14歳
「おい!王妃!今日こそするぞ!」
「一応聞きましょう。何をです?」
大声で宣言した王様に、冷めた目を向ける王妃。手の中の『これであなたも超一流!大臣・官僚の転がし方と弱みの握り方』をやや乱暴に閉じて、王妃は王様をじっと見つめた。
「子づくりだ!!!」
その冷たい視線にもめげず堂々と言い放った王様に、王妃は盛大なため息を返した。
「はーーーーーーーーーーーー」
「ため息だけとかやめろ!」
喚く王様に、王妃は冷たい視線のまま話しかける。
「………陛下」
「何だ!」
「最近、学園の成績落ちてきてますよね」
蔑むような視線を向けられ、王様は少し怯んだ。
「ぐっ!それがどうした!」
気まずそうにしつつも開き直る王様。
王妃の視線に、険がこもった。
「それがどうしたじゃないですよ。今はまだ大臣たちが回してくれていますが、いずれ陛下がこの国の舵をとるのですよ」
「当たり前だろう!俺が王なのだからな!」
何を当たり前なと言わんばかりなその返事に、王妃の眉が一気に釣り上がった。
「その陛下が!歴史も外国語も交渉術もギリギリの成績でいいわけないでしょう!王の仕事舐めてんですか!!?」
初めて声を荒げた王妃を前に、王は完全に腰が引けた。
「い、いや、でも、そのために家臣たちがいるわけだし…」
しどろもどろに言い訳するが、そんなものが王妃に通じるわけがなかった。
「それは勉学を疎かにする言い訳にはなりません!あなたは仕える価値のある人間にならなければならないのですよ!」
王妃は本気で怒っている。
こんな王妃を王様は初めて見た。
これ以上怒られたくないのもあって、王様は無理やり話を戻そうとした。
「いや、えっと…話がそれたな。今は子づくりの話をしていたはずーー」
しかし途中できっぱりと遮られる。
「しません!」
「え?」
「しません」
「いや、しかしーー」
「そんな体力があるなら勉強してください」
王妃はピシャリと言った。
「いや、勉強もするからーー」
そんな王様を王妃は胡乱な目で見る。
「…陛下の年ごろの男子がそれを覚えるとサルになるそうです」
「サル?」
王様は意味がわからず首を傾げた。
まだ幼さの残る、細い首を。
「そればっかりになるそうです」
「いや、そんなバカな」
「だからしません」
ツンと顎を上げて宣言する王妃。
取り付く島もなかった。
「いや、その」
「おやすみなさい」
王妃はそう言って上掛けを被った。
「いや、待ーー」
そんな王妃に、王様は手を伸ばそうとしたが、
「お や す み な さ い」
寝転んだまま自分を睨みつける王妃の眼力に負けた。
「………おやすみ」
肩を落として王妃の隣に潜り込むと、おとなしく目を瞑った。
すぅ、すぅ。