第7話 遭遇
キャンプ地を出発してから3時間。シグドナル達は薄暗い森の中を進んでいた。目標地点であるファウドラ国の首都ゲルビナードは馬で行くと5日はかかるが、このカーデンロイドを使えば3日で到着する予定だ。
「リリーグ中尉。現在位置は?」
「はい。今確認します。」
リリーグは地図とコンパスを取り出すと現在位置を調べ始めた。
「現在位置はキバロスフィアの森南西で、このまま進むと、ヴァイ湖という湖があります。」
「よし。その湖で一度休憩しよう。」
「わかりました。」
リリーグがコンパスと地図をポケットに仕舞おうとしたその時だった。シグドナルが急ブレーキを掛けた。その衝撃でリリーグは頭をぶつけた。後ろの荷台からも物凄い轟音が聞こえた。
「イッターイ!どうして急ブレーキを踏んだんですか少佐!」
しかし、シグドナルは答えずに双眼鏡を持って戦車の外に出ていってしまった。リリーグもその後を追う。外に出ると、シグドナルが双眼鏡を使って何かを見ていた。
「リリーグ中尉。あれを見てみろ。」
そう言って、双眼鏡を手渡されたリリーグ中尉はシグドナルが指差す方向を双眼鏡で覗いてみた。すると、何かが土煙をあげながらこちらに向かってくるのが見えた。
「あれ何ですか?」
「分からない…もしかすると、帝国軍の連中かもしれない。」
「帝国軍!?」
「チクショウ!開始早々厄介なことになった!総員!戦闘体制を取れ!」
シグドナルは慌てて、戦闘体制をとるように指示した。荷台から銃を持ったビリーやウィグが急ぎ足で降りてきて、銃を構えた。
「いいか!私が合図したら一斉射撃するんだ!」
シグドナルは敵との距離を調べる為に再び双眼鏡を覗き込んだ。だが、双眼鏡を覗き込んだシグドナルは慌てた様子で叫んだ!
「銃を降ろせ!全員銃を降ろせ!」
リリーグ達は突然の攻撃中止に驚いたが言われた通りに銃を降ろした。そしてシグドナルは拡声器を取り出すと戦車の上に登り、叫んだ。
「ATMJTMDG!」
シグドナルがリリーグ達が聞いた事のない言語で叫ぶと、遠くで見えていた土煙が消えた。
「JURMPAJT!KTNTJPTDUAM!」
シグドナルが再び叫ぶと土煙の正体がゆっくりと姿を現した。それは上半身が人間、下半身が馬の姿をした魔物『ケンタウロス』だった。しかも一人ではなく十数人居て、全員が鎧で身を纏い、槍を持っていた。
するとケンタウロス達の中から一人の青髪の女ケンタウロスがシグドナルの前に出た。
「KJTDKJM!TJPMMTMMGSJUPKPHAJJWUUTGMGWGMPJDMGMJMGMGMKMGNJMGMMPWNPMGMTMTMTMDPMPKJG?」
青髪のケンタウロスは先程の言語で、シグドナルに何かを質問する。
「KPJJAJM,WMPKUMTJMGWGWPMPMGWGWGTNPMGWMGPMPMGMGMGTMJMPMDPTMT,GUPMKMQLMLBGJEJTMKGPJBGIVJNJAJTJUHJGPEKGKGKGMJDJAJMKPKAJAKBJAGJ,」
シグドナルも同じ言語で応対しているようだった。
「少佐は何語を話しているのかな?」
「…あれは古代の魔物の言葉『リュティカルーン』」…」
リリーグの疑問にウィグが答えた。
「古代の魔物の言葉ですか?」
「…そう。未だに解読されていない部分もある謎多き古代の言語…でも少佐はそれを完璧に使いこなせてる。何故少佐が古代の魔物の言語を使えるのか…私はそれが知りたい…」
やがて、話が一段落したのかシグドナルは青髪ケンタウロスを連れてリリーグの所に来た。
「リリーグ中尉。こちらは『ティターニア・レドナード』さんだ。ヴァイ湖のそばにあるレゴナ村の村長さんの娘さんらしい。」
シグドナルが彼女の事について説明した。
「村長さんの娘さんなのですね。初めまして!帝国軍歩兵部隊のリリーグ中尉です!って、人間の言葉じゃ通じないですよね…」
すると、ティターニアはクスッと笑うと…
「大丈夫ですよ。人間の言葉は分かりますから。」
「え!?そうなのですか!?」
「はい。私、いつもは村で先生として働いてますから。では改めて、私はティターニア・レドナードと申します。この先にありますケンタウロスの村『レゴナ村』の村長の娘です。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
その後、シグドナルが部隊のメンバーを1人ずつ紹介していった。
「さて、自己紹介も終わったし早速本題に入ろう。」
「本題って何ですか少佐?」
「実は彼女、私達に頼みがあるんだってさ。」
「頼みって、一体何だよ?」
「それは私がご説明します。」
そう言って、ティターニアは語り始めた。
数日前、レゴナ村はトロール達の襲撃されたのだという。トロールとは、森や沼の巨人と呼ばれている魔物だ。ワニのような顔に、気持ち悪い粘液で覆われた体を持ち、とても臭い。普段は沼の奥底で眠っているが時々目覚めては周囲の物を手当たり次第に破壊するという恐ろしい魔物だ。レゴナ村のケンタウロス達は必死にトロール達と戦ったが、全員捕らえられてしまったらしい。
「私達は運良く逃げ出すことができましたが、この数では奴等に太刀打ちできません。トロールを退治できる人を探していたという訳です。」
ティターニアが話し終わると、リリーグは少し考えた。
「トロールですか…私は見た事ないですが、少佐は見た事あります…ヒッ!?」
シグドナルの顔を見たリリーグは小さな悲鳴をあげた。そこにいたシグドナルは鬼の様な恐ろしい形相を浮かべていた。
「トロールか…」
「少佐…もの凄く怖い顔してますけどけど…どうしたんですか…」
「!…すまない。昔の事を思い出してた。私もトロールには会った事がある。もうずーっと前、私がまだ新兵だった頃にな。あの時、私達は不気味な沼地の辺りを歩いていた。そしたら急に奴等が襲いかかって来た。数は十数匹ぐらいだったかな…そして、見境なく私の隊の隊員達を殺し始めた。もちろん私は急いでその場にいたトロールを皆殺しにした。だが私が討伐し終えた頃には、半分以上の隊員が死んでしまった…奴等が憎い。奴等にとって、人を殺すのは遊びに過ぎない。だからこそ、私は奴等に襲われている人がいたら助ける。」
「それって!」
「あぁそうさ!レゴナ村を取り戻しに行くぞ!どのみちあそこを通らなければ行けないからな。総員乗車!」
シグドナルが大声を張り上げると、みんな一斉に車内へ戻った。
「ティターニア。案内を頼む。」
「分かりました。こちらです!」
ケンタウロス達に続いて、シグドナル達を乗せたカーデンロイドはレゴナ村へと向かった。