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しようとする王様と防ぐ王妃【完結】  作者: オリハルコン陸
おまけ

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初恋の話 後編


王様が、お酒を煽ってクダを巻く。些細な嫌味や恨み言をこぼしながら。

王妃も付き合って飲みながら、聞き流し気味に相槌をうつ。


王様たちが飲んでいるお酒は、度数のごく軽いものだ。

けれど雰囲気というものは恐ろしい。王様は完全に酔っ払いモードになっていた。自制心の欠けた王様が、ポロポロと言葉を落とす。素面なら言わないようなこともたくさん。


そして王妃は知った。

王様の初恋が自分だったことを。


そう聞かされて、王妃はとても嬉しくなってしまった。今の王様に愛されている自覚はあるけれど、それでも王様が初めて好きになった異性が自分だというのは、とても嬉しいことだったのだ。


じゃあ私は、陛下が好きになった唯一の…


そう思った王妃の顔が美しく火照る。

けれど、そこで王様(酔っ払い)が要らないことを付け足した。


「でも俺だって、途中で他の女を好きになったんだからな!」


………何の対抗意識なのだろうか。

それを聞いた王妃の顔色が見事に変わった。そして、びっくりするくらい低い声を出した。


「……どなたですか?」


途端に酔いの覚めた王様は、視線をさ迷わせて及び腰になる。


「陛下が途中で目移りした方はどなた?」


阿呆な貴族を追いつめる時の猫撫で声で、王妃は王様を問い詰める。


これならまだ、初恋がその人でその後私を好きになってからはずっと私一筋だと言われた方が遥かによかった…


上げてから落とされた王妃の心は荒れに荒れていた。詰め寄られた王様は口をパクパクさせる。


「陛下が私に飽きて好きになってしまった、私より魅力のある方はどなた?」


王妃は王様に顔をグッと近づけた。

泣きそうに歪んだ顔を。


また起こるのかしら、そんな事が

今は私を好きでいてくれても、他の女性の方がよくなってしまう事が……また、あるのかしら……


酔いで脆くなった王妃の心が、不安でいっぱいになる。綺麗なアーモンド型の瞳が、涙で満ちる。

王様はそれを呆然と見つめた。


王妃の目から、透き通った雫がこぼれ落ちた。


次の瞬間、王様に詰め寄って睨んでいた筈の王妃は、温かい腕に強く抱きしめられていた。


「…泣くな」


王様の少し困ったような、でも低くて落ちつく声が王妃を宥める。


…何を言っているんだろう…私は泣いてなんて…


王妃はそう思ったけれど、押しつけられた王様のシャツがどんどん濡れていく。


…嫌だ…まさか私…泣いてる?


王妃の顔が、カアっと熱くなった。


陛下の想いが他に移ったらと想像しただけで泣いてしまった。…泣いている自覚もなしに。恥ずかしすぎる。


私、どれだけ陛下の事が好きなの……


自覚して狼狽える王妃の髪を、大きな手が何度も撫でる。


「失言だった、許せ。あの頃の俺は……サルだったのだ」



……サル。



その言葉で、乙女モードだった王妃の思考はカチリと切り替わった。


一昨年生まれた二人の子どもの王位継承権をひっくり返すような何かが、その女性との間にあったのではないか


そんな考えが浮かんだ王妃は、自分を抱きしめていた王様の襟をガッと掴み上げた。


「まさかその女性と関係を結んだりなど!」


凄い剣幕の王妃に襟を締め上げられ揺すぶられて、王様が苦しげに呻く。


「ぐっ…バカを言うな…王の子種なぞ軽々しくばら撒けるかっ…」


サルな頃でも自制心はあったようだ。

王妃はほっとして手の力を緩めた。

片手で喉をさすりながら、もう片方の手で王妃を再び抱きしめる王様。


「ちょっと大きな胸に見惚れていただけだ。許せ」


その言葉に、安心も手伝って王妃は少し拗ねてみせた。


「…あの頃の私、ペタンコでしたものね」


「…でも愛らしかった」


「!?」


予想外の反撃に動揺する王妃。


っ…陛下は本当に、いつの間にこういう真似を……


王妃は唇を噛み締める。知らない間に口の上手くなっていた王様に、いとも容易くドキドキさせられるのが少し悔しい。


「…他の方の胸に目移りしてた癖に」


「………そこはまあ、若さ故だ。見るくらい許せ」


王妃の頭に、慣れた仕草でキスを降らせる王様。

何度も何度も。

繰り返されるうちに、王妃はもう拗ねるのやめようかな、という気分になってきた。

だから最後に上目遣いで釘を刺した。


「…もう二度と、目移りしたら嫌ですよ?」


すると王様は王妃をガバリと抱きしめて


「っ…おまえこそ、もう騎士団長だろうが宰相だろうが他国の王だろうが何だろうが、俺以外を好きになるなよ!」


と、ちょっと不安そうな声でまくし立てた。


もう当時9歳の子どもだった私とは違うのに。今は、陛下以上に素敵な人なんてこの世にいないと思っているのに


少しだけ呆れつつも、王妃はそんなところも好きだと思った。

だから優しく呟いた。


「本当に陛下は、相変わらずおバカさんですね」


あの頃とは違って、生涯の伴侶に向ける愛しさを込めて。

   



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