11歳
「おい!今日こそするぞ!」
「何をですか?」
王様の声に、王妃はベッドの上で読んでいた本から顔を上げた。
ちなみに本のタイトルは『上手な不正の見抜き方 〜お茶会の有効活用と発見後の処理について〜』。前王妃の手書きの指南書だ。
「くっ……言わせるな!子づくりだ!子づくり!」
まだ幼いため言葉にするのは恥ずかしいのか、顔を赤くする少年。
「はー。相変わらず陛下はバカですね」
そんな少年を、少女はパタンと本を閉じながら呆れた表情で見た。
「ため息をつくな!聞いたぞ!その……この前……初めて……」
そこで少年は口ごもった。
「ああ、月のものですか?」
「さらっと言うな!言い淀んだこっちがバカみたいじゃないか!」
何でもないことのように言われて、少年は噛みついた。
「みたいって言うか、陛下はバカですけどね」
「だからバカと言うなとーーすぅ、はぁ。……まあ、いい。それより体の準備ができたのなら今度こそーー」
「本当におバカさんですね、陛下は」
そしてまた少女にさえぎられた。
「バカって言うな!さんを付ければいいってもんじゃないぞ!何がだ!」
怒りながらも律儀に問い返す少年に、少女は答えた。
「今はまだ、一番最初の準備が整っただけなんですよ。今産んだら結構な確率で未熟児や死産になりますよ。障害が残っても火種の元ですし」
「…………え?」
思ってもいなかった言葉に、少年はショックを受け目を見開いた。
「それに今産んだら、出産時に私が死ぬ確率も高いです」
そこにさらに衝撃的な事実を知らされて、少年は固まった。
「………………………………え?」
「成長しきっていない体に、出産は負担が大きいですから」
そんなこと誰も教えてくれなかった。
みんな早く世継ぎを作れとしか。
「………え?……そう……なの……か?」
なんとか口を動かす。
「はい」
少女は、怒りもせずに淡々と頷いた。
そんな大事なことを知らずに、ただ家臣達に言われるままに行為を成そうとしていたのかと、少年は青ざめ俯いた。
そしてしばらくしてから、少女に小さな声で謝罪した。
「……………悪かった」
それに対し、少女はいつもの調子で返す。
「いえ、陛下がおバカさんなのは承知していますから」
あまりにいつも通りに自分にバカと言う少女に、少年は反射的に言い返そうとして顔を上げた。
「だからバカって言うなとーー!」
しかし、あろうことか少女はすでに横になり目を閉じていた。
すぅ、すぅ。
静かに寝息を立てる少女の穏やかな寝顔を、少年は呆然と見つめる。そしてゆっくりと息を吐き出した。
「……はぁ。まったく本当におまえは…………おやすみ」
あっさり許され気が抜けた少年は、少女の隣にどさりと寝転ぶとすぐに眠りに落ちた。




