王妃による回想
私には夫がいます。
お互いが幼い頃、国の都合で結婚した相手です。結婚する前に、2度ほど顔を合わせたことがある程度の人でした。
彼はこの国の王になったばかりで、私はその幼き王を家の力でサポートするために嫁いだ、いわゆる政略結婚でした。
その頃の彼は、両親を亡くした悲しみを見せないようにするためか、とてもツンツンした子どもでした。でも、同じ年頃の従兄弟のように意地悪ではありませんでしたし、素直な子だったように思います。
その頃の私は、お父様に命じられるままに王様と結婚しましたが、状況がよくわかっていませんでした。ただ漠然と、大きな責任を感じていたことは覚えています。
そんな私にお父様は「今はとにかく勉強しなさい。この国のためになりそうなことをなんでも。いずれおまえも王を支えてこの国を守るのだから」と仰って教師たちをつけ、たくさんの本を与えてくれました。
王様のことを初めて異性として意識したのは、14歳の頃でした。
その頃、将来この国を支える王だという自覚があまりに希薄に見えた王様を叱ったことがあったのです。王様は、真面目に勉強しろと言った私の言葉を素直に受け入れて、勉強時間を増やして教師たちからも積極的に教わるようになりました。
その姿勢に、ちょっと彼を見直したのでした。
そして成績をどんどん上げていった王様でしたが、運動は嫌いなのか体はひょろりと頼りないものでした。
別に精鋭の騎士のように強くある必要はありませんが、王の仕事は体力勝負です。すぐに疲れて自室に引っ込む王とか、ありえません。
なのでちょっとその辺りを刺激してみたら、彼はきちんと体を鍛え始めました。勉強も同時にやっているようで、成績も下がりませんでした。
細い少年の体から、日に日にしっかりとした男性の体になっていく王様を見て、密かにドキドキしていました。何しろ毎晩同じベッドで寝ているのですから。おまけに彼が体を鍛え始めたのは、私が言ってからなのですから。
自分の言葉をちゃんと受け止めてもらえて、実行してもらえて、嬉しくないわけがないじゃないですか。
そんなわけで、その頃には私はすっかり王様に恋をしていたのです。
でも、それを表に出すのは恥ずかしかったですし、なにより真面目に体力づくりに励んでいる王様の邪魔をしたくなかったので、そのことは隠して今まで通りに振舞っていました。
夜中にふと目が覚めた時、勉強と運動で疲れはててぐっすり眠る王様の顔を眺めるのが、密かな楽しみでした。
本当はちょっと顔などに触れてみたかったのですが、起こしてしまうのではと思うと触れられませんでした。あとやっぱり、そのようなことをするのは恥ずかしかったですし。
そうして王様が大分立派な体つきになった頃、国内がキナ臭くなってきました。どうやら隣国が、我が国の貴族達にちょっかいをかけているようでした。
ようやく学園を卒業し、政治に本腰を入れて参加し始めた私達は、毎日その対応に追われました。
一つの国が諦めたかと思ったら別の国が介入してきたり、天候不順で飢饉になったり、他所の国で発生した疫病がこの国まで流れてきたり、そんな中でもちょっかいかけてくる国があったり、果ては何を勘違いしたのか公爵が玉座を狙ったりと散々でした。
王様は、そのすべてを知恵と体力と忍耐と王家に忠実な家臣達の力で乗り切りましたが、本当に大変でした。そうして全てが片付いて国内が落ち着くまで、何年もかかりました。
私も出来る限りのことはしましたが、王様は朝早くから夜遅くまで働き通しで、倒れてしまうのではないかと見ていてとても心配でした。
でもそんな状況を、王様は見事に乗りきってみせたのでした。
やっとごたごたが落ちついた夜、私達はその…初めて結ばれました。
ここ数年は毎日忙しかったですし、それに子どもを作るわけにはいかない理由もあったので、ずっと王様と同じベッドで寝てはいましたが、ただ眠るのが当たり前になっていました。
幼い頃からずっとそうでしたし。
ですから、ちょっとだけそのことが頭をよぎったものの、その晩もいつも通りただ眠るだけだろうと思っていたのです。
ですが、そうはならなくて…。
ええと、その…王様は情熱的ながらも大事に触れてくださいました。
私を見下ろす王様が格好よすぎて、鍛えられた身体に触れられることに緊張しすぎて、細かいことはよく覚えていません。
ですが王様のとても優しい表情だけは記憶にしっかりと焼き付いていて…。
それで…えっと、あの…元気なお子が生まれるように、これからは…私も、頑張って陛下に…その…ちゃんと…応えたい、と、思い…ます。
王家の書庫には…いわゆる…女性、向けの閨の、指南書…もあった、ので…。