25歳
静かな夜。
大きな寝台の上には、ひと組の男女がいる。彼らはこの国の王と王妃だ。
「王妃」
「はい」
精悍な顔をした王様に、月の雫のようと評される静かな美しさを湛えた王妃が頷いた。枕元には『長く平和な世をつくるために、知っておくべき8つのこと』が置かれている。
「……長かった」
「長かったですね……」
二人の言葉には、深い深い感慨がこもっていた。
「あんなものすぐ片づくと思っていたのに、後から後から後から小さい横やりが入って……」
「ええ、ひとつ片づきそうになると別の問題が起こって。なんて言うか嫌がらせのようでしたよね」
「まったくだ………」
そう言うと、王様は寝台に突っ伏した。
隣国からの地味な内政干渉に端を発したゴタゴタに収束の兆しが見えたと思ったら、別の国が首を突っ込んできたり更に隣の大国まで片手間にちょっかいをかけてきたり、国内は国内で自然災害やら流行り病やら変な扇動者やら………
一気に発生しなかったから対処できたものの、王様たちには碌に休む暇もなかった。そんな状況でも、貴族たちはやっぱり団結せずに足の引っ張り合いをする者やら傀儡政治の夢を捨てきれずにコソコソ悪巧みする者やらがいて………
本当に本当に、大変だったのだ。
でもそれも、ようやく落ち着いたとみていいだろう。他の国々とは、交渉や同盟などで表面上は一応静かになったし、災害の被害に遭った地方の復興もなんとか順調だ。目に余る貴族たちを厳しく処罰したから、それ以外もとりあえずは大人しくなった。
これでようやく一息つける。
やっと、普通の日々が戻ってきたのだ。
うつ伏せの王様の背中には、疲れと安堵が滲んでいた。
「では、お疲れでしょうから今夜はゆっくりとお休みくださーー」
王妃はそう言って、さりげなく王様に上掛けをかけようとした。しかしその細い手首を、王様はガシッとつかんだ。
「待て」
「……何でしょう?」
ここ数年でますます美しくなった王妃は、ほんの少し笑みを強張らせた。
その王妃に、顔を上げた王様が言う。
「もう、すべて片づいた」
「……はい」
王妃の手首を握る手に力がこもる。
「問題は、もうない」
「…………はい」
お互いの手のひらが、緊張で汗に濡れる。
「もう、子づくりしてもいいな?」
王妃の目を覗き込むようにして、王様は尋ねた。
「ええっと……」
珍しく、目を逸らし言いよどむ王妃。
「ダメか?」
王様は王妃の体をぐいっと引き寄せ、顔を近づけて甘く囁く。
「おまえが言うから、知恵も体力もつけた。国もなんとか安定している。これ以上、俺にどうしてほしい?」
至近距離で囁かれる低い声、間近に感じる王様の体温と吐息に、王妃の鼓動が早くなる。熱のこもった視線を受け、王妃の顔が一気に赤く染まった。
恥ずかしさから顔を背けようとしたけれど、頰を両手で挟まれて逃げられない。王妃の頰の熱が、手のひらから王様に伝わっていく。美しい色の瞳が潤んだ。
「……いいか?」
目を見つめながらもう一度甘く囁かれると、たまらず王妃は目を伏せた。そして少しためらった後、恥ずかしそうに小さく小さく頷いて了承の意を返した。
王様は、それはそれは嬉しそうに破顔すると、王妃の唇にそっと初めての口づけを落とした。
めでたし、めでたし!
よく考えたら初ラブコメでした。
ひゃっふぅうううううう!!
おまけを後日アップするかもしれませんが、本編はこれにて終了です。
ここまでお読みいただきありがとうございました!!