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しようとする王様と防ぐ王妃【完結】  作者: オリハルコン陸
おまけ

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12/18

王妃の父親による回想1

私には娘がいる。

まだ十にもならない頃に、嫁に出した娘が。

…本当は嫁になどやりたくなかった。

しかもあんなクソガキなんかに。



けれど仕方がなかったのだ。

この国の王と王妃が一度に身罷って、彼らの残した唯一の王子はまだ8歳。亡くなった王には弟が一人いたが、とうの昔に他国の公爵家に婿入りしていた。そんな相手を王子が成長するまでの期間限定で呼び戻す訳にもいかず、他に兄弟はなし。遺された幼い王子を、今すぐ王に立てるしかなかった。


ただ、正当な王位継承者とはいえ王子はあまりに幼すぎた。だから成長するまでは補佐が必要だった。


上位貴族の話し合いの結果、王を結婚させて妃の実家が摂政として支えれば良いだろうということでまとまった。


摂政として国を動かせるとはいえ、あくまで期間限定のものだ。今、揺らいでいるこの国を支え、王が成長し政務に関われば関わるほど、権限を王に返上し最終的にはその座を引かなければならない。得る物より苦労ばかりが多いそんな立場に、先を争ってまで就きたがる物好きはいなかった。

一度手に入れた物を奪われることほど腹立たしいことはそう無いからな。


そもそも『楽して得する』。

それが我が国の貴族の基本姿勢だ。


そんな訳で、押し付け合っ…譲り合っ………色々調整した結果、うちの娘を王にくれてやることになってしまったのだ。


公爵家という立場。

他の公爵家には年ごろの娘がいなかったこと。そして私が今まで真面目に前国王に仕えてきた所為で、王の権威を揺るがすような真似はしないだろうという、周囲からの信頼だか侮りだかよくわからないものによって。


…こんなことなら不正の一つ、いやせめて怪しげな噂の一つくらい立てておくんだった。


そう思うが遅きに失した。



前王と前王妃のことは尊敬していたし、学園に共に通っていた頃からの浅からぬ付き合いもある。だがたとえ彼らの息子だろうと、あんな右も左もわからぬ子どもにうちの娘をくれてやるのは……


別に摂政自体はいいのだ。

私もこの国の貴族だ。国を守る義務くらいは自覚している。国の危機に、多少の労苦を厭うつもりもない。

今の暮らしに不満もないから、将来的に摂政職を返上することにも特に思うところはない。


…だが娘は別だ。


折角、公爵家という立場に生まれたのだ。男なぞよりどりみどりだ。

年頃になったら、身分も見た目も性格も最高の男を選んでやろうと決めていたのに。

なんでこんな、将来どう転ぶかもまだわからん相手に、うちの小さな女神をくれてやらなければならんのだ!


そう言いたかったが、言って決定が覆る訳もない。

だから仕方なく受け入れた。



…受け入れはしたが、やはり嫌で、その日は酔って妻に愚痴った。そうしたら珍しく頭を叩かれた。

パン!と小気味好い音が寝室に響く。


「愚痴っている暇があるなら、娘の為に少しでも国を安定させてください!」


どうにもならない事をグダグダと愚痴り続ける私を、腰に手を当てキッと睨みつける妻。

凛々しくも美しい。

この気の強さに惚れて、彼女と結婚したのだ。


女はやはり、こうでなくては。


叩かれた頭を撫でながら惚れ直した。


確かにそうなのだ。

まだまだ死ぬような年ではなかった王と王妃を突然失った我が国は、今揺らいでいる。

ここで下手を打てば変な気を起こす貴族が出るだろうし、国民にも不安が広がるだろう。

周りの国も、隙を見せれば当然ちょっかいをかけてくる。

だからここは、気合いを入れなければならない。



もう変えられない事なのだからと腹をくくった私は、めでたくもない娘の結婚式を盛大に執り行うことにした。


民からの人気も高かった前王たちの喪に服す国民たちに、幼く可愛らしい我が娘とついでに小さな新王を披露する為に。


輿に乗せて豪奢な衣装を着せて、これでもかと飾りつけた王都中を練り歩かせた。何十組もの音楽家を招き、尽きぬほどの酒を皆に振る舞って。この先もこの国は安泰だと、民に、近隣諸国に示して見せた。


こういった盛大な催しをつつがなく実行するには、金と力がいる。その両方とも我が国には未だにあるのだと示したのだ。


後はお祭り騒ぎにかこつけて稼ぎに来ていた吟遊詩人や商人たちが、他の国にも噂をばら撒いてくれた。


我が娘は幼く愛らしいのに凛としているから、将来は素晴らしい王妃になるだろうと噂されているようだ。

まあ、当然だな。

娘の添え物になっていた新王(ちんちくりん)も、娘のおかげで9割増しはよく見えたのだろう。

「将来が楽しみだ」と囁かれているようだ。


泣いて娘に感謝しろ。



そんな訳で、第一段階はひとまず上々。とりあえず一、二年は稼げただろう。

この間に、もっと国を安定させなければ。




◇ ◇ ◇



摂政になってから、今までの倍は忙しい気がする。妻との時間も随分減ってしまった。

この努力と苦労の成果を、結局は全てあの子どもにくれてやるのかと思うと腹立たしいが、それが娘の夫だと思えば諦めもつく。あの子どもの立場の影響を一番受けるのが、愛しい我が娘なのだから。



娘には互いの立場もあってあまり会えないが、その代わり本を頻繁に贈っている。手に入りにくい、女性ならではの政治への介入方法を説いた本を中心に。


元々読書好きな娘のことだ、きっと将来に役立ててくれるだろう。




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