18歳
「王妃」
「はい」
疲れた顔で、王様が王妃に話しかける。王妃は読んでいた『図解!よくわかる隣国の弱みと力関係』をパタンと閉じた。
「したいが無理だな」
「そうですね。政情がこれでは」
王妃が細く美しい眉尻を下げる。
「ああ。せっかく体力もついてそろそろいいだろうと思っていたというのに、あの隣国め…!」
最近自分の国にちょっかいをかけているハズマ国のことを考えて、王様は悔しそうに頭をかきむしる。
「抱き込まれた貴族達が、王子が生まれたら担ぎ上げて実権を奪おうなどと考えているみたいですね」
王妃は呆れた口調で返す。
戦争も困るけれど、内政干渉も厄介だ。どうやらハズマ国は、王様の国の貴族をそそのかして王の首をすげ替えて、傀儡政権を作ろうとしているようなのだ。余計なお世話である。
「あんのバカども!そんなことしたってすぐになんだかんだ理由をつけられて追い出されるか下手すれば処刑されるとわからんのか!」
家臣への苛立ちを吐き出す王様に、王妃は笑みをこぼした。
「ふふっ」
「…何を笑っている」
王様が、うらめしげな目で王妃を見る。
「申し訳ありません。陛下が立派に成長されたのが嬉しくて」
王妃は、それに対してにこりと微笑んだ。慈愛あふれる笑みに動揺して、王様は顔を赤くする。
「何目線だ!…こんなものすぐに片づけて子づくりするからな!」
それをごまかすように王様は力強く宣言した。
「はいはい。頑張ってくださいね」
それをいつも通り、軽くいなす王妃。
「はい、は一回だ!」
八つ当たり気味に叫ぶ王様。
「はい。おやすみなさい」
未だ口元を柔らかく綻ばせたまま、王妃はそう言って寝台に横たわった。
それを見て、王様は小さくため息をつく。
すぅ、すぅ。
いつも通り、すぐに王妃の寝息が聞こえてきた。
「…おやすみ」
王様は、王妃の寝顔をしばらく見つめていた。