第6話 出発
翌朝早く、シグドナル達は貯蔵庫から作戦に必要な荷物を運び出していた。辺りには大量の木箱が山積みになっていた。
「少佐。この量の荷物をどうやって運ぶんですか?」
「もう少ししたらわかるさ。」
その時、遠くの方から轟音と土煙をあげながら何かが向かってきた。それは鉄の塊に、走行用のキャタピラをつけた奇怪な乗り物だった。よく見ると、その乗り物の後ろには荷車に同じキャタピラをつけたようなものを2台連結していた。リリーグはこんなに変わった乗り物を見た事がなかった。
やがてそれは、シグドナル達の目の前で停車した。
「これが私達の馬になる『ガーデンロイド』だ。」
「カ、ガーデンロイドってなんですか?」
「このガーデンロイドってのは、1000年以上前に作られた戦車さ。」
「「「せ、1000年前!?」」」
その場にいた全員が、驚きの声をあげた。
「これ…本物ですか?」
「もちろん本物さ。」
「ど、どうしてそんな物を少佐が持ってるんだよ!?」
「実は数年前に戦地で地面に埋もれていたのをたまたま見つけてね。彼女と一緒にこいつを動けるまでに直したんだ。」
「彼女?彼女って一体誰ですか?」
「今から紹介するさ。おーい!大丈夫だから出てこい!」
シグドナルがガーデンロイドに向かって呼びかけると、カーデンロイドのハッチがパカッと開いた。すると、中から角の生えた緑色の女の子が姿を現した。その姿にリリーグは見覚えがあった。その子は、一昨日見たファイルに乗っていたオーガの娘だった。
「じゃあ、改めて紹介するよ。この子がオーガ族の娘『ティカトニア』だ。」
ティカトニアは緊張しているのか、ハッチから顔を出したまま動かない。
「ティカトニア。こいつ等が今回の作戦に参加するメンバーだ。」
「よ、よろしくお願いします。」
リリーグが代表的な感じで挨拶をした。
すると、ティカトニアはカタコトだったが、はっきりと聞き取れる人間語で言った。
「オねぇさマガいつモおせワニなってマス…」
その一言にその場にいたティカトニアとシグドナル以外の全員が耳を疑った。
「「「お、お姉様ぁ!?!?!?!?!?!?」」」
「しょしょしょ少佐!?お姉様ってどういうことですか!?私聞いてませよ!?」
「そ、そうだせ!オーガの娘が少佐の妹って家族関係どうなってるんだよ!?」
訳が分からなくなり、パニック状態になったリリーグとビリーがシグドナルに詰め寄る。
「…少佐。ティカトニアとの関係をご説明願いたい。さぁ早く。今すぐ。」
珍しく、ウィグもパニックになっているようで、無表情のままシグドナルに詰め寄る。正直、これが一番怖い…
「お前達落ち着け!ティカトニアは私の本当の妹じゃ無い。」
「本当の妹じゃないってどういうことですか!?」
「このカーデンロイドを見つけた時、その中に彼女が居てね。とある事情で家族と逸れてしまったらしい。それで、行く宛のなかった彼女の面倒を私が見てあげる事にしたら、この通り懐かれちまってな。」
「オねぇサまヤサしイからスき。」
いつの間にか戦車から降りたティカトニアはシグドナルの腕にしがみついていた。
「でもその子、作戦に参加させて大丈夫ですか?」
「そうだぜ。身長も少佐より、小さいし。」
「何気に私の悪口だよねそれ。まぁ一応言っておくとオーガは不死身だし、年もお前達よりずっと年上だから。」
「何歳なんですか?」
「今年で700歳になるな。」
「「「な、700歳ぃ!?」」」
「お前達のリアクションホントに面白いな…まぁオーガと人間の寿命とかは違うし、ティカトニアも人間で言ったらまだ10歳ぐらいだから。本当は置いて行く予定だったんだが…」
「ワタシもおネぇサまにツイてく!」
「とまぁこんな感じで言う事聞かないし、家に置いてきて何か会ったら心配だからさ。」
(不死身で戦車も運転できる時点で心配するような事ないと思うのですが…)
昨夜は仲間のことが心配と涙を流していたのに妹として信頼してる実質11歳の子供を連れて行くのはなんとも思わないのかと思うリリーグ中尉なのであった…
「ワたシモ、おネェサまのタめニガんばル!」
「ありがとうティカトニア。でも、危なくなったらちゃんと逃げるんだぞ。さぁ、荷物を積んだら出発するぞ!」
「「「「「はい!」」」」」
数分後、全ての物資が荷台に積み込まれた。
シグドナルとリリーグはカーデンロイドに乗り込み、残りの四人は真ん中の荷台に乗り込んだ。
「さぁ、作戦開始だ!」
カーデンロイドがゆっくりと動き始め、キャンプ地を出発して行った。こうして、ゲルビナード作戦は幕を開けたのだった。