おやすみのキス
ゴタゴタ真っ最中の頃の二人。
ギシリと微かに寝台が軋む音に王妃は目を覚ました。マットレスが沈み、身体が少し傾く。王様が寝台に上がったのだろう。
「起こしてしまったか」とすまなそうに言われたくなくて、王妃は眠ったふりを続ける。
王様は今日も遅くまで執務が終わらなかったのだろう。最近はずっと、王妃が眠ってから帰ってきている。
心配になって、こっそり毛布の端を握る王妃。
もっと私が手伝えることがあれば良いのだけれど…。
目を閉じてじっとしている王妃の髪に、何かが触れた。
そのままそっと撫でられる。
優しい手つき。
王様の手だ。
うっとりしながら、寝たふりを続ける王妃。
王様と王妃は、昼間にこういう事をしたことはまだない。
私的な場で王様が近づくと、つい恥ずかしくなった王妃が一歩引いてしまうのと、王様もそんな王妃に追撃できないのが原因だ。
今は…今も王妃はドキドキしているけれど、部屋は暗いから顔色なんて見えないし、寝たふりをしなければいけないから…
そう言い訳して、王様の手の感触を大人しく受け入れる。
このゴタゴタが、早く終わればいいのに…そうしたらもっと陛下と一緒にいられて、もっと陛下と……
想像に王妃の顔が赤くなる。
陛下のあの腕に抱きしめられたら、どんな感じなのだろう…。
そんなことを考えていたら、不意に右手を取られた。動揺しながらも息を殺して寝たふりを続ける王妃。
そのままスッと持ち上げられ、何か温かいものが手の甲に触れた。
そして
ちゅっ
と、明らかに唇の触れた音がした。
王妃の顔が、一気に燃えるように熱くなる。
今、部屋が暗くて本当によかった。
そう思うくらいに顔が真っ赤だ。
心臓が大きな音を立て跳ねている。王様に聞こえてしまうのではないかと、思ってしまうくらいに。
けれど王様は
「おやすみ」
穏やかにそう囁くと、王妃の手を握ったまま静かに身体を横たえた。相当疲れていたのだろう。すぐに寝息が聞こえてくる。
握った手の指は、絡められたまま。
………おやすみなさい
王妃は心の中で返事をして、絡めた指先にほんの少しだけ力を込めた。




