恋の魔法が、解けたら
好きな人を好きでいつづけることは、実はとても難しい。結婚すれば、好きから居心地の良さに変化していく。恋人となると、なんの誓約もないのだから、別れたらいい。友達ならば、距離をおいて疎遠になればいい。でも、簡単にことはすすまないのが人間。
嫌いだった。耳元で、「愛してる」と言われることが、わたしは静かに側に寄り添うだけで、幸せだったのに「ガチャガチャうるせぇなぁ」と日増しに苛立っていった。もう、そう思ったら止まらない!嫌で、嫌で、たまらなく嫌で、まるで拷問の日々が続いた。沸点は、やってきた「やめて!」怒りを通り越して、拒絶するように言いはなった。彼は、驚きと困惑の表情を浮かべていた。「ざまあみろっ」わたしの心の奥から響いてきた。一体わたしは、誰なんだ?悪魔?サイコパス?こんな感情を持っていたなんて、私はわたしがわからない。彼は、そんな言葉を浴びせられ、裏切られたとは違う恐ろしく深い闇に触れてしまったかのように私を大きな目を開いたままずっと見つめていた。そして、ひとこと「別れよう」と告げ、目線を移動させた。立ち上がり何もなかったかのように彼は、帰る支度を始めた。残酷な時間。わたしは、彼にこの言葉を言わせる為に耐えてきたのだろうか。覚醒してしまったわたしには、もう彼を傷つけるこでしか愛せないだろう。丁度いい。彼を好きな感情が、ないのだから。何故だろう?目からスーッと一筋の涙が流れてきた。悲しいわけじゃない、寂しいわけじゃない、ただただ、愛を忘れてしまったわたしが、惨めに思えてきたんだ。こんなことをしたかったわけじゃない、こんなはずじゃなかった。彼の帰る後ろ姿をぼんやりと見つめながら目の奥から湧き出る温かいものをひたすら流していた。
良くも、悪くも、他人の決断に身を任せてしまったことは、必ず後悔する。しかし、ながら不器用なわたしは、いつも他人に身を委ねがちだ。後悔する生き方は、挑戦しないので、失敗はない。残るのは、他人に人生を作ってもらわなきゃいけないという悔しさ。