモデルをやっているのだと。


「そんなに意外かな?」

「いやだって、お前と仲良くなった時にはもうモデルをやっていたから」


 あの時は、まさかモデルをやるほどのイケメンと親友になるなんて思いもしなかった。

 今でも、よく夏騎と仲良くなれたなぁって思うほどに。


「実は、妹が絶対やったほうがいいって熱弁して、仕方なくやることにしたんだよ」

「秋波ちゃんが? それも意外だな」


 あの物静かな秋波ちゃんが熱弁……想像できない。いや、ああいうタイプの女の子は、好きなものを語り出すと饒舌になる。

 まさか、秋波ちゃんはモデル好き? いや、イケメン好き?


「兄さんのカッコいい姿を全国に知らしめるチャンスです! て。僕もあそこまで妹に言われちゃうと、断れなくて」

「秋波ちゃんって、ブラコンなの?」


 俺だけに聞こえるようにこそっと耳打ちしてくる空実。

 

「いや、どうだろうな……まあ夏騎のことが好きなのは確かだと思うけど」


 俺が会った時は、そんな様子はなかったと思う。もしかして、人前では隠しているのか?


「あ、そうそう。秋波にあのことを話したら、是非だってさ」

「あのこと?」

「ほら、今度は秋波も一晴の家に連れていくって言っただろ?」


 あぁ、そういえばそうだった。


「秋波も部活には入っていないし。休日は、絶対家に居るから。いつでも誘ってほしい」

「じゃあ、その時は、この前以上に歓迎の準備をしておくかな……」


 とはいえ、この前と同じでエルウィーちゃんとアルフィーちゃんがほとんどやってしまうかもだけど。

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